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※無断転載を一切禁じます 総合 第14回アジア競技大会(2002/釜山) 男子二百mで、日本人初の19秒台を狙う末續慎吾(東海大)が、決勝を20秒38で走り、大会記録(20秒25)、日本記録(20秒16)の更新はならなかったものの今大会で自身初めて、ビッグイベント金メダルを獲得した。また市川良子(テレビ朝日)が千五百mに出場し4分13秒42の自己ベストで銅メダルを獲得した。 レースラスト300メートルで脚を踏まれ、両足のスパイクが脱げながらゴールした市川良子「メダルと自己新記録が一緒なのでうれしい。残り300メートルのところで両足を踏まれてしまい、靴が脱げてしまった。このままじゃあ走れないと思って、思い切って出てしまった。まあ、靴下でもよく走れるもんですねぇ(笑)」 末續を指導する高野 進コーチ(東海大、バルセロナ五輪四百mファイナリスト)「力の差はあったので勝てるとは思っていたが、こればっかりは走ってみないことには分らないし、あまりに力み過ぎて後半失速するんではないかと心配もした。まだ22歳だが、勝負勘や集中力については力があるし、動物的なものがある。勝つべきレースで勝つというのは大変なことですから。(記録について)このスタジアムの風のこともあるし、サーフェス(柔らかめ)のこともあるんで、それほど期待はできなかったと思う。準決勝ではリアクションタイムが悪かったので、きょうは、そこだけ少し調整して後は力で押し切ったレースだった。しかし20秒38は世界のセミファイナルでも(決勝に向けては)十分にいい戦いができる記録でもある。朝原(百m)が負けていたんで、本人にはプレッシャーがあったんではないかと思う。決勝が午前中というのは難しいが、まああまり細かなことを気にするタイプではないし、彼は野生児ですからね。僕ら(高野氏が)がやっていたのは、文明開化の時代で、あの頃と単純な比較はできないし、今、日本の短距離陣は世界と戦っている。ただ、私なんかとは比べ物にならないほどの才能を末續は持っているし、来年のパリ世界選手権はもちろん、決勝を狙って決勝に進出するようにしたい。(技術的には)リラクスゼーションが課題になると思う」 ◆末續一問一答(会見から) ──ウイニングランをされていましたが、その感想は? ──同じ短距離の朝原が銀メダル、プレッシャーは感じていたか。 ──今回は勝負重視と口にしていたが理由は? また国体はどうするか ──日本はここまで金メダルひとつ。これは重荷にならなかったか。それと今後大学を卒業した後に進路を教えて欲しい。今後のプランも。 ──19秒台の可能性は
「南九州地区大会優勝、って感じですか」 飾り気のない言葉と、率直な態度で、末續は走り終えた後も、スピード感そのままに人々を引き付ける。今回は、世界へのステップのいわばパスポートとして、何としてもタイトルが欲しかったという。 「これまでは日本選手権、そしてアジア、世界と順番を踏むためにもどうしても欲しいタイトルでした。記録ならいつでも狙えますが、アジアチャンピオンは、今日、この時に勝てる選手が僕一人だったというわけですから価値観が違う。まあ、言ってみれば、インターハイの南九州地区予選優勝って感じですよね。で、全国へ名前が知られるんですから」 本人は真面目に例えていたが、アジアタイトルは今後彼がどんな国際大会に出る際にも、必ず、「アジアチャンピオン」と紹介される名刺になるわけで、南九州(熊本出身)地区優勝のたとえには、記者からも笑い声が沸き起こる。 末續の魅力は、高野コーチによれば「野性味」だという。一見パワフルなわけではないが、実際には、前半に高い集中力と、難しいとされるコーナーでの走力には、天性の荒っぽさがあり、それが大きな持ち味になっている。荒削りな面と、スケールの大きさは表裏一体だが、両者をつなぐための技術がこのところ「失敗しては学習する、この繰り返しによって」(高野コーチ)身についてきているそうだ。 この日までの3レースで、リアクションタイムを微調整しながら決勝を走り切った点も、荒削りの中の、繊細な技術として評価される。前日、予選の反応時間はピストル音から0秒195、トップ選手としては芳しくない出だしである。これが準決勝では0秒183、そして決勝では、「ちょっとだけ調整して」(末續)0秒180としている。力の加減をこうしたスタートの反応時間で調整するあたりは、天性の野性味、荒削りの部分、一方では磨けばいくらでも光る素材をよく示している。 シドニー五輪では、予選から積み重ねて行く連戦による疲労でレース中に肉離れを起こして、それでもバトンをつないだ。昨年の世界選手権では初めて準決勝を経験した。 13日、仲の良い女子マラソンの渋井陽子(三井住友会場)がシカゴマラソンで日本最高に挑戦する。「電話か何か……」と聞かれると、「あ、あー」と言葉にならない声でこぼれんばかりの笑みを見せる。緊張とは無縁という22歳が、顔を真っ赤にして立ち上がってしまった。
第12日
(韓国・釜山)
気温21度、湿度50%
金メダルを獲得した末續(第2走者)、百m銀メダルの朝原宣治(大阪ガス、アンカー)を擁する四百mリレー(第1走者:宮崎 久(東海大学)、第3走者:土江寛裕(千葉富士通))は予選39秒17で、決勝に進出した。明日11日、陸上競技は中日となる。
末續 (国際大会での優勝は)生まれて初めてだったんで、思わずウイニングランニングしてしまいました。非常に疲れました。(通訳の手違いからもう一度同じ質問をされて)じゃあ、答えを変えまして(笑)、初めてのウイニングランでしたが、観客の反応が良くて、できれば何回でもやってみたい、と思った。
末續 確かに(陸上全体の)流れはいいとは思わなかったけれど、健闘していた部分もあったので、それをエネルギーに変えて自分は走った。プレッシャーは多少はあったんでしょうが、レースが始まる頃にはなくなっていた。
末續 高速のトラックではなかったので、記録は二の次だと思って最初から思っていた。どうしてもアジアのタイトルが欲しかったので先ず、力まず走ろうと思った。国体は(百mで)、今季最後の試合なんで気持ちよく走りたいと思うし、最後の百mになるんで体調を整えて出ようと思ってはいる。
末續 目標は金メダルで、それは自分が取りさえすればいいことだったんで、負担とか感じてはいませんでした。卒業した後は、(スポーツメーカーの)ミズノに就職し陸上は、これまでと同じように大学に所属して練習をしながらやるということで環境は変らない。これからはアテネで決勝に残ることを目標にして、具体的なトレーニングはまだ決まってませんが、きっとまた血の滲むような訓練を積むことになるでしょう。
末續 今季は、条件とかいいグラウンドに見放されたところがあった。来年の世界選手権あたりで狙っていければと思う。今後も環境が変らずにできますからね。
その気持ちを示すように、スタートから独特の前傾で飛び出し、コーナーの出口ではトップに。その後体が力んだのか、固くなり中間走は完璧とはいえなかったが、無我夢中といいながらも直線で大型画面出自分の順位を確認するほどの余裕を持って、大本命のゴールを終えた。
アジアチャンピオンの重みは、本人も思っていなかったほどの喜びをもたらしたのだろう。途中リレーを挟んだために、会見はレース終了後3時間経過した後になったが、言葉は依然弾んでいた。
「そんなに(決勝進出が)簡単に行っては困るし、本人のためにはなりません。まあ、これからも大きなミスをするかもしれませんが、末續の場合は、それがまたスケールアップに繋がるはずです」と、高野氏は話している。
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