2月15日

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サッカー

練習試合
ジュビロ磐田×セレッソ大阪
(鹿児島・鴨池陸上競技場)
天候:晴れ、気温:13度

 鹿児島県鴨池でキャンプをはっているジュビロ磐田がC大阪との練習試合を行い、昨年のJリーグMVP、藤田俊哉のハットトリックなどで4−3と勝利した。3失点を喫したものの、3ボランチという新しいシステムへの手ごたえも少しずつだがつかみかけ、あと2週間と迫ったJリーグ開幕に向け、合宿を消化している。
 なお、8日にアルゼンチン・ボカジュニアーズから復帰した高原直泰は右内転筋痛のため、大事をとって出場しなかったが、午前中にはシュート練習を行うなど、合流に向けての準備が進んでいる。
 C大阪では、森島寛晃が前日のG大阪戦同様、右太もも痛で大事をとって欠場。西澤明訓は1点を奪うなど、1年と3か月ぶりとなるチームへの合流にも、フィット感を高めている。

磐田/鈴木政一監督「今日は失点が多かった(3失点)が、あまり気にしてはいない。(金沢)浄のパスミスもあれはしようがない。彼にとっても慣れないポジション(左のボランチ)だったからね。それより新しいシステムである3ボランチを実戦で試してみて、収穫はあった。前半の30分は非常によかったと思う。その後15分くらいは、合宿の疲れも出たみたいで要所要所で出足が一歩ずつ遅れていた。でも、最初の30分のような形が維持できれば機能するでしょう。ボールサイドのプレイヤーが次のプレーを読んだり、限定したりするというのはよく出来ていた。課題は3人のボランチの間があまり開きすぎないようにすること。片方のサイドにボールがあるときは、逆サイドのボランチは中に絞っていかなければならない。次の17日の練習試合(鹿屋体育大学、浦和レッズ)に向けて、個人個人が課題を見つけたと思うので、それを少しずつ修正していけばよい」

藤田俊哉「いい形で得点(3得点)はできたけれども、チームのコンビネーションや自分のボールタッチのフィーリングなどはまだまだという感じです。鹿児島の合宿に入って初めての練習試合なのでこれから徐々に上げていければと思います。
 今まであまり攻撃の練習には時間を使ってこなかったけれども、今日はいい形で得点を奪うことができました。ただどんな形であれ、これだけ失点するということは多くの課題があるということだから、そこはこれから修正していかなければならないでしょう。
 今年の新しいシステムである3ボランチに関しては、去年よりも安定した守備からの攻撃ができればと思います。決して守備的だというわけではなく、基本的には攻撃的なコンセプトです。その点ではもう少し、パス交換の中からチャンスを作りたかった。僕自身も点を取ったことを嬉しいけれども、組み立ての部分で、もう少しトライしたい部分もありました。
 開幕に向けては100%の状態を作ればいいのかというと必ずしもそうではない。ある程度自信をもって臨めるような状態を作っていきたいですね」

服部年宏「今は新しいシステムを試している段階だから、今日はその手ごたえをつかみたかった。その点ではまあまあだったと思う。3ボランチにした理由は、アウトサイドからの攻撃に対応するためなので、そういう意味ではほとんどアウトからは崩されていなかったわけだし。ただメンバーが変わってきた時にも、同じレベルでできるかということが今後の課題でしょうね。
 失点に関してはそれほど気にしていない。ワンツーについていかなかったとか、自分でも認識できているミスなので、これからその部分を修正していけばいい。あと、ポジショニングでは、ボランチ同士の距離感。3人の間が広がりすぎてしまうとバランスが悪くなってしまう。これも練習を積み重ねていく中で、だんだんいい距離を保ってプレーできるようになっているので問題ないでしょう。
 高原の加入? 確かに大きな戦力だけど、まだ帰ってきてから一緒にプレーしていないし、彼1人がチームに加わったからといって、大きく変わるようなチームではないですよ、うちは(高原の加入によって、チームのシステムが根本的に変わることはないという意味)」


「あと2週間」

 W杯まで「あと」107日だそうである。テレビでは秒つきのカウントダウンまでしているほどだから、サッカー界で「あと……」とくれば、当然W杯のインパクトのほうが大きい。しかし、「遠くの親戚より」ではないが、“3か月先"のW杯より“近く"のJである。リーグでのパフォーマンスを捨てて、W杯に照準を合わせるような真似は誰もできない。

 戦う、リカバリーに臨む、様々な選手の姿の中でも、「準備する」状態の面白さがある。Jリーグのキャンプを回って、些細なコメントや、意図といったものを拾い集めることは、試合そのもののスリリングさとは別の、こうした面白さに溢れている。

「個人の体調がフィットするようにもって行くことだと思う。チームの調子と自分の調子を両方一致させることは、当然だけれど、これだけサッカーやっていてもかなり難しい課題だからね」

 昨年のMVP・藤田はそう話す。この日のハットトリックで「好調だ」などとまさか思うはずもなく、試合後は課題のほうばかりをあげる。まだ今は、お互いのタイミングやパスの距離もバラバラ。自分の調子が上がる準備段階では不思議と、仲間の調子も同じように上がってくる、だから「チームになる」と藤田は言う。高原もこの日シュート練習を行ったそうだが、個からチームへの形成が、この2週間、もっとも激しく動く時期である。

 磐田は今年、中盤を守備の安定を最重要課題にするため3ボランチにするという。いいか悪いかではなくて、「やる」と決めて選手はかかっているわけで、その結果がどう出るかは現時点でテーマではないだろう。
 この日も、磐田、J2からの昇格を目指すC大阪とも無数のパスミスを繰り返した。しかし、パスミスのラインをたどりつないで行くと、そこにシーズンの結果を明確に占うような「地図」が描かれていたようにも見える。

「準備することはたくさんあるけれど、考え過ぎると忘れたりしてしまう。目の前のことをきちんと消化していくことだと思う」

 1点目を奪ったC大阪のFW西澤はそう話していた。
 彼らが、忘れ物をしないようどんなチェックリストを作り、それを、ワンシーズン戦うためのバッグに詰め込むのか、シーズン中には決してわからない意図がそこにのぞく。
 開幕は3月2日、10年目のJリーグ史上もっとも早い開幕となった。

<2002 Jリーグ 開幕戦 日程>
ディビジョン1 ディビジョン2
3/2(
F東京×鹿島(東京)15:00〜
磐田×名古屋(静岡)19:30〜
3/3(
仙台×東京V(仙台)13:00〜
市原×京都(市原)15:00〜
横浜FM×浦和(横浜国)15:00〜
清水×神戸(日本平)15:00〜
広島×札幌(広島ビ)15:00〜
G大阪×柏(万博)16:00〜
3/3(
川崎F×湘南(等々力)13:00〜
横浜FC×甲府(三ツ沢)13:00〜
水 戸×新潟(ひたちなか)14:00〜
大 宮×鳥栖(大宮)14:00〜
C大阪×山形(長居2)14:00〜
福岡×大分(博多球)15:30〜


Special Column 〜SALTLAKE 2002〜
数字の独り言(4)

「栄光のスケート馬鹿へ続く84歩」

 スローモーションで画面を見ると、岡崎朋美(富士急行)がスタートからゴールまで氷を蹴った歩数は「84歩」だった。女子が37秒台で滑走するには、入りの100メートルを約30歩で走り抜けなくては難しいとされ、長野ではこの日金メダルを獲得したドーン(カナダ)らがその可能性を模索していた。岡崎の100メートルのスピードとこの歩数、つまり、スタート直後には少ない歩幅でばたつくスケートをいかに早い段階で「滑らせる」状態に転じるかは、メダル獲得者に少しも劣ることがない。それどころか、上回っている。

 不調だった昨年末、「スケートは滑るものなんですよね、走っても、蹴ってもダメなんです。こんなに長くスケートをやっていたのに……」と、一見当たり前のような、しかしある程度の境地を極めたかのような話を、ポツンとしていたことを思い出す。
 結果的には6位入賞だったが、レース後の輝くような、そして心から安堵した笑顔を見るまでもなく、岡崎は長野の銅メダルに等しい一種の満足感を得ていたはずだ。

 長野での日本新記録が38秒55。リンクの条件はさまざまだが、4年を経て、さらに記録を伸ばし、37秒77で五輪新(初日の滑走時点で)をマーク。こんな記録はわずか2か月前の状態を思えば考えもつかなかっただろう。長野で行われた距離別選手権で惨敗し、W杯代表から外れた際のインタビューを思い出す。
 あの時、彼女にとっては最悪の時期であり、話はどれもネガティブなものでありながら、なぜかあの苦難を少しも恐れてはいないこと、楽しんでさえいること、五輪までの戦略がすでに頭の中にはあることがわった。(※2001年11月4日付けDaily News掲載のインタビュー参照

 岡崎は、あの明るく爽やかな笑顔とは似ても似つかない、むしろまるで正反対の、花の下にある「泥」を持った選手だ。泥、花を咲かせる、文字通りの「根」、ど根性と表現してもいいといえる。
 富士急で橋本聖子氏が活躍していたころ、彼女は練習にさえついて行くことができなかった。いつでも途中でリタイアしてしまう、そんな選手だった。しかし取材していて、その根の強さゆえ強い印象に残る選手でもあった。コメントには飾り気がなく、こちらがドキッとするようなことをサラリと言ってしまうからだ。
 たとえば風邪を引いて、下痢をしていたことも「まだお腹が緩くて」などと、平気で「テレビカメラ」の前で言ってのける。彼女のこうした、思い切りというか、競技へのざっくばらんな姿勢を支えるのは「私は世界一のスケート馬鹿になりたい」という思いである。

「私には才能がないんです。才能がないから努力とか、工夫とかそんなものでは、とても追いつかない。よく、ファッションや恋愛とかについても、遊びたくありませんか、などと聞かれます。でも、思わないんです。私は世界で一番のスケート馬鹿になりたい、そのためなら何だってできると思うんです。怖いことなんか何もないですよね」
 彼女から聞いた話でもっともドキっとしたのはこのコメントだった。スポーツには、一方で「何とか馬鹿にはなりたくない」とする声がほとんどだからだ。あえて馬鹿になってみせる、などという選手はプロにも、アマにもそうはいない。

 岡崎はスケートに対して腹を括っている。
 この日1本目でフライングをしたが、これも度胸の表れであって、緊張感などではない。得意のスタートでイチかバチかの勝負に出て失敗したとしても、一切悔いなどなかったのではないか。ドン底を見ることも、そこから2か月で這い上がってくることも、この日積み重ねた84歩は、とっくの昔に知っていたに違いない。スケート馬鹿につながるラインを、彼女は楽しんで滑走していた。

 メダルの輝きより、入賞の栄誉より、自分の目指した「スケート馬鹿になってみせる」という理想が、ゴールした瞬間待っていたのだ。手にしたものの重みも価値も充実感も、これまでのレースとは違っていたのではないか。
 メダルや入賞ではなく、形にならない「理想」を20年にも及ぶ競技生活で手に入れた瞬間の気持ちとはどんなものなのか、ぜひ聞いてみたいと心から思う。

■スピードスケート 女子500m 決勝 結果
(2月14日=現地時間)
順位 選 手 1走目/2走目 合計
1 ルメイ・ドーン(カナダ) 37秒30/37秒45 74秒75
2 モニク・ガルブレヒト・エンフェルト(ドイツ) 37秒34/37秒60 74秒94
3 ザビーネ・フェルカー(ドイツ) 37秒62/37秒57 75秒19

6 岡崎朋美 (富士急行) 37秒77/37秒87 75秒64
9 渡邊ゆかり(富士急行) 37秒98/38秒22 76秒20
11 三宮恵利子(富士急行) 38秒25/38秒12 76秒37
12 大菅小百合(三協精機) 37秒82/38秒60 76秒42
※ドーンの37秒30はオリンピック新記録。



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