10月26日

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サッカー

J1 2nd第11節
横浜F・マリノス×ジュビロ磐田
(東京・国立霞ヶ丘競技場)
天候:曇り、気温:16.3度
15時00分キックオフ、観衆:34,115人

横浜 磐田
1 前半 0 前半 2 3
後半 1 後半 1
58分:オウンゴール


高原直泰:1分
高原直泰:30分

中山雅史:84分

試合データ
横浜   磐田
5 シュート 10
9 GK 10
4 CK 2
21 直接FK 20
5 間接FK 1
0 PK 0
 第1ステージでは磐田に土をつけている横浜(4月、3−1)だが、立ち上がり1分、磐田の体を張ったプレーからボールを奪われてゴール前、得点王タイトルを争う高原直泰に最後まで持ち込まれてシュートを打たれる。立ち上がりの、まだ守備が安定していない時間帯の最初のシュートをゴールされ、試合展開を難しくしてしまう。また30分にも、DFラインでチャンスを窺っていた高原に、オフサイドぎりぎりで走りこまれてフリーに。ヘディングでDFを割られ、0−2とされた。後半、13分にはオウンゴールで1点差とし、中盤の動きでも互角に戦う時間帯があったが、ポジショニング、連携など細かなミスをし、結局、追加点を許して1−3で完敗を喫してしまった。また、FWウィルは、後半32分に警告を受け、その10分後にファールから2枚目のイエローで退場。直後に、味方のMF奥 大介に、フラストレーションからか蹴りを入れてしまい、今後、リーグ、クラブからの厳罰が予想される。
 磐田は、仙台、広島と3連勝でオフを迎え、第1ステージ、第2ステージ完全制覇実現までにじっくり態勢を整えることができる余裕を見せた。


「平凡なコミュニケーション、非凡なコミュニケーション」

 小雨と急激に下がった気温に震えながら見ていたサポーターも、何が起きたのかわからなかったのではないだろうか。
 後半終了間際の42分、横浜のFWウィルは、スライディングでこの試合2枚目のイエローを受けたあと、そのジャッジメントには目もくれずに一直線で、味方の奥のところへ。そこで、奥に一発蹴りを入れてしまった。奥は、一瞬何が起きたのかわからないようにあ然とし、チームメイトも驚いた顔をしていたが、ウィルは自分のタイミングでパスが受けられないなど、コミュニケーションがうまくはかれず「かなりイライラしていたようだ」(下条監督)と、前代未聞、味方へのキックを犯してしまった。
 蹴りを入れられた奥は試合後、「彼(ウィル)が意図したのとは違うプレーになったのかもしれないけれど……痛かったです」と、呟いた。味方へのこうしたプレーでも、十分に「非紳士的行為」として処分対象になる。
 試合後、マッチコミッサリー、審判は前代未聞の不祥事を重く見て、今後リーグでもクラブからの報告書の提出を求めて行くなど、大きな波紋を呼ぶ一蹴りとなった。
 下条監督は試合後、「(あの行為は)やっちゃいけないこと。私としては、チーム全員の前でまず謝罪させてから考えたいが……クラブがどう判断するかはまた別の問題になると思う」と話し、ウィルの起用を当分は見合わせる意向を示している。クラブ側も罰金などを含めて厳罰を検討せざるを得ない事態である。

 チームにとって、見ていたファンにとって、無論、蹴られた奥にとって、本当に痛かったのは「足」ではないだろう。痛みは、何か別の部分にあったはずだ。
 ウィルの行為と対極にあるのが、磐田の1勝だったかもしれない。
「一人一人が体を張ってプレーをして、3点目を奪えたと思う。完全優勝への不安は、今日の試合を見る限りは見つからないと思う。みんな、何が大事かわかっているから」
 磐田のキャプテン・服部年宏は試合後そう話し、苦しかった3連戦を乗り切った手ごたえを口にしていた。
 体を張って、と言うのは簡単だが、この日の磐田のプレーは、1点目も、名波 浩の体を張ったスライディングからスタートしたプレーを高原がゴールに結びつけたものであるし、3点目も中盤の激しい鍔迫り合いから応酬したボールを、名波から高原、ダイレクトで中山雅史とつなぎ、逃げ切ったものだった。
「同じ相手(横浜)に2度負けるのは、優勝を目指すチームとして恥ずかしい」
 名波はファーストステージで敗れた1戦に、そう臨んでいたという。
 マグロン(G大阪)としびれるような得点王争いを続けている高原も「(得点王は)チームが勝って、全て終わって(完全優勝して)からついてくればそれでいい。苦しい状況の中で、中山さんとどちらでもいいからFWが点を取り続けなくてはならない」と、自らのタイトルへの質問に対してはまるで無関心である。

「チームプレー」というのは綺麗事では実現できない。表には出ない自己犠牲の形もあれば、強烈な自己主張もある。ぶつかり合いは常にあるので、悪いに決まっているウィルのプレーを「道徳的に」論じれば、ひどく平凡な話になってしまう。
「信頼している」と言葉で示す代わりにパスを、奮起を促すために味方を罵倒するより1本のスライディングを、不平をもらすよりも誰もが驚くようなプレーを、そうやって互いの気持ちを読み取り形にして行く非凡が、チームスポーツのコミュニケーションの難しさで、おもしろさで、崇高さではないか。
 味方を蹴り飛ばすウィルを見た瞬間、誰もが、考えられないような非凡なコミュニケーションをはかっている夢の90分から、日頃、自分たちが言葉や行動だけでコミュニケートする平凡な「現実」に引き戻されてしまった。

 3点目でとどめを差した中山は試合後こう話した。
「(オウンゴールをした)山西は(落胆して気持ちが)行っちゃってましたからねえ。まあ、ちょっと滝に打たれて来い、と言っておきました。試合ではいろいろありますから。自分も前半、(名波からの)いいボールを決められなくて、さっきシャワーを浴びたあとに、お互い、動き方のちょっとした部分なんだけど、思っていた意図を話し合いましたね。それであのパスの意味がわかったし、ああなるほど、と思うことがありますよね。それを汲み取るために今度は自分がどう動けばいいか、自分なりに考えてもみる。そうやって、みんなの意図をつないでいかないとね。苦しい中で、みんな体を張って、決して労を厭わず、チームを考えた結果が3−1だったのではないでしょうか」

 11人もの意図を、言葉ではなくて「プレーで」、それもあれだけ広いピッチで一瞬にしてつなぐのがサッカーだとすれば、横浜と磐田の間には3−1のスコアでは到底はかれないほどの「差」があったことになる。そして、勝ち点13と25でもまだ正確ではないほど大きな「違い」もあるということだ。



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