1月24日

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サッカー

サッカー日本代表候補キャンプ
(鹿児島・指宿)

 今年最初の合宿残り1日となってトルシエ監督が会見を行い、2月に予定されるチーム内のテストマッチを3チーム建てで行うプランを示した。今合宿の選手個々のモチベーションについては「大変満足している」と話し、2月10日からのメディカルチェック中心の合宿、25日からの紅白戦主体の合宿、この3つをまとめて評価するとした。
 注目された三都主アレサンドロ(清水)の起用についても、「ルール、組織を守ってくれれば面白い存在になるし、タッチライン沿いで展開するプレーは日本にとって有益」と、FWとしてではなくサイドバックで想定している。また、中田英寿(パルマ)について、「中田という個人に人間として怒っているようなことはない」とコメントした。
 午前中のラスト30分ほどで練習がメディアには公開された。

    ◆会見より(要旨抜粋)

<最初に>この合宿と2月の2つの合宿は決して孤立して考えられるものではない。3月に始まる親善試合の前の準備をするもので、まずこの合宿は各クラブの調整を手伝うということが目的で、チームの組織、選手個々の役割の確認、これらが目的だった。選手の態度については大変満足しているし、関係者の尽力で環境、とりわけピッチがすばらしい。次のメディカル主体の合宿もセットで考える。今回合流してくれたラマ氏(フランスW杯代表GK)の存在は非常に大きい。日本サッカー界がオープン化される中でこういういい動きが起き得ると思うし、若いキーパーに経験を伝えてほしかった。三都主については、今はまだジャッジをすることはしないが、チームへはよく溶け込んでいて何の問題もない。

<質疑応答>

──W杯まで残り4か月、何が必要か
監督 これまでもうこの質問に100回答えている。今日が101回目というわけだが、W杯がもし明日始まるならば準備はできている。これから落ち着いてコンディションを上げて行きたい。私のチームのグループは完全に出来上がっている。

──25人で考えていると言いながら41人を招集する理由と狙いは
監督 簡単に言えば、25人を安心させたくない。例えば前田にも言ったが、W杯に今出られるチャンスは5%かもしれない。しかし西澤、高原、鈴木がもし怪我をすれば、確率は10%になるかもしれないし、8割が決まった中でも20%にかける意識は持ち続けてもらいたい。一番の理由は、私がまだ固定をしたくないという意志をもっていることだ。

──名波選手について、怪我の心配は
監督 心配はしていない。彼にも話をしたが、決して遅れているわけではないし、ゆっくり焦らずにやってほしい。今回、こうして顔を出し、チームを訪問することは意義があった。

──今回、イタリア戦から時間が開いたが
監督 まず大事なのはしっかりと休むオフを与えることだ。クラブがあって、その試合を通じて準備をしてほしいし、その点でこの合宿が(リーグと)孤立したものであってはいけないと思う。例えば韓国は、今右サイドは誰がいいか、左は、といったレベルの話を依然していて親善試合を行う中で適応性を見ているが、我々は今その段階にはない。

──中田選手のことについて
監督 起きていることすべてをネガティブに捉えていくことはないし、私は中田という個人を人間として怒っているようなことはない。ただ、この4年、彼がイタリアでプレーし代表で一緒に過ごす時間が多くできなかったことはハンディだと言っているだけだ。2つ考えられる。1つは、私が要求している動き、義務、戦術を守ってくれるならば不可欠な選手であるこということ。もうひとつは、エゴをもっているならば、試合に出られるかわからないということで、もちろんこのメッセージは中田個人へのものではなくて、誰へも同じものだ。

──三都主の順応性については
監督 組織のプラスになる個人的な能力については問題ない。実力は日本のみなさんがすでに彼をMVPに選んでいるわけでチームの組織、ルールを守ってくれれば面白い存在になる。タッチライン沿いで展開するプレーは日本にとって有益だ。

──秋田、小笠原、前田について
監督 小笠原のライバルといえば、中田(英)、小野、森島という選手だろう。誰かが怪我をしたり不調が続いたら、小笠原は自分の運を信じなければならない。秋田は、すでに中田(浩)、宮本、森岡、松田らが作り出すひとつのシステムに上村、大岩といった選手と食い込んでいかなくてはならない。

──今回、ファンサービスをするのか、それと代表の練習は基本的に非公開か
監督 この段階ではファン、マスコミに練習を公開するには集中力が削がれてしまう。いろいろなカメラやファンから見られたくないし、今はまだ実験室である。

──2月のテストマッチ(紅白戦が予定される)の目的は
監督 国内3つの合宿はどれも孤立はしていない。25日からの合宿では(三角大会と訳されたが、3チームの対抗の意味か?)親善試合への準備を整える。また代表の新しいユニホームが製作され、まさに代表のスペクタクルを見せるにふさわしい場になる。少しずつ代表への情熱を上げていくことが必要で日本代表をここ(25日からの合宿)で紹介するのは義務だと思う。


「同じ意味、違う解釈」

 W杯年頭の合宿が静かにスタートし、賑やかに終わる。思った以上にボールを使い「厳しかった」という選手もいれば、「クラブの練習とまったく同じで何も苦しくなかった」という選手もいる。「フィジカル的には疲れた」という選手もいれば「フィジカルはまったく平気、むしろメンタルが苦しい」と答えた選手もいる。40人もの選手が3つのグループに分かれてかわるがわる登場し、それぞれ小さな輪を作ってインタビューに答える、こうした方式は代表の取材で定着し、メディアにも選手にも互いにリーズナブルな方法となっている。1人ではとても聞き取れないので限界はあるが、多くの選手のコメントを手にし合宿が終わる時、コメント内容だけではなく、その重みを改めて考える。W杯取材を占うものとしてである。

 中田がイタリア紙に代表についての発言をしたことがこの日、各スポーツ新聞で報じられたようだ。取材していないものに対して何か言うことはタブーだが、面白いのはその内容である。
 この日、グループごとの選手会見が行われ、柳沢、久保といった選手も順番に登場した。人だかりの中で柳沢は冷静に言った。

「どんなにいいプレーをしたとしても選ぶのは監督ですから、自分がいなくてはならない、これから先4か月でW杯といったところでそれでサッカー人生が終わるわけでもない。自分も4年前は岡田監督の代表には選ばれなかったわけですから、自分が必ずしもいなければ、とか、いて当たり前ということで(W杯への質問に)答えることは難しい」

 無口で、合宿では監督に会うたびに、「話せ」「しゃべろ」と言われていると笑った久保もこう話していた。風邪で38度の発熱をしたそうだが、この日は体調も元に戻った。

「監督が選ぶわけですから、自分が代表にどうかと聞かれても、それは言えません。ただ、自分でできることはこの何か月かですべて出し切ろうとは思っています」

 森島はフランスでは出場時間は少なく、今回はそのとき足りなかった自分の何かを埋めたいという。
「何としても出たい、そういう気持ちはある。でも、まずはチームがあって、組織があって、その中で役割を果たせるかどうかです」と、カメラのフラッシュに眩しそうにまばたきしながら話していた。

 中田が新聞に話した内容を見ると(もちろん通訳が2度入っているため解釈は非常に難しいはずだが)ほぼ、というより全く同じことを言っているに過ぎない。
 当然、中田の持つ影響力はまた違うものがあることは明白だが、「W杯に出たい」という気持ちを、どう表現するかはそれぞれ違うはずで、同じことを話していながら、片や「爆弾発言」であり「W杯断念」になり、片や「虎視眈々と出番を狙う」となる。
 同じ意味、違う解釈は、「受け取るほう」の都合による。中田の件に限らず、メディアの都合が、誰かと誰かの間をつなぐ状態は、じつは選手も読者さえも望んではいないのではないか。40人もの選手が代わる代わる登場し、ほぼ同じ質問に答えるW杯イヤー最初の合宿を2日間取材し終えてそんなことを思った。

◆◇◆代表候補合宿アラカルト〜記者会見より◆◇◆

取材・文/松山 仁

■人生が変わる〜鈴木隆行(鹿島)
「今年はW杯があるので、僕にとっても非常に大事な年だし、日本にとってももちろん大事な年になるでしょう。そういう意味では例年以上に強い気持ちで臨みたい。今回の合宿にはいい状態で入れるように、早い段階から意識して体を動かしていたので、自分なりに集中してできたと思う。どのへんがアピールできたかはわからないけれども、現時点での100%の力を出し切ることができた。
 自分はFWというポジションなので、今年は特に得点をとるということが大事な仕事になってくるし、そういうところをアピールしていきたい。去年の2月の合宿(福島・Jビレッジ)では、周囲の選手と技術的なギャップをすごく感じた。今年は意識の部分でも変わってきたし、求めているレベルもどんどん高くなっている。だからといって少しでも甘い気持ちでいると今の立場からどんどん下がっていってしまう。そういう意味では23人に選ばれるかどうかの厳しいラインに立っていると思っている。
 W杯に出ると出ないでは自分の人生がまったく変わってくる。今年は本当に自分にとって一生の中であるか、ないかというくらいの重要な年。絶対に23人に残って、W杯に出場したい」

■自信はある〜秋田 豊(鹿島)
「W杯の年だからといって、特別なことはできないので、いつも通り自分にできることをアピールしていくしかない。そういった意味では、今年もいつもと変わらない。ただ自信はある。
 今回の合宿では自分の特徴が生きるような練習がなかったので、プレーでのアピールという点では難しいかもしれないが、声を出したりして、チームの舵取りのような役割をしていく中で自分の存在がアピールできればと思う。
 とにかく、今目の前にあることをきちっとやること。それさえできれば自分は代表にも入れると思っているし、4年前も同じ気持ちで取り組んでいた。望みがあるから、今回も代表候補41人の中に入っているわけだし、99%無理だと言われても、残り1%の可能性があるのならば、そこにトライしていきたい。サッカーにレギュラーはない。毎試合、毎試合がテストで、その中でチャンスをもらって、自分のいいところを一番出せたやつが、ピッチに立てるのだと思う」

■走力テストNo.1〜前田遼一(磐田)
「去年初めて代表候補の合宿に呼ばれたけれど、今回はまさか呼ばれるとは思っていませんでした。フィジカルは1回1回の練習はそれほどきつくないけれども、日に日に疲れがたまっていって、後できつくなってくる感じです。ボールを使った練習は同じことを繰り返しているので、だいぶ慣れました。インターバルの走力テストでは、一番になりましたが、それは別にアピールになったとは思いません。もともと長距離は高校の頃から得意でしたから、自信がないことはなかったですけれども。
 僕は身体能力で勝負するようなタイプではないので、トラップでかわす技術や足元のテクニックを磨いていきたいし、そういう部分を代表選手のプレーを見て学べればと思います」



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