11月16日

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サッカー

J1 2nd第13節
鹿島アントラーズ×サンフレッチェ広島
(茨城・カシマスタジアム)
天候:晴れ、気温:13.6度
14時04分キックオフ、観衆:16,984人

(レポート・古賀祐一)

鹿島 広島
0 前半 0 前半 1 2
後半 0 後半 1

大木勉:43分
森崎浩司:56分

 試合の開始は午後2時4分にもかかわらず、気温は13.6度と肌寒かった。序盤から主導権を握ったのは鹿島。名良橋晃、秋田豊、中田浩二、小笠原満男、柳沢敦の日本代表を中心に中盤とFWが見事なボール回しを見せ、チャンスの山を築く。開始7分、駆け上がってきた名良橋がミドルシュート。そして16分、ゴール正面のFKを小笠原が直接シュート。さらに18分には、名良橋が右サイドを突破してクロスを入れる。ボールは中央に走り込んだ中田浩二のつま先ギリギリをすり抜けた。このあとにも25分、33分にはいずれもエウレルがゴール左に切れ込み決定的シュートを放つ。いずれも入ってもおかしくないシーンばかりだった。
 ところが先制したのは広島。前半43分、カウンターから服部公太が中央をドリブルで攻め上がって、最後はDFを引き付けて、右サイドの茂木弘人へ。茂木が中央へ折り返してゴール前で大木勉が押し込んだ。1−0で前半を終えた広島は後半も劣勢に回りながらカウンターのチャンスを待った。そして、後半11分、左サイドで久保竜彦が相手ボールをインタセプト。中田浩二を弾き飛ばす豪快なドリブルで突進。ゴール正面に上がってきた森崎浩司に折り返し、森崎浩司の豪快なミドルシュートがネットを揺すった。
 シュート本数は鹿島18本、広島9本。FKでも鹿島19本、広島10本。内容は圧倒的に鹿島に軍配が上がったが、勝負の行方だけは広島に傾いた。
 首位の磐田に勝ち点4差で2位につけていた鹿島は敗れ、磐田が勝ったために、優勝の可能性が消えた。逆に、年間総合順位で15位で早ければ17日の柏−東京V戦の結果でJ2降格が決定する可能性があった広島は逆転残留に望みを残す貴重な勝ち点3を手にした。

鹿島・トニーニョ・セレーゾ監督「ホームで久しぶりに負けた。これだけサポーターが後押ししてくれただけに残念。出来は悪くなかった。これまで負けた試合は内容も悪かったが、今日に限っては内容は良かった。前半30分までに1点決めていれば違った形になったと思う。相手が引いてくるのはわかっていた。ミスからカウンターを食うことを恐れ、注意しようと話していたが、前半ミスからボールを拾われ2回ほどピンチになった。サイドからいい形で攻めていたが、跳ね返されて、拾われて、焦りが出て思うような展開ができなくなった。サッカーではよくあるパターンにはまってしまった。相手は3トップだったので、うちがつないでいる時にカットされてDFの裏にボールが入るのを注意していたが、いくつかそういう場面があった。それにしても久保の動きは素晴らしかった。うちのサイドで彼がボールを持つと怖かった。スピードがあるし、気持ちが入っている分、個人技は脅威だった。うちも負けられない試合だと自覚していたが、広島も負ければ非常にまずい立場になる。そういう気持ちがこぼれ球を拾う勢いになった。うちも気落ちしていなかったが、相手がまさっていた」

鹿島DF名良橋晃「負けたけど内容は悪くない。あと2試合最後まで戦い抜きたい。(日本代表対)アルゼンチン戦は厳しい戦いになる。ホームだし全員で戦いたい。左太腿は痛みはある。痛み止めを飲み、塗り薬を塗ってプレーした。18日に検査を受けて(代表合宿参加か辞退か)決める」

鹿島MF本山雅志「残留争いをしている勢いがあるチームだった。先制点が必要な時に相手に1点を取られてしまった。ただ、残り2試合あるので最後までいい形でやっていきたい。ボールは回っていたけど、ラストパスの精度が高くなかった」

広島・木村孝洋監督「我々にとって負けられない試合で結果が出てよかった。ボールを持てる時間は長くないと思っていたが、いい時間帯に先制できて追加点も取れた。いい試合だった。(試合前に)いらいらせず、自分たちのサッカーをしようと指示した。全員がよくやった。3バックは相手を良く止めた。我々にも希望が見えてきた。次の試合が大事。2試合とも勝ちに行く。いい試合をしても勝てない時期もあったが、我々もやれば勝てるというのが見せられてよかった」

広島FW大木勉「シュートを打った時は入るかどうか確信がなかった。もしかしたらという思いで思い切り蹴った。ダフりました。点を決められたことが僕自身にとって大きな自信になった。来週の試合に向けていい準備をしていきたい」


「負けられない気持ち」

 勝負とはわからないものである。そして、サッカーとはわからないものである。
「サイドからいい形で攻めていたが、跳ね返されて、拾われて、焦りが出て思うような展開ができなくなった。サッカーではよくあるパターンにはまってしまった」という鹿島・セレーゾ監督のコメントが試合展開を端的に表していた。内容では鹿島が完勝。だが、結果は2−0というスコアで広島が勝った。11人それぞれが高いレベルの技術を持つ鹿島は終始、ピッチを支配した。シュート数が広島の2倍もあるという数字以上に両チームの内容には差があった。特に前半の見事なボール回しは、磐田と並ぶ日本を代表するクラブであるにふさわしい芸術とも言えるものだった。ただ、回すだけでなく、相手を動かし、徐々にスペースを作り、一気にゴール前のチャンスを作る。前半の決定機はそうした優れた判断、正確な技術の積み重ねで作られた。
 この日は、20日に日本代表と対戦するアルゼンチン代表のマルセロ・ビエルサ監督がスタンドから視察した。もちろん、鹿島に在籍する6人の日本代表選手を生でチェックするためだったが、この試合での鹿島のボール回しは世界的指揮官をもうならせたに違いない。
 しかし、サッカーというスポーツに「判定勝ち」はない。一瞬、1つのプレーで90分が台無しになることもある。広島の得点はいずれもカウンターだった。1点目は名良橋がドリブルのボールをカットされてピンチを招いた。そして、2点目も中田浩二が久保に強引にインターセプトされたのが発端だった。奇しくも日本代表選手のミスから失点してしまったのだ。
 この2チームには違ったモチベーションがあった。鹿島には、試合前まで優勝の可能性が残っていた。一方、広島は負ければ、J2降格が濃厚になる。どちらも負けられない試合だった。しかし、両チームのモチベーション、メンタルには微妙な温度差があったと思う。鹿島の優勝は、磐田の動向次第でようやく可能性が残るというもの。鹿島の選手に「優勝する」という気持ちを維持させるには難しい状況だったかもしれない。しかし、広島の場合は負けることが自分たちの将来に直接的にかかわってくる。そうした厳しい現実が、よりストレートなモチベーションになったはずだ。
「うちも負けられない試合だと自覚していたが、広島も負ければ非常にまずい立場になる。そういう気持ちがこぼれ球を拾う勢いになった。うちも気落ちしていなかったが、相手がまさっていた」セレーゾ監督の敗戦の弁こそ、その差を象徴する。
 広島の選手には「命がけ」に近い切迫感があった。その気持ちが、こぼれ球への出足、タックルの激しさにつながった。2ゴールがいずれも体を張った守備で、相手ボールを奪ったところから始まっているのは、その証拠だ。2点目の場面、ボールを奪った久保が反則ぎりぎりの体当たりで中田浩二を突き飛ばしたプレーなどは広島の選手の気持ちの表れだろう。そして、シュートの思い切りのよさ。大木も森崎浩司も「思い切り蹴った」と振り返っている。技術を超えた開き直ったプレーが結果として勝ち点3奪取につながったのだ。
 広島は首の皮1枚J1残留に生き残った。次節は年間総合14位で残留争いのライバルの柏との直接対決。その結果次第で逆転残留の目が出てくる。もしそうなれば「奇跡」と言っていいだろうが、この試合での広島の選手たちの闘志を見れば不可能な「奇跡」ではないと思う。



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