4月6日

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Jリーグ
ヴィッセル神戸×ジュビロ磐田

(神戸総合運動公園ユニバー記念競技場)
キックオフ:15時2分、観衆:16,419人
天候:曇りのち雨、気温:17.3度、湿度:57%

神戸 磐田
o 前半 0 前半 0 1
後半 0 後半 0
延長前半 0 延長前半 1

福西崇史:91分

 右ひざを痛めて手術、リハビリを続けていたMF名波浩が、この日の神戸戦で昨年9月以来、半年ぶりとなる復帰を果たした。
 名波は昨年9月のJリーグ、ナビスコ杯(対鹿島)を終えて、日本代表欧州遠征に参加したが、フランスのドクターの診断を受けたところ、軸足となる右ひざの具合が、同年に受けた最初の手術以来思わしくなく、代表から離脱。緊急帰国して再度手術を行った。
 この日の試合、後半から、藤田俊哉と替わって出場した名波は、FKを含み3本のシュートを積極的に放ったほか、ゴール前での守備やサイドのカバーなど、激しい動きにもまったく不安なところを見せずに動いていた。
 試合は、延長1分、川口信男、グラウとボールが渡り、最後は先月、代表のポーランド遠征にも参加した福西崇史が右足で決めて、磐田が1−0でVゴール勝ちをおさめた。これで勝ち点2を加え、計14点として、仙台と並ぶ首位を守った。なおJリーグはW杯の中断まであと2試合となる。

Vゴールを決めた福西崇史「(自分が走り込んだとき)DFが遅れてきたのでトラップをしている(体勢を整える)時間があった。前半神戸のチェックが厳しく、もっと早い時間で得点を取らなくてはいけなかったと思う。(代表のことを聞かれて)今はそれよりもジュビロが勝つことだけを考えている」

磐田/鈴木政一監督「勝ち点3を目指した中で2では目標は果たせなかった。しかし、戻ってきた選手がいるなど収穫もある。名波は、もちろん本人にしてみれば頭から(スタート)どこまでできるのか、やりたかったとは思う。しかし、それによって生じるリスクもあるので昨夜話してハーフからとした。(藤田との交代は)両サイドは機能していたので、そのバランスを維持して、と思っていた。名波からのいいタイミングのパスが入るので、スペースも生まれた」

名波浩 一問一答(ロッカー前で囲みの会見を行った)
──昨年9月以来だったが
名波 0−0で試合もいい内容だったし、緊張感はなかった。自分が入ることでリズムを出すことだけを考えていた。

──不安なところは
名波 怖さもなくゲームに入っていけたと思う。枠に飛ぶか飛ばないかは別としても、とにかくシュートを打っていこうという気持ちはあったので積極的にプレーできたと思う。(後半なので)ちょうど相手の中盤もバテていた。(相手のマークがそれほど厳しくないから)タイミングよく、うまく入れた部分もある。気持ちとプレーが一致していたと思う。

──痛みなど影響は
名波 リバウンドは1、2日じゃわからないし様子を見ないと。ただ、ぶつかったときも膝には影響がなかった。

──W杯を前にしたこの時期に復帰できたわけですが
名波 時期は関係なく、ピッチに立てなければ給料はもらえないわけで、その意味で、今日ピッチに立てたことが喜ばしい。今後はもっともっと(プレーの)時間を増やしたいと思うし、代表に呼ばれたとしても、チームの力になれるようにしたい。

──練習試合での状態と比べて
名波 1週間で(フィジカル的に)劇的な変化はないでしょう。ただ、ゲームへの気持ちは(メンタル的に)あの時の練習試合よりも数段上だったと思う。

──現在の状況は完璧な状態からするとどれくらいか
名波 パーフェクトで出来る選手なんてそうはいないし、自分の状態というよりもチームに今日以上にフィットをしたいと思う。


「雨の名波」

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 統計的にどうかは全く別の、勝手な思いなのだが、名波のプレーと雨とはなぜか合うといつも思う。

 この日、試合開始前から神戸ユニバー記念競技場では雲行きが怪しくなり、ぐっと湿度が上がる空気の重さが、よくわかるようだった。先発からは外れていることがわかったとき、記者や関係者も「雨が降らないで欲しい」と願った。半年ぶりのプレーである。もちろん、不安がないからこそ出場するとはいえ、何が起きるかわからない。その中のマイナス要因には間違いなく、雨、ピッチコンディションが入るはずだ。
 キックオフと同時に振り出し、それが激しくなって行く中「今日はもう出られないな」、「危ないような気がする」といった、復帰を心配する声のほうが多くなったはずだ。
 ひざの個所も、受けた手術も違うが、ロナウドが2000年4月、ようやくイタリアカップで復帰を果たしたときのことも思い出した。ピッチのコンディションがあまりよくなく、ロナウドは復帰からわずか十数分でまたも泣きながら担架に乗ることになってしまった。ああいう光景を、なぜか偶然にも現場で見ていたこともある。
 雨が激しくなった後半スタート、「今日は無理はしないで欲しい。別に来週のホームでも」と思っていたら、「7」が見えた。

 99年のセリエA、名波がベネチアに在籍していた当時、中田英寿の所属するペルージャと対戦。中田と、セリエAで日本選手が初対戦といった話題を集めた試合も、表現できないほどの雨だった。ボールが全く動かないピッチで、中田のプレーが少しもひ弱に見えないのと同様、なぜか名波のプレーが繊細なままだったことを思い出す。頭からずぶ濡れになり、しかし、プレー細部への、良い意味での神経質さ、小気味のいいプレーのリズムは印象的であった。
 この日は、雨の中、やはり同じリズムで、頭から濡れながらも、少しも雑にならない。
 足元が揺らぎ、途中転倒したときには、スタジアムに何度も悲鳴があがった。筋力トレーングのおかげで筋肉がつき、体脂肪が落ちた。パワーを再度つける必要があるからだろう。「もっと肉をつけなくちゃ」と言い、「(雨は)まったく不安はなかった」と笑ってバスに乗り込んだ。
 雨の中の、しかも途中から、半年ぶりにプレーすることは、それがたとえ「そういう打ち合わせだった」(監督)としても、彼らがどんなに訓練をしていても、やはりある「勇気」がいる。ただ復帰するだけではなく、万全でも嫌なはずの、悪条件の中で出て来るところに名波の「らしさ」があるのだろうと思う。彼のプレーにある、独特の静けさや繊細さが、私にとって雨をイメージさせるのだと思う。
 試合が終わると、名波はすね当てをファンが熱狂して喜ぶスタンドに投げ込んだ。照れた笑顔と、濡れた髪を揺らして、手を振りながら。



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