10月14日

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サッカー

ジーコ日本代表が初練習
(東京・国立霞ヶ丘競技場)

 2006年ドイツW杯を目指すジーコ監督率いるサッカー日本代表が、この日午後、東京・国立競技場で初めての練習を行った。練習は午後6時半からランニングでスタートし、その後、体操、ストレッチをこなし、トルシエ前監督の下では行われることのなかった紅白戦が30分前後半で行われた。海外から招集された、中田英寿(パルマ)、中村俊輔(レッジーナ)、稲本潤一(フルハム)、小野伸二(フェイエノールト)で構成される“黄金の中盤"が注目を浴びているが、この日の4人はボックス型に配されボランチに稲本と小野、攻撃的な位置に中田と中村が並んだ。約束事はあまり決めずにフリーに動く形を取っていたが、中盤からトップの高原直泰(磐田)、鈴木隆行(ゲンク)につないでゴールを決めるなど、攻撃陣が厚いチームであることを前面にアピールする初日の練習となった。また、練習後にはジーコ監督が会見を行い、新チームのキャプテンには「中田(英寿)をキャプテンにしたい。W杯など経験も豊富でみんなに尊敬されているし、私も彼を信じている」と今後、代表の主将を中田が務めることを監督自らが明らかにした。なお、紅白戦のレギュラー組に入ったメンバーは楢崎正剛(名古屋)、名良橋晃(鹿島)、秋田 豊(鹿島)、小村徳男(仙台)、服部年宏(磐田)、稲本、小野、中田、中村、鈴木、高原だった。

ジーコ監督「初日から非常に効果的な練習が行えて、私はとても満足している。選手はとてもよく動いてくれていた。ポジションなどのいくつかの確認をしたが、とにかく攻撃的にやってほしいと言ってある。慣れないところもまだあるが、全体的に非常にいい練習だったと思う。キャプテンについては中田にまだ伝えてはいないが、服部でも秋田でも、このチームの誰でもがキャプテンを務めることができるレベルにある。ただ、戦術的に重要な部分として、中田を選びたい。私自身、これから自分の新しいサッカー人生が始まると思うと、ジャマイカ戦が来るのが楽しみで仕方がない。早く始まってくれないかなと今は思っている」

日本サッカー協会/川淵三郎キャプテン「中盤の4人については、遠慮しているのかな。まだまだ4人がうまくそれぞれの特徴を理解して動くには時間がかかるし、ジャマイカ戦ですべてを期待するのはちょっと無理があるんじゃないかなぁ。ただ、夢の4人であることは間違いない。今まで新しい代表監督の立ち上がりの練習というのはすべて見てきたが、今日が一番すごかった。なんといっても一番いいのはみんなが楽しそうにやっていること。のびのびとしていたし、タックルがビシッと入る音が聞こえたり、とても新鮮な練習だった。みんな真剣だしね。黙っていても緊張感が漂っているところが、ジーコのジーコたるゆえんでしょう。今日は本当は練習をちょっとだけ見て帰るつもりだったけれども、中盤をはじめ、あまりにもおもしろいので最後まで見ちゃったよ」


「誰より、私が楽しみなのだから」

 練習の頭だけを見て帰宅するから、とハイヤーを待たせていた川淵キャプテンは、結局2時間近い練習すべてを見てから席を立った。
 韓国・釜山からこの日、宿舎に直行して「ドイツでも16強に入ること。アウェーでそれをやってこそ、世界に認められる」と「訓示」をしたのだからもうやるべき仕事はなかったキャプテンは練習後、「あんまり練習がおもしろいので、結局最後まで見ちゃったよ」と苦笑いし、「すごいね。何より楽しそうなのがいい」と感想を話していた。ファルカン、加茂、岡田、トルシエ、それぞれの監督の立ち上がり、練習初日は必ず見てきたが、この日の初練習には、観客としてそこにいたキャプテンが言うように「見るものを引き付ける何か」があったように思う。

 代表の練習をメディアが見たのは今年3月26日のポーランド遠征中のワルシャワでの練習以来、またいきなり始まった紅白戦も、トルシエ監督の4年間にはなかった練習だった。メニューの違い以上に、「楽しさ」がこのチームには漂っている。
 中田、小野、稲本、中村で構成される中盤のサッカーの「楽しさ」もある。名良橋が「前の6人が本当にすごいです」と練習後に、見とれていたと笑ったが、パスのスピード、精度、意外性、どれをとっても「楽しい」の一言に尽きる。現在はまだまだ互いの遠慮やタイミングのずれなどがあるものの、これがどこまで熟成されるかを考えれば、また楽しみが増える。
 楽しさは、気楽さとは無縁なものだ。この日の練習では、タックルがレガースに当たる音や、接触するときの鈍い音、特に海外から合流している選手がパスのたびに立てるボールの衝突音、こういった激しさが笛でいちいち消されないぶん、静かに、しかし迫力や真剣さを持って表現されていた。

「フェア」さも感じられる。ジーコはこの日、ミーティングで「その時にもっともコンディションのいい選手が選ばれるのが代表だ」と、選手を前に所信表明をしたそうだが、このことは、すでに前監督の1年分をはるかに上回るJリーグを観戦しながら選んだ自らの「選球眼」への自信とプライドでもある。中田を主将にしたことは、海外であっても、試合をいかに見ているかを示す上で、選手のモチベーションを駆り立てている。
「見ていてもらえる、という気持ちだけで、選手がどれほど大きな力を得るかは計り知れない」と4年ぶりに代表に戻った名良橋は言う。「代役、代役」と照れていたが、小村もそういう気持ちだろう。

 ジーコ監督はほとんど指示を出さなかった。あえていえば、「楽しいサッカーをやってくれ」、それだったのかもしれない。ブラジルが優勝を果たしたW杯後、選手達は何度も「ブラジルサッカーには喜びが伴わなければならない」「面白くなければサッカーではない」と、喜び、楽しみといった言葉(ポルトガル語でアレグリ)を繰り返していた。ジーコもブラジルサッカーの表現者として、日本代表に「サッカーを楽しむ」「サッカーの喜び」といった形をどう伝えるのかは、この日の練習で少し垣間見えたようだ。
 フェアさと、喜び。2つのコンセプトは、高い技術や戦術をどれだけ強く支えて行くだろうか。



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