2月14日
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◆◇◆ Special Column 〜SALTLAKE 2002〜 ◆◇◆
数字の独り言(3)
「マイナス11度の憂鬱」
札幌五輪で金、銀、銅メダルを独占した輝きを表現したはずの「日の丸飛行隊」などというアナクロな呼び方がもはやふさわしくないほど、ジャンプ競技の世界はこの4年で凄まじいほどの変革、進化を遂げ続けて来ている。長野以来わずか4年で、ルール、マテリアルへの規制など、数回の変更を繰り返した結果、上位の顔ぶれは大きく変わった。
ニッカネン以来じつに12年ぶりに、20歳のアマン(スイス)が個人でノーマル、ラージヒル両方を制覇した際、おそらくコーチと思われる、スイスのオフィシャル・スタッフがインタビューに応じていた。
「アマンのジャンプは、若さゆえの勢いではないと、これで証明できたと思う。技術の安定性がなければ、今は一発では勝てない。強豪国は依然、敬意に値する技術とメンタルを持ちえているが、私たちとアマンは、さらにその上を行こうとしたのだ」
アマンとコーチは特に、世界でもっとも高い標高に位置するジャンプ台(ソルトレーク、2200メートル)の攻略に務めたという。最大のポイントは、飛び出し、つまり踏み切りでの速度の維持と角度への工夫であった、とコーチは言う。標高があるために、まず風の位置が安定しない。この日、2本目に進めなかった葛西紀明(土屋ホーム)、原田雅彦(雪印)、入賞した船木和喜(フィット)らのジャンプはどれも、風が後ろから吹く、ちょっとした気まぐれに翻弄されてしまった、ともいえる。一方で、アマンを含めて彼らのジャンプの際だけに圧倒的に有利な風が吹いていたのではなく、アマンの際などは追い風だった。
次に、安定した踏み切りの分析に徹底的に時間を使った、と断言するのは、不利を発想によって有利に変えたことを言うのだろう。
ジャンプの踏み切り台は、上側に反り返っているように一見見える。しかしじつは、カンテと呼ばれるこの台には、反対にマイナス11度の角度がつけられている。ラージヒルで、日本選手4人全員が口にした「サッツのタイミングが」「飛び出しが」「踏み切りの方向が」と繰り返していたのは、このことを指す。サッツとは、カンテを飛び出す踏み切りのことだ。
もしも、カンテが上向きに反っていれば、ビルの6階から7階に相当する高さから、およそ時速90キロの速度で飛び出すことは不可能で、このために、踏み切りはマイナスの角度で設定され、それゆえ、踏み切りのタイミングが最重要視されることになる。
見るものの目の錯覚は、時に勘違いとなる。
今回、船木和喜の7位が最高という結果は、単に日本選手が不振というのではなくて、4年の時間の中で金メダルを獲得した国さえも、数回にもおよぶルール変更とマテリアルの規制によってマイナス11度の角度に手こずり、翻弄され、代わりに新しい発想と国が、この力学的に極めて不思議な角度と、造形物を攻略したと考えてもいいはずだ。スポーツの技術の「隆盛」を、ジャンプは冬の競技の中でもこれ以上ないほど原始的に示している。
日本が不振から、多くの国が混乱の中てこずった「V字ジャンプ」を発展させた時と同じように、昨日正しかったはずのものが今日はすでに間違いになる可能性さえある。あの時、世界的にもV字への評価は圧倒的に低いもので、飛型点などまったく望めなかったのだ。
この競技がどれほど複雑な技術とマテリアル、そして運や革新性によって構成されている競技なのか。「マイナス11度」の力学は、4年前のディフェンディングチャンピオンの惨敗が、不調とか、不振とか、そんな簡単に言い表せるものではなかったと、計算式をもって言い表したように見える。
だからこそ、日本にも、またチャンスが巡って来る。
■スキー ジャンプ 個人ラージヒル(K120) 決勝 結果
(2月13日=現地時間) |
順位 |
選 手 |
1本目/2本目 |
合計 |
1 |
シモン・アマン(スイス) |
140.5/140.9 |
281.4 |
2 |
アダム・マリシュ(ポーランド) |
137.3/132.4 |
269.7 |
3 |
マッティ・ハウタマキ(フィンランド) |
129.1/126.9 |
256.0 |
|
7 |
船木和喜(フィット) |
128.7/116.8 |
245.5 |
20 |
原田雅彦(雪印) |
115.1/107.7 |
222.8 |
24 |
宮平秀治(ミズノ) |
108.6/106.8 |
215.4 |
■スキー ジャンプ 個人ノーマルヒル(K90) 決勝 結果
(2月10日=現地時間) |
順位 |
選 手 |
1本目/2本目 |
合計 |
1 |
シモン・アマン(スイス) |
133.5/135.5 |
269.0 |
2 |
ハンナバルト・スベン(ドイツ) |
131.0/136.5 |
267.5 |
3 |
アダム・マリシュ(ポーランド) |
129.5/133.5 |
263.0 |
|
9 |
船木和喜(フィット) |
119.5/123.5 |
243.0 |
20 |
原田雅彦(雪印) |
117.5/114.5 |
232.0 |

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