2月27日

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サッカー

日本代表候補紅白戦
(静岡県清水市)

 日本代表候補の紅白戦が、この日、日本平スタジアムで行われた。試合は主力選手を多数含めた青チームが福西崇史(磐田)が誘ったPKを鈴木隆行(鹿島)が決めて1−0で勝利。今合宿への参加メンバーのうち、明神智和(柏)が足の痛みを訴え、大事をとってこの試合には欠場したが、残る全選手が出場した。観衆は13484人。

<試合後のコメント>


トルシエ監督
(抜粋)「テストマッチのテストマッチは雰囲気を変えた中でやりたかった。これは卒業試験ではない。お互い(紅白とも)60%対60%の戦術理解度だった。故障者はでなかったがゴールは欲しかった。相手をびっくりさせるようなプレーはお互いになかったが、今日はファンにチームを見せることも大事だった。もちろんスパイ(ロシア)もいたことだし、誰かの卒業試験ではなかった。目立った選手がいなかったわけではないが、3月の(ウクライナ戦に向けての)合宿まではこのまま(今合宿の35人)で行き、18日からの練習ではAチームとAダッシュ(サブの意味か)、Aダッシュとアンダー21で構成したチームでの練習ゲームを組むつもりでいる。今日はこのくらいやれば怒られないだろう、という程度で選手はやっていた。鈴木は良かったし、山口は真面目にやれるようになった。楢崎も自信を取り戻したと思うし、選手が自信を取り戻せるようになったことがよかった。中村は良いプレーをした。しかし、23人(W杯の登録メンバー)を考えるときにはまず軸となる15人が必要だ。次に面白いカードとなる4、5人がいる。そして(ベンチにいながら)W杯には1試合も出ない選手も2、3人はいる。この選手は強いメンタルが必要で、これを中村ができるということはないだろう(中村はベンチ要員ではないという意味か)。(高原、西澤が自信を取り戻せないがという問いに)心配はしていない。中田、川口も今試合に出られないが、彼らのことも心配はない。今はF1のウォームアップと同じで、雨用のタイヤを用意することもあるし、ポーランド戦では雨用とドライを用意するつもりだ。ウォームアップは、ウォームアップであって、まだ(レースが)始まるわけではない」

中山雅史「この試合が何かを決定するとかそういうものではないし、今の時期でなければできないゲームだと思う。今はチーム(磐田)のこともしっかりとしたいい準備をして、開幕を迎えたいと思っている。ここまで始動してから、順調には来ていると思う。今年も自分をいい意味で高めることができるようなプレーをしたいと思っている」

市川大祐「すごく楽しくできたと思う。ケガの不安はもうまったくないし、こういうゲームだと、本当の意味でアピールができる。呼ばれても、練習の中ではなかなか難しいので、今日はリーグでプレーをしている時をイメージしながら、こうやれば、相手を振り切れる、こうすればボールが上がる、といった持ち味を出せるように心がけました」

大岩 剛「前半は右、後半は左とDFの両側をやり、自分の中では満足できる動きができたと思う。その中で、右のときには中盤の波戸との連携、後半はアレックスとの連携と、いい形ができたことも大きな自信になった。磐田の状態は決してよくはないが、開幕まで十分な準備をしてスタートしたい。このゲームはいいモチベーションにもなった」

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三都主アレサンドロ「(初めての代表ユニホームでの試合について)とにかく自分の持っている全力は出し切れたと思う。(後半の)俊輔からのボール、あれは決めたかったね。1対1の勝負ができればよかったけれど……。コンディションはこんなもんじゃない。もっともっとよくなると思う」

中村俊輔「監督から要求されたことはできたと思う。後半は(交代の予定だったが)、誰かが出なくなったんで残ったけれど、俺としてはおいしいよね。長い時間グラウンドにいられるわけだから。前半はガチガチで、後半はアレックスともやりやすかった。(一緒にプレーするのは)初めてにしては、うまくできたと思う。試合中に、アレックスには(DFと)並んだら、パスを出すよ、と言ってあった。後半与えられたポジションは、監督に言われたもので、右半分を奥、左半分をオレ、であちこち動くなと言われていた。もっと森島さんみたいにガンガン前に上がって行きたかった。(前半のFK)は、入ったと思ってガッツポーズをして、めちゃ恥ずかしかったね。でも(GKの)南も、もう少しズレていたら、と言っていたのでセットプレーは大きなチャンスだと思う。あのボール(フィーバーノバ)は多少シンがずれても(かなり正確に)行く。自分は100%全力でアピールして、後は選ぶのは監督です」

西澤明訓「(森島とは)アジアカップ以来ですか。まだまだ(コンビネーションが)できていない部分もあった。今日はお互いの特徴を出せるように、出すように、それを心がけた。みんなベストを尽くしているわけで、あとは監督がどう選ぶかだけですから」

高原直泰「自分の今のコンディションを考えると、今日は非常にいい感じでできた。レベルの高い選手たちと試合ができて、スピード、頭の回転の速さ、激しさなど、今まで忘れていた感覚を思い出しました。いい刺激になりましたよ。試合前に監督からは、あまり激しくいくなと言われましたが、それは無理ですね。最初は試合の展開が速かったので、とにかく裏のスペースを狙おうと思っていました。前半の途中からは落ち着いてきたので、ボールをキープしたり、回したりというふうに切り替えました。(西澤からの決定的なパスを外してしまったのは)自分に来るのはわかっていたけれども、もう少し前に来ると思っていたので、シュートを打つのが遅くなってしまいました。それに、コースを狙ったんだけど、(DFにとっては)いい感じの弱いシュートになってしまいましたね。怪我はもう大丈夫です。これから徐々にコンディションを上げていきます。昨年は確かにうまくいかない時期もあったけれども、アルゼンチンでやっていたことは決して無駄ではない。W杯を目指していくうえでは、必ず自分の経験が生かされると信じてプレーしていきます」

試合出場メンバーとフォーメーション
前半 後半


「FOR A CHANGE」


 有料練習試合の位置づけは監督自身「激しい競争意識を持ってサバイバルに向けて戦って欲しい」といった当初のものから、試合後には「テストマッチのテストマッチは気分を変えたかった。誰かの試験ではない」といった、柔らかなニュアンスに変化していた。試合そのものは、即席のチーム編成であるし、ケガ人が続出したことで、本来クラブで務めているのとは違う位置に入った選手も多いためか退屈そのものだった。ゴールもなく(PKのみ)、ファンには残念だった。
 第三者としてみれば、これといって大きなインパクトもなければ、収穫に見えるものはなかった。しかしそれでも、この試合の意義を何か見つけろというのなら、1点だけある。
 選手それぞれが代表入りに自ら強烈なアピールをしようとガツガツプレーをしたのではなく、互いを活かそう、回りを動かそうと、むしろ「自分以上」に「相手」の個性を引き出そうというプレーに徹していた点である。

 監督就任以来4年で、代表が練習も含めてこうした紅白戦を行ったことは一度もなかった。パス回しやフォーメーションの確認を主体とするだけに、練習でもシュートまで打たないケースがほとんどである。この日、いわば「初めて」の代表紅白マッチの本来の目的は、競争ではなくて、マンネリの一歩手前の「気分転換」に、選手それぞれが高い意識で挑んだのかもしれない。だとすれば、高原が「こうしたレベルの中で色々な感覚を思い出すことができた」と話したり、「対敵練習は(代表では)していないので良かった」と西澤が説明したように、4年で初めての味方同士の対戦が、メディアや公開したファンにではなく、思いもかけない効果として、選手個々にとって十分新鮮で、楽しめた、という理由がよくわかる。
 互いの良いプレーや個性をいかしきることに、選手は自分をアピールする以上に配慮していた点が第一の収穫である。

 中村俊輔は左サイドでの動きそのものには輝きはなかった。これですばらしい動きといわれることも中村にとって本意ではないだろう。前半にはフリーキックで見せ場を作り、後半、中盤の望んでいたポジションを与えられ、三都主に中盤から1本「初コンビ」のラストパスを出した。
「サントスの動きをよく見ていて、DFと並んだら出すよ、と言っていた」と話し、サントスも「あれは決めないといけない。すばらしいパス」と絶賛した。サントスは初の「代表マッチ」で、中村は久々のポジションで相手を意識し、いかすことによって「気分転換」とともに自信を得たようだ。

 次の2人の選手は、90分通して、高く評価される動きを見せた。昨年Jリーグフルタイム出場、アシストトップの市川は、中村と対面した前半から、積極的に上がり、故障上がりだということをファンにも、チームメイトにも忘れさせた。何より、思い切りを体全体で表現した。
「これまで何度も何度も代表の合宿に呼ばれては落とされてきました。正直なところ、練習ではアピールしようにも、なかなか難しかった。今日は良くも悪くも、自分のプレーを出して、その結果、連携も見せることができたのがとてもうれしいし、充実感があります」と、笑顔を見せた。
 DFでは大岩が、前半後半と右、左のストッパーを務め、右では波戸、左では三都主と、中盤のアウトサイドとの連携でも慎重にプレーを積み重ねた。
「アピールというのではなくて、全体の機能の中に自分の居場所を見つけていく、そういう手ごたえはありました。自分のプレーを代表ではかることはとても難しいが、こういうチャンスは良かった」
 大岩も市川同様、合宿に呼ばれては帰されている選手だけに、本当の意味での「気分転換」ができたのではないか。

 この日は明神も大事を取ってプレーをせずJリーグの関係者には「今の時期のこの試合をする意図がわからない」といった声もあるにはある。大量の故障者がいつ、どのタイミングで代表へベストコンディションで合わせてこられるか、また代表としてのトータルなコンディションニングにおいて、現在がどの位置にあるのかなど全体像が欠如していることなど、「フィジカルコーチ」のいない代表チームに、一部不安が残る点はある。
 しかし、競争、緊張、競争が続く代表選考の中にあって、奇しくも競争であったはずのわずか90分の試合がもたらした「メンタルでの息抜き」がもたらした効果は、これから先の厳しい道のりを思うとき、最後の息抜きであったかもしれない。

 監督は試合後、このまま35人で3月のウクライナ戦(3月21日)を目指した試合まで行くが、ポーランド遠征22人のためには、13人程度を絞らなくてはならない。このため21日の前に、Aチームとサブ、サブに補充をして対アンダー21とのマッチを考えていることを明らかにした。緊張とブレイク、アピールと自己犠牲、あと100日を切った時期に、不思議な感覚を抱かせるゲームだった。



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