10月8日

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総合

第14回アジア競技大会(2002/釜山)
第10日
(韓国・釜山)

 前回、バンコク大会で初の金メダルを獲得したディフェンディングチャンピオンの男子ハンマー投げ、室伏広治(ミズノ)が、ライバル不在の中2投目で78メートル72と、前回自らがマークした大会記録を更新して2連覇を飾った。また長けい靭帯を痛めた直後のレースとなった為末 大(大阪ガス)は男子四百m障害で49秒29と、苦しい中でも銅メダルを獲得。男子百mでは朝原宣治(大阪ガス)が10秒29で銀メダルを獲得、前回の伊東浩司の10秒00には届かず、アジア全体の期待がかかったアジア人初の9秒台は次回への楽しみと持ち越された。
 女子四百m障害では吉田真希子(福島大TC)が56秒68の日本新記録で4位となり、後に中国選手の失格で繰り上がり銅メダルを獲得した。またこの日最終種目となった女子一万mでは、福士加代子(ワコール)が、31分42秒05の自己記録を大幅に更新する30分51秒81と、日本女子として渋井陽子(三井住友海上)に続いて史上2人目の30分突破を果たして銀メダルを獲得した。福士は20歳で、シニアの大会では初となるビッグイベントへの出場で力を出し切った。
 陸上は室伏の金メダルが1号となり、この日メダル4つを獲得した。

土井宏昭の話「ここまで来たら、という気持ちで開き直ったのがよかったと思う。コンディションがよかったので、落ち着いていけばと思っていた」

為末 大の話「失敗ですね。金以外はすべて失敗だと思います。僕の場合は1台目がすべてなので。今日は日本人キラーというか、嫌な風が吹いてはいましたね。時期的にも、この季節までのレースは遅く、調整が難しい面もありました。今は悔しい気持ちが一番です。今年を振り返れば、ヘルシンキで腰を傷めて、昨年の(世界陸上の)ようなレースは1本もできませんでしたが、それでもいろいろな意味で(あのままではダメなんだと)気持ちを切り替えることができた一年だった。それを収穫だとしたい」(※為末は早ければ今年11月から、ロサンゼルスでコーチに付いて、現地での生活を送ることを予定しているという)

朝原宣治の話「本当は今日の準決勝でもっと(記録が)出ていないといけなかった。昨日から(よくない)予兆はあったんで、今日は決勝前、早めにアップ場に顔を出して基本から調整してちょっとよくなったんですが、今日はこれが限界でした。しっくり行かないというか、空回りのような感じで中盤が伸びない、回転が上がってこない感じです。ちょっとしたことなんでしょうけれど。スタートは悪くはなかった。今回、狙いすぎて体調だけが上がり、レース感覚とのギャップができてしまったような気がする。それでも9秒台は現実的な手ごたえとして感じることのできる一年だった」


「Sorry, I speak in Japanese first」

 土井宏昭(中京大、69メートル57)の銀メダルで、アジア大会での日本ハンマー陣としてはニューデリー大会(82年)以来となる1・2フィニッシュを果たした室伏の記者会見は、英語で行われた。勝っても当然といえる大会以上に、会見は日本の記者にも驚きがあった。

──Are you disappointed with this record with gold medal?
室伏 Yes, I'm a little bit disappointed. This year I had many competitions in the world. And today was an early competition, started early morning. I was a little bit tired but I made a new record (of the Asian Games), so I am satisfied.

 記者からの質問は英語が多く、ようやく日本人が日本語で質問したとき、「日本語で答えますか」と室伏が言い、日本人記者からは一斉に「日本語で答えてください」とリクエストの声があがる、不思議な会見となった。昨年からこうした英語の会話はあったが、この日は本人が英語と日本語を状況で操る。今季、指を痛める苦しいシーズンながらGPで初のシリーズ総合優勝を果たし、いくつもの会見に、いくつもの言語で、通訳もいないなか一人で乗り越えてきたことの「重み」は、この会見だけでも十分に理解されたはずだ。
 学校で学んだのではない英語には、どこか強さが満ちあふれていた。

 ライバルが不在のアジアで勝つことは、本人にも5連覇を果たした父にも当然のことだったはずだ。
「今年は昨年冬の指の怪我が尾を引いて苦しい1年だったと思うが、ここまでよくまとめたと思う。来年が本物の勝負になる。世界選手権からアテネまで、この冬の練習にかかる」と、父重信氏は観戦したあと話した。バンコクから5連覇(その前のアジア大会は銀)。質問はそこに集中した。

──Do you think you will over your father, 5 times winner of the Asian Games?
室伏 It is very difficult to say, because he tried very hard and had many injuries. I would like to throw long time. I have a motivation to do my practice and concentrated training. If I could do that, I can possibly reach his record.

 父子でアジア大会7勝の意味と意義は、息子の連勝が始まった今、改めて見直され、語り継がれる偉業となった。


「“かよちゃん、がんばって!”って照れるなあ」

 ジュニア時代から世界ジュニア4位(五千m)になり、ワコールに入社してからも次々と記録を塗り替え、新時代のトラックの女王になる逸材として注目されている福士が、「出ちゃった」と笑う。30分台は、日本の女子長距離陣にとって大きな壁であった。それを今年、渋井が破り、この日、20歳の新鋭が自らのペースを貫いて一人でマークした。

 青森県の豪雪地帯として知られる五所川原工業高では全国的にも無名。常に率直かつあっけらかんとしたコメントでレース後も盛り上げる。
「アジア大会なので、奮発して前に行った」と積極的にレースを引っ張ったが、1週目に冬季アジア大会を開催する青森県から木村県知事が応援に駆けつけていることを、その絶叫で知る。「いや照れましたねえ。ここはどこ? って。県知事が“かよちゃん”ですからねえ」と会見も爆笑の渦に。30分は狙ったわけではなかったというが、レース中、6000メートルで一度は大きく離されてしまってから崩れずにおいかけた「しぶとさ」は特筆に価する。

 若年層の強化には2つのアプローチがある。日本陸連がプロジェクトした強化のように、「使い切らない」ことを主眼とし、何年か後にピークを持っていく方法と、目前の目標を追うものと。もちろん怪我や燃え尽き症候群へのケアは十分になされることが前提として、福士の今は後者の思い切りに満ちている。思い切りや容量の大きさが、彼女の魅力だろう。今年、日本選手権史上初の五千m、一万mをダブル制覇したチャンピオンである。



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