9月15日
※無断転載を一切禁じます
サッカー
J1 2ndステージ第3節
東京ヴェルディ1969×鹿島アントラーズ
(東京・国立霞ヶ丘競技場)
天候:曇り、気温:21.0度、湿度:70%
観衆:31,812人、19時04分キックオフ
東京V |
鹿島 |
2 |
前半 1 |
前半 0 |
3 |
後半 1 |
後半 3 |
15分:エジムンド
65分:エジムンド |
本山雅志:70分
長谷川祥之:81分
アウグスト:88分 |
2試合ながら9位(勝ち点3)、この試合に負ければスタートから苦しい立場に追い込まれる鹿島は、立ち上がりから、試合の主導権を握ろうとするが、これがかえって単調な攻めを生んでしまう。逆に、東京Vの平本一樹、右サイドの田中隼磨の前を向く積極的なプレー、エジムンドの絶好のポジショニングに振り回され、前半14分、止めきれずにファールを犯しPKを与えてしまう。これを3試合連続ゴールとなるエジムンドに決められ、追いかける展開となった。
前半から決定的なチャンスを作るものの、運動量でも東京Vに遅れる。前半40分、中央でボールを受けた柳沢 敦が田中のファールを受け、上川主審はこれをレッドカードと判定し、田中が退場。リードしながら東京Vは数的不利を背負っての戦いを強いられることになった。
しかし数的優位に立ったはずの鹿島が、焦りからサイド攻撃から崩すことなく、中央突破に固執するため、カウンター狙いだけの東京に逆襲を受ける。セレーゾ監督は、この試合でサイドからのボールを待ちながらエリア内で我慢しきれない柳沢のポジションに、もう1枚を加える意図で長谷川祥之を投入。2分後、こぼれ球を拾われてエジムンドにまたも得点を奪われ0−2となってしまった。
試合データ
東京V |
|
鹿島 |
11 |
シュート |
17 |
17 |
GK |
5 |
1 |
CK |
7 |
15 |
直接FK |
14 |
1 |
間接FK |
2 |
0 |
PK |
0 |
試合を決めたと思われたゴールだったが、この時間帯から東京Vの足が止まり、鹿島は怒涛の攻撃をスタート。25分には、内田 潤からのセンタリングに本山雅志がヘディンで合せて1点。この後、東京Vの交代(三浦敦宏を平本一樹に替える)でエジムンドのポジションが1トップに変わり、バランスが崩れたところを見逃さずに、この交代の直後、長谷川祥之が左足で決めて同点。さらに残り2分で、アウグストが混戦から左足で放ったシュートが決まって、ついに試合を逆転、3−2と勝ち越した。
一方、東京は0−2と一時は引き離しながら3連勝を逃がし、首位に立ちことができなかった。
鹿島/セレーゾ監督「鹿島に限らず日本サッカーの課題でもあるが、攻撃が中央突破に寄りすぎているので、もっとシンプルな攻撃を心がけるべきだ。柳沢はその点で、もう2年半、とにかく中央で我慢強く待て、と言い続けている。流れの中の動き、スペースの作り方など非常にいいプレーをするが、とにかく我慢をしていれば、2本のヘディングでもわかるようにシュートができる。忍耐を持ってサイドを攻めていけば、中央にスペースが空くのだ。
とにかくエジムンドのポジショニングが非常に良く、我々の守備と攻撃、その両方にとって難しいところで、経験豊富なプレーをされていた。ヴェルディの選手は若くてすばらしい。彼らのように、前を常に向いて攻撃的な姿勢でいる選手と経験のある選手がうまくかみ合い始めている。私たちもああいう気持ちを忘れてはいけない」
東京V/ロリ監督「この試合について話す気持ちにもならない。田中の退場について、見た人の誰もがわっている判定なのに、審判だけに魔法がかかって、あれを退場と見たのだろう。ゲーム内容を壊してしまった判定だ。彼には、半年の休養を与えて、さらに2年の研修をさせたほうがいい。この試合に限れば、1人減った後も攻撃的な選手を投入したことが良かったと思う。私たちは一生懸命練習をし、少しずつ向上している。タイトル争いができるチームになりつつある」
前半で退場した田中隼磨「僕はまったく触っていません」
2得点のエジムンド「FWとしてゴールを決めるのが使命。しかしゴールを決めても試合に勝てなかったことを思うと、自分が決めなくても試合に勝ちたかった。アントラーズという強いチーム、11対11人でさえ難しいのに、1人少なくなってしまっては大変難しい。2点リードしたので守り切ってそのまま勝ちたかったが難しかった」
「10:11<1:11」
こんな式は数学ではないが、おそらくこの日、ピッチで起きていた数的力学をあえて表現するならばこうなる。試合後の記者会見は、通常のJリーグのゲームなら締め切りの関係もあって、監督1人10分もあれば終わる。しかしセレーゾ監督が、1人で、質問が出る前に15分以上も熱く話し続けていたのは、このヘンテコリンな式の存在に、誰よりも苛立ち、同時に脅威を感じていたからだと思う。人数が多い、戦力がある、それでも敗戦の陰がちらついたとすれば、敬意を込めて同じブラジルでサッカーのすべてを知り尽くしている「嫌な」1人のFWのせいだった。
判定については原稿を書いている現在、リプレーしたビデオを見ていないので何とも断定できない。しかし、上川主審のポジションは退場を出すには悪かった。混戦から飛び出すのが遅れていたために、後ろから追いかけるような恰好になって、問題の田中のファールについては「目前で」見るのは極めて困難な位置にいた。
これについて、ロリ監督は会見後、英語での(筆者の)「正式な抗議を考えるのか」という質問に対して「もちろんだ。クラブのしかるべきポジションから、私の意見とビデオを添えて正式にJリーグに抗議をしたい。私としては全く納得ができないし、個人的な意見だが、同じことは第1ステージにも起きている。今後の日本の強化にあって非常に大きな問題点で、今日に限れば、ああした判定でテレビで観た人、わざわざスタジアムに来た3万人、みなを不可思議な気持ちにするものだったはずだ」と話し、火曜日までにクラブと話し合い、前半40分の退場への疑問と抗議を明文化することを明らかにした(クラブ側は試合終了時点でスロービデオを見て、としている)。
数式に戻ると、10対11ならば数的優位に立った鹿島が一見楽に戦えるように見える。しかし苦戦した。その原因は、「10」ではなく、「1」のプレーヤー、エジムンドにあった。セレーゾ監督は、「1」の存在のためにゲームが動かなかった、たった「1」の存在のために、残り9が光を放つのだと、との相手チームへの分析を止めようとはしなかった。
「エジムンドの素晴らしく巧みなポジションにやられた。前の選手が下がって守るには深すぎて、DFが寄るには、どうにも寄せられない場所でボールをもらう。ああした経験に対して、うちの選手は対応し切れていなかった」
話は、柳沢とエジムンドのFWとしての比較論にまで展開。「エジムンドならばどれほどの我慢を強いられても、エリア内でガッチリと張って待っている。柳沢にもその忍耐を覚えてほしい」と、後半、残り2分でやっと試合をひっくり返せたことへの苛立ちをまくし立てていた。
鹿島にとって幸運だったのは、エジムンドの足が止まったこと、それによって、東京Vは彼をワントップで「休ませておこう」と判断し、三浦を平本に替えて投入したことである。これで中盤の見えないバランス、主導権をめぐるせめぎ合いのバランスは鹿島に流れてしまった。「嫌な中盤での守備」をケアすることがなくなった鹿島にとって名良橋 晃がサイド攻撃に参加するなど、猛攻が始まるきっかけとなった。残り2分、ついに逆転、つまり人数が多いほうが勝つはずだ、という普通の「結論」に到達した。
エジムンドのこうした老獪さを際立たせ、チャンピオンチームの監督を怖がらせていたものがあったとすれば、老獪、とは正反対の不器用でガムシャラなサッカーをする若手の存在である。
平本は、鹿島の守備をまるでナイフを使って切り裂くようなドリブル、スピードでの突破を見せ、その平本と桜井直人の2トップはまだまだ荒削りだが、とにかくゴールを見る。退場を言い渡された田中も、まずは前を向く。
「ヴェルディはものすごく良くなる。若手と経験を持った選手がうまく噛合い始めている。私たちが見習わなくてはいけないのは、あの前を向いて突破しようという姿勢だ」
長い長い会見を最後に締めくくったのは、セレーゾ監督のこのコメントだった。

読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い
|