9月16日

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陸上

スーパー陸上競技大会2002横浜
(神奈川・横浜国際総合競技場)
天候:雨、気温:18度、観衆:27,513人

 韓国・釜山で行われるアジア大会の壮行会として行われた今年のスーパー陸上で、日本人としては初めてグランプリ種目を制覇(年間の総合ポイントで争う)したハンマー投げの室伏広治(ミズノ)が凱旋初試合に挑んだが、グランプリ最終戦(14日、パリ)以来、発熱で体調を崩しており、3投で棄権した。室伏はこの後、マドリードで開かれるW杯と、実業団選手権に出場を予定しており、その後、アジア大会での連覇を狙う。
 昨年のエドモントン世界陸上銅メダリストで、今年の欧州サーキットでは未勝利、国内でも日本選手権での優勝だけだった400メートル障害の為末 大(大阪ガス)が、48秒69で優勝、夏の腰の故障から復帰を果たした。
 また男子200メートルの末続慎吾(東海大)は、バットン、クロフォード(ともに米国)ら強豪の中で20秒55と、20秒台をマークして2位と健闘した。
 男子100メートルには、前世界記録保持者のモーリス・グリーン(米国)が出場したが、スタートでタイミングをつかめず10秒56で5位、短距離のエース、朝原宣治(大阪ガス)も10秒28ながら2位とアジア大会に向けて好調な仕上がりを見せた。

久々の優勝にほっとした様子を見せた為末 大「本当にホッとした。9台目でもう意識が切れてしまい、こう動け、と体に命令してもまったく動かない状態になってしまった。けれども、ここはホームという気持ちでレースに臨みました。もちろん(息切れは)課題ですが、そこまでできている(追い込めている)ということでもあるし、トラックとの相性というか、地面を蹴るとすぐに反発がかえってくるような感じで走りやすい。アジア大会に向けては思ったよりもなかなかいい状況で、48秒前半の記録で行けるんじゃないかと思います」

リレー、100メートルに出場した朝原宣治「途中までトップでこのまま終わらないな、と思ったらちょっと固くなってしまったかな。アジア大会の調整の一環として短期間のサイクルの中で仕上げた割にはよかったと思う」

男子100m決勝レース。左から、フレデリックス、ウィリアムズ、グリーン、朝原宣治。


「底値大歓迎」

 もし株価ならば、到底歓迎されることのない「底値」も、トップ選手たちはしばしばこれを自ら追い求めて買おうとするところがある。この日、雨がひどく、気温は18度と悪天候となったが、多くの選手が「悪いときにこそ自分の底力を見る」というテーマのもとに競技に取り組んだ姿が新鮮に映った。タイトルでも、記録でも、代表権でもない、何もかからない試合こそのテーマだろう。

「正直言って、勝ち味というのは忘れやすいものです。周囲が思うほど、悠然とやるわけではないし、やはり勝つ、ということ、1位でフィニッシュを踏むこと、これがいかに重要かを今日の試合で学びました」
 為末は腰痛からの復帰だった。もちろん、万全のコンディションではないが、まるでサッカー選手のように「ホーム」とレースを位置付けるあたり、さすがに国際舞台で転戦し続ける選手である。プライドは負荷となり、その小さな負荷を超えて、国内のレースで負けられないとするのもまた、「底値」を知るための努力だった。

 朝原も「正直言って、例年なら9月で終わるところ、10月にアジア大会というのは調整のうえでは厳しいです。でも、できないものではないこともわかっています」と話した。朝原によれば、レスト(休養)、トレーニング、調整、この3つを、国内の試合とビッグイベントだけにターゲットを絞ればたやすく回転はできるという。しかし、欧州GPをここに加え、国際大会を入れていけば、当然短いサイクルでこの3つを行い、筋肉の状態を整えねばならないだけに非常に難しくなる。
「今は疲れている状態」とし、その中で2本のレースを走ったことは、「底値」探究への意欲だった。

 39度の発熱でフラフラになって出場した室伏には、底値と同時にほかの動機があった。同じ種目のベテラン38歳のゲチェク(ハンガリー、シドニー五輪7位)は、この試合を引退試合に選んでいた。
「広治とは本当に長く付き合ってきたし、彼のお父さんともずっと親しくしてきた。キャリア最後の試合は、是非ここで、広治とやりたかったから、本当にハッピーだ。ジオルコフスキとともに、若い選手に見送ってもらえたことは最高の幸せだった」
 引退セレモニーは、室伏からの花束贈呈だったが、ゲチェクは試合後、感慨深げにそう話し、花束を抱えていた。室伏は、「彼の引退試合に欠場はできない」と、まだ熱のある状態で強硬出場をした。1投目75メートル24、2投目74メートル25でキャンセル。しかし冷え込む中でもずっと残って、全員の競技を見続けていた。

 レベルアップとよく言うが、レベルをアップすることは単に上を目指すことでは決してなく、じつは底値を知って、そちらを上げることなのだと、日本が誇る陸上選手たちは肌寒い競技場で示していたように思う。そうして彼らのこうした姿勢には、「うまくいかないときほどがんばる」と、平凡な自分にも気が付かせてくれる、不思議な力がある。

■男子400mハードル 決勝
順位 選手 記録
1 為末 大(大阪ガス) 48秒69
2 ジョーイ・ウッデイ(米国) 48秒91
3 河村英昭(スズキ) 49秒26

■男子ハンマー投げ 結果
順位 選手 記録
1 バラシュ・キシュ(ハンガリー) 80m78
2 ティボル・ゲチェク(ハンガリー) 76m30
3 室伏広治(ミズノ) 75m24

■男子100m 決勝
順位 選手 記録
1 バーナード・ウイリアムズ(米国) 10秒21
2 朝原宣治(大阪ガス) 10秒28
3 ダービス・パットン(米国) 10秒33

5 モーリス・グリーン(米国) 10秒56

■男子200m 決勝A組
順位 選手 記録
1 ダービス・パットン(米国) 20秒29
2 末續慎吾(東海大) 20秒55
3 ショーン・クロフォード(米国) 20秒79

■女子400mハードル 決勝
順位 選手 記録
1 ダイミ・ペリニア(キューバ) 56秒32
2 吉田真希子(福島大TC) 56秒69
日本新
3 久保倉里美(福島大) 57秒72

■女子5000m 決勝
順位 選手 記録
1 メセレット・デファー(エチオピア) 15.26.45
2 デラルツ・ツル(エチオピア) 15.26.73
3 ガクニー・ジェーン・ワンジク(松下通信) 15.29.23

4 福士加代子(ワコール) 15.29.77
5 市川良子(テレビ朝日) 15.31.10



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