2月9日
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サッカー
高原直泰(磐田)帰国会見
(静岡・ジュビロ磐田スタジアム)
アルゼンチンの経済状況が悪化し、ボカジュニアーズとの契約続行が困難となったために帰国した高原直泰が、ホームスタジアムで帰国会見を行った。8日に帰国、9日は浜松市内でメディカルチェックを受け、10日には日本代表のメディカルチェックのため上京する。その後、チームの鹿児島合宿(鴨池)に合流、厳しい日程となるが、鈴木監督も「15、16日くらいの様子を見て、良ければ17日に練習試合で見てみようと思う」と話している。
<最初に> とにかく早くコンディションを戻して、合流したいと思う。中山さんともまた一緒にプレーをしたいし、いろいろな楽しいサッカーをできればいい。
──悔しさはありますか
高原 できればプレーを続けたいという気持ちはあった。でもこういう時に、自分にとって何がベストなのか、W杯を目指す上で何が自分にとって一番なのかを考えました。
──アルゼンチンで何が成長できたと思うか
高原 言葉で表現するのは難しい。言葉にすると簡単なものになってしまう。プレーを見てもらって、ファンや周りの人が、アルゼンチンに行く前と行く後が変わったと思ってくれればいい。自分でどこが変わったというのがわからない。
──磐田スタジアムで、一からスタートするという気持ちになりますか
高原 自分は与えられたところでやるだけですが、プロになって慣れ親しんだチームメートもいる。一から出発できる環境は整っている。
──アルゼンチンサッカーとの違いは
高原 サッカーの文化が違う。サッカーだけじゃなくて、取り巻く環境も違う。サッカーのことで言うと、フィジカルが強いとか言えるかもしれないが、言葉で言うとありふれてしまう。自分が経験したことはそんな簡単な言葉で片付けることはできません。
──W杯に向けての抱負は
高原 今、自分がやらなくてはならないのはコンディションを整えること。早くベストのプレーができるようにコンディションを上げていきたい。
──FWの争いも熾烈ですが、トルシエ監督に何をアピールしますか
高原 自分のありのままのプレーをすればいい。選手はいいパフォーマンスを見せる必要がある。
──海外にもう一度挑戦したいか
高原 あまり先のことを考えてもしようがない。とにかく自分のベストのコンディションを作ることです。そして、試合に出て活躍すること。その積み重ねです。先のことは今はわからない。
──鈴木監督は、怪我が心配と話していたが
高原 完璧には治っていなかったということです。アルゼンチンでの合宿からブエノスアイレスに戻ってまた同じ場所(右内転筋)に痛みがあった。でも今の状態は非常にいいですから、今日のメディカルチェックでも大丈夫という診断を受けました。焦らずにやればいいと思う。
「チーズ、ワイン、サッカー」
高原がこの日、会見で繰り返していた言葉と、正面を見据える強い視線を見ながら、98年のフランスW杯直後をふと思い出した。
あの時の代表のほとんどがみな同じように、「簡単な言葉で表現できるものではない」「言葉にしたら、ありふれた経験になってしまう」と話し、沈黙した。沈黙は取材する側にとってはもっとも困った手段なのだが、それでも彼らが言わないで、「言おう」としたことは理解できるように思った。同時に、その結果出される言葉の重みと、深さが楽しみにもなった。
4年前、名波浩は「時間が欲しい」と言っていた。
「通用したと思うか、と聞かれて、通用したプレーもあった、と答えると、世界と互角に、とメディアではなってしまう。自分にとってあの経験はそういうものではない。もっともっと細かい話であるし、伝えることには時間がかかると思う」
彼の素っ気なさよりも、サッカーに対する真摯な態度を思った。
4年前、日本代表だった選手、スタッフら39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」を取材しながら、それは矛盾しているのだが、それでもまだ、彼らが日本初のW杯に挑み戦った価値や評価、これらが本当の形になるには長い時間がかかるのだろうと感じ、4年経過した今は、また別の輝きが発見できるだろうと強く確信する。
高原はこの日、「自分でどこか変わったかなどと言えるものではない」と、一見ぶっきらぼうに思えるようなコメントをしたが、実際のところ、これは選手としてもっとも誠実な態度にすぎない。経験を言葉で表現するより早く、ピッチでは1秒で、彼なら必ず表現できる。
そしてもう少しだけ時間が経てば、若いなりに「いい味」の話は聞けるはずだと思う。
何事も、本当の価値が見出されるまでには「熟成」が必要なのだ。チーズも、ワインも、おそらくサッカーも。

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