2月2日
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五輪
ソルトレークシティー冬季五輪
日本選手団結団式
(東京・品川、新高輪プリンス)
新世紀最初の五輪となるソルトレーク冬季五輪に向け、6競技66種目に出場する選手、役員を含む合計218人の選手団(スピードスケートなど一部競技者はすでに現地入りしている)結団式が都内ホテルで行われた。式には主将を務める原田雅彦(雪印)をはじめ、葛西紀明(土屋ホ―ム)、船木和喜(フィット)らジャンプ陣、スケルトンの越 和宏(ホクト産業)らが出席。原田が「日ごろのトレーニングの成果を発揮して(中略)世界平和にも貢献したい」と決意表明を行った。またフィギュア代表の恩田美栄(東海学園)が、先に現地入りしている旗手・三宮恵理子(富士急行)に代わり代理旗手を務めた。
一行は、2日夜から種目の開催日程にあわせて出発。8日からの開会式に備えて現地入りをし、調整に入る。
スキージャンプ/原田雅彦(雪印)「調子は現地に入ってからでないと、よくわかりませんね。もちろん長野の時とは状況が違うけれども、4年間一生懸命やってきたわけだから、開き直ってやるしかない。あとは団体戦。現状では今、日本は4番手なので、何とか上位3チームを蹴散らしていきたいですね。俺が鍵になるね。でも平均年齢が高い。俺も33歳、宮平や葛西ももう30近いし、船木だって26歳だよ。子供たちの育成を組織だって幅広くやっていくしかないですね。
小泉首相からは、長野のビデオが流れている時に、“よくこんなの飛べるね、恐いのに"って言われて、“そうですね"と答えた。だってそれしか答えようがないから。逆に“スキーはなされるんですか"って聞いたら、“スキーは好きだけど、首相になってからはやっていない"って言ってました。あとは、とにかく日頃の成果を十分に出してこいというふうに励まされました。
今日は選手団の主将として結団式で決意表明をしましたが、その大役を終えてほっとしています。オリンピックでジャンプを飛び終えた感じですね。決意表明は前回の長野の時と比べると完璧です。4年前は失敗してしまったんですよ、じつは。(荻原健司選手の)代行だったということもありますしね。今回は責任感も生まれていますし、ほかの選手に勇気を与える決意表明ができたと思います」
スキージャンプ/船木和喜(フィット)「最近、ノーマルヒルを全然飛んでいないのでちょっと心配ですね。4日に飛ぶ予定で、そこでいいジャンプができてうまく感じがつかめればいいと思う。ただノーマルの練習自体は昨年からたくさんやってきたので、技術的な心配はないです。
前回の長野は自分が立てていた予定もすべてこなして本番に臨めたし、勢いのようなものがあったのでまったく心配はなかったけれども、今回はそういう意味では多少不安を抱えていると言えますね。
道具に関しては、気温によって微妙に変わってきますね。前の試合はすごくよかったけれども、次の試合では同じ板でも全然ダメということもあるし。板の固さなんかは気温によって大きく変わるので、それを考えてフィッシャーには何タイプか作ってもらいました。その中からどの板を持っていくか、試してみて昨日までに選びました。持っていくのは3セットです。あとは現地に乗り込んでから実際に確かめてみます。ウエアも、デサントに気温の差に対応して素材や形を変えたものを何種類も作ってもらいました。現地はマイナス25度という話も聞くけれども、これだけあればばっちりですね。
開会式はたぶん出られないと思うけれども、参加できるくらい心に余裕をもって臨みたいですね」
フィギュアスケート/村主章枝(すぐり・ふみえ、早稲田大学)「長野五輪には出場できず、待って待って待たされてついに来た五輪です。待ち遠しかったし、今、満員のオーバルでスタンディングオべーションを浴びるようなシーンを胸をドキドキしながら思い浮かべていますし、成績以上に観客のみなさんにそういう演技を見せたいと思っています。まだ、スケートとスケーティングに角が取れない感じなのです。丸くならないというか、表現が難しいのですが。来週からの最終調整合宿で、角の取れた流れるような演技に仕上げたいと思っています」
「物と人とが噛合う瞬間」
結団式に次いで行われた壮行会には、約1000人近い出席者が立食パーティーに溢れ、さらに小泉首相も激励に訪れたために、会場は人と音でごった返してしまった。そんな中、この五輪から復活したソリ種目、スケルトンのメダル候補、越 和宏(ホクト産業)と立ち話をした。
ソリを思い切ってすべて変えているのだという。あと2週間になってやるには、無謀、もしくは勇気、どちらの表現もあてはまるような思い切った行為だ。スケルトンという名前の持つ響きとは裏腹に、20キロ以上にもなるソリである。無数のパーツ、ネジを組み合わせて微調整を繰り返し、ようやくフィットするようになる。
──今変える理由は? 時間がないように思えます
越 W杯で26位とキャリア最低の成績で予選落ちしたことがきっかけですね。むしろよかったと思ってます。
──なぜでしょう
越 気がついたからです。道具を使う立場が使われていたことに。
──具体的に言うとどういう意味ですか
越 スケルトンを始めてからずっと、ソリも自分も進化し、進化させ続けてきたつもりでした。こうすれば速くなる、と。けれども気がつくと、あまりにも機械の精密さばかりにこだわり、翻弄されて、自分の体の神経のほうが鈍くなっていました。精密の正反対にあるファジー(曖昧さ)こそ、競技の原点だったと思い出したんです。
──精密さを追求した結果、あえてファジーである状態に戻すわけですね
越 はい。非常に矛盾した行為のように思えるのですが、そうなります。
──宮古島、つまり雪も氷も一切ない場所であえて今頃トレーニングしていた理由は、そのファジーさのためだったのですか
越 一応は気分転換としたのですが、実際は少し違いますね。道具を扱う種目、これは冬季五輪すべてにおいて共通ですが、道具に精密さを追求しても、精密なものを扱う肉体がなければなりません。ここが非常に難しい。物と人が噛合う瞬間を求め続けているわけです。僕は宮古島で体を一から鍛え直して、ファジーさというものにも対応できるようにしたつもりです。
──五輪直前に26位とは最悪の結果ですが、そうではなかったと
越 むしろ幸運でしたね。非常にいい形で臨めます。今回、僕が選手団最年長らしいです(37歳)。最年長ともなると、燃えるには、非常に強いプレッシャーでもないとね。大体、ここまでの浮き沈みを思えば、五輪前の最下位など、どうという浮き沈みとは思えませんからね。金メダルだけがほしいんです。これは、自分のためではありません。苦しかった時代、助けてくれ、応援してくれたみなさんへの恩返しのために。もちろん、スケルトンなんて、と浴びた罵声も忘れませんけれどね。
越は、立ち話にはまったくふさわしくない話を、汗だくになって説明してくれ、そして豪快に笑った。物と人が噛合う瞬間、──冬季五輪を越流に表現するならばそうなる。
スピードスケートの清水宏保(NEC)も、最後にたどり着くのはおそらく、スラップで出せる限界のスピードと地球の引力に、自分の肉体をどこまで耐えさせることができるかだけなのだろう。
夏の競技、種目の強さやダイナミックさととはまったく違う繊細さが冬季五輪にはある。その面白さ、反対の難しさ、意外性、同時に底知れぬ恐怖、それらに秘められた奥深さに、何とか触れられないものだろうか。

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