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※無断転載を一切禁じます 陸上 ★★★現地レポート!★★★ 昨年2時間19分46秒の当時世界最高をマークし、連覇を狙う高橋尚子(積水化学)がレース前日、最後の調整を行った。小出義雄監督は、ここに来て調子が上がり「これまでにないほど緊張してレースに集中している」様子を語り、「昨年の世界最高を出したレースと比較すると、7〜8割の出来」と、今回はまず優勝を狙っていくことを目標とした。 ◆小出監督と一問一答(要旨抜粋) ──いよいよ前日になるが ──フェルナンデスが2時間10分台を狙うというが ──緊張しているというが
「アテネへの一歩とは」 もし怪我も病気もなく、無事にマラソンのスタートについたランナーがいたらほとんど奇跡に近いが、残る42キロが無事とは限らない。反対に、レースの42キロの前に彼らが積んでくる数千キロ(月間女子でも1000キロは練習している)が怪我や病で満足が行かない出来でも、残る42キロはわからない。すでに未知の記録の世界に突入している女子マラソンにあって、勝負は42キロではなくて、その前の距離であり、質である。その決定的な雛型が完成していないこの1〜2年、全員が手探りを続けている点が、現在の女子マラソンを見ていくうえで(関係者には申し訳ないが)とてつもない魅力になっている。 シドニー五輪最後の選考会となった名古屋前の合宿で、最悪の状態だった。いざスタートを切ると、監督も予想しなかったほどの切れ味で、ハーフで全員を置き去りにして22分台で帰って来ている。 「調子の悪い日も、足が思うように運べない日もある。でも、その日に、そういう自分に負けたくないから、走る。タイムは問題ではないんです。悪い時でも、全力で行った、と自分が思える練習を積むことが私のマラソンです。記録のために走るんじゃない。知らない自分を見つけるためだから耐えられる」 この日、高橋の練習を見ていないが、もし本当にこういうアプローチでレースに臨むのだとすれば、どれほど調子が悪くても、フェルナンデスを楽に行かせたりは決してしないだろう。どこまでも、それこそこの世の果てまでだって粘ってついて行って見せる、そう思っているに違いない。怪我があったとはいえ、日頃の練習量を思えば勝てないレースはしないだろう。 ■参考:スタートは日本時間の16時、フジテレビ系にてTV中継される予定。
ベルリンマラソン前日
小出義雄監督の記者会見
(ドイツ・ベルリン)
28日午後(日本時間29日深夜)
天候:晴れ、気温:16度、湿度55%
8月の米国での合宿では、監督、高橋とも世界最高を狙うだけの調整、仕上がりに手ごたえを感じていたそうだが、その後ふくらはぎを2度故障するなど、約10日間練習ができなかったロスが筋力に出ており、これが未知数の部分だと監督は説明。今回、フェルナンデス(メキシコ)が出産後の復帰レースとなり、2時間20分突破を狙って、1キロ3分20秒ペースでのペースメーカーを想定しているとされており、高橋は、まずフェルナンデスを中盤までマークし、どこかで勝負をかけて行く戦法で臨むという。
フェルナンデスが順調で、向かい風が強くなければ、5km16分40分ペースの展開となるため、昨年の7〜8割の出来とされる高橋に監督は「なめてかかるな、無理をするな」と慎重に行くことをアドバイスしている。スピードへの対応練習はかなり積んでいるだけに、まずはこのペースでフェルナンデスにどこまでついていけるか、またどこで勝負をかけたギアチェンジに出るかが、レースの見所となる。
監督 ここ(会見)に来る前に、調子はそれほどでもないのだから大きなことを言わないでください、とQちゃんに釘を刺されたよ。僕が素直に見て、7〜8割程度だと思う。8月は、昨年の高地練習での記録を3〜4分も上回っていて、本人もガードランナーはもういらない、手足がぶつかってやりにくいと申し入れしてくるほどで、あとで18分台を狙っていたと告白していた。調子がいいときは用心しろ、と話していたら、ジョギング中にふくらはぎをやってしまい、しこりが残ったまま10日ほど休んだので、その分、筋力が落ちて、ストライドは狭くなったと思う。1キロで100メートル、17〜18秒ほど昨年より遅くなる計算になるね。ただ、昨日30キロからの試走をさせたらとてもいいジョギングになっていて、本当に安心した。名古屋(2000年3月の選考会)の時も悪かったからねえ。あのレース前のように、レース直前にグーッと上がってくると思う。あの子の集中力はすごいものがあるから。
監督 今朝も(恋人の)ゴメスとのジョッギングを見ていた。ちょっと(スピードを)抑え過ぎているように思うので、スタートから30キロくらいまではものすごくいいだろうね。ただ、マラソンって不思議なもんで、バネがありすぎるとあとがもたないから、ちょっと足が重いくらいでスタートするのがいいんだ。彼女が16分台で刻めるとしても、(僕は)あの様子では30キロまでじゃないかと思う。シドニー五輪で16番の選手だ。力を甘く見るとかではなくて、高橋とは力の差がある。今、ズバ抜けて強いのは、ヌデレバ(ケニア、2時間18分47秒の世界最高保持者)とラドクリフ(英国)くらいだろう。だからQちゃんには30キロまで我慢するといいとは言った。
監督 今回はものすごく緊張して集中している。たぶん、(怪我のために)調子が思うように上がってこなかったから、どれくらいできるかわからないところがあるんじゃないかと思う。ただ、蓋をあけてみれば、あの子のことだから絶対に手抜きはしないし、案外、キャー(と監督がゴールを切るガッツポーズを真似て)となってるかもしれないね。僕は、25キロくらいまでにふくらはぎの古傷が出なければいい、と願っている。まあ、どのくらい回復しているのか、それが楽しみだ。明日は、2時間くらい前(午前7時)にはスタート地点に行って、ウォーキングをゆっくりして、用を足して、体をじっくりほぐそうと思っている。外国選手なんかは、20〜30分前に来て、パーッと走っちゃうけどね、まあゆっくりやりますよ。(※監督はサイドカーに乗る予定)
マラソンにはフロックはないが、計算通リにもいかない。
小出監督が、この朝、絶好調を伝えられるフェルナンデスを公園で目撃したときに、「軽すぎる」などと批評するのは、ライバルだからとか、牽制したわけではなくて、彼らが繰り出す一歩に、本当に数え切れないほどの情報が織り込まれていることの証だろう。レース前日に軽ければ最高のはずなのが、「軽すぎれば」バネで走ってしまい、後半のスタミナロスにつながるというわけだ。だから体が重いほうがいいと。2時間24分、23分ならそれで押し切れるが、2時間20分を切っていく、つまり1キロを3分20秒台で押し切るには、無理だということである。
高橋に昨年、テレビで約2時間のロングインタビューをした際、自身のマラソンへのアプローチについてこう話していた。
ただ、アテネへの一歩というものがどう踏み出されるのかに注目したい。記録だけでも勝敗だけでもない「何か」を、高橋は必ず示すはずだ。
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