1月23日

※無断転載を一切禁じます


サッカー

サッカー日本代表候補キャンプ
(鹿児島・指宿)

 40人で行われているサッカー日本代表候補のキャンプ3日目で、東京Vの三浦淳宏と福岡の山下芳輝(2月1日から仙台へ期限付き移籍)の2人が故障のため離脱し、それぞれチームに戻った。キャンプでは主に体力トレーニングのレベルを測るなどしているため、ともにチームに帰っての調整で今後の練習に備える。
 午前練習は全員でボール回し、GKからのスタートからシュートまでのコンセプト練習と約1時間半行われ、午後はグループを分けて筋トレ、夜には、選手による(交代で行う)最初の会見が行われる予定。またFWの久保竜彦(広島)が、風邪による発熱のため練習を休んだ。

三浦淳宏(左下腿部痛)「それほどたいしたことはない。大事を取ってということです。今回ここに来て、監督や選手、みんなと話すことができてよかった。初日は筋トレ、昨日は治療、リハビリをやっていた。今焦っても仕方がないので、自分の体を早く100%に戻して万全の体制でサッカーに臨みたいと思う。今は7割くらいの出来だと思う。(代表復帰は)コンフェデレーションズ杯以来になるけれど、やはり会って話すのは違いますね」

山下芳輝(左足ハムストリング痛)「今月7日からの自主トレで違和感がありました。走るのは問題がないが、瞬発系に不安があるので合宿に来てからできるかどうかを判断しようと思っていました。帰ることは今朝決めました。チームと代表では雰囲気が違うし、いい刺激になった」


選手会見

 キャンプ3日目となるこの日の午後、選手たちがグループごとに個別の会見を行い、ボルトンから帰国して1週間で合流した西澤明訓(C大阪)、吉原宏太(G大阪)、北嶋秀朗(柏)、そして中山雅史(磐田)ら、熾烈なポジション争いを展開するFW陣がそれぞれの思いを話した。


「普段通りか、アピールかそれが問題だ」

 残り10%の扉をこじ開けること、つまり吉原のユニークな表現を借りれば「自分の悪いところでも構わないから、印象を与える」これが、代表入りの切符を目指すものたちにとっての最大のテーマではある。
 しかし、この時期、フィジカルの出来もバラバラであるし、組織的練習もない、しかも大所帯でグループごとにメニューが進行していく状況を思うと、これは実際のところかなり難しい仕事のはずだ。

「アピール、といってもどこで何をアピールするか、この合宿では見つけづらい。普段通りの力を出せば、と(平常心で)臨めばなんだか目立たなく、目立たなくなってしまって、監督にはすぐに見透かされますし、アピール、アピールとなると今度は力が入ってしまう。いや本当に難しいです」

 W杯を迎えた合宿の雰囲気は、周囲が思うほどギスギスしてはいないが、周囲が思うほど普通でもない。この時期、人数を絞っていない合宿の、良い意味でも一種異様な雰囲気を、吉原の言葉はわかり易く示している。
 サイクルに慣れようと、すべての時刻は15分前に時計を合わせて「待機」する。しかし、緊張とは面白いもので、15分前直前になって眠気に襲われ、寝入ってしまう。
 会見場に眠そうに、そう苦笑いしながら走って入って来た吉原の表情は、むしろ率直さや素直さを現していた。

 1月の中旬と、かつてないほど早くスタートする合宿の位置付けは、フィジカル面でもメンタル面でも、ましてW杯イヤーとなればそれは選手にとって想像以上に困難がともなう。この合宿の本当の「テスト」とは、毎日行なわれている体力テストで出る数値の見極めにあるのではなく、選手個々のW杯へのビジョンとそれに向けての手法、ペース配分の面白さである。
 熾烈と言われ、個人的には昨年から雑誌上に連載をして来たFW陣には、特に、この「ペース配分」が個性となって現われている。
 西澤の武器はおそらく、「マイペース」という哲学だろう。ボルトンで試合に出られない、だからパフォーマンスもフィジカルも同時に落ち込む、試合カンもなくなる、こういう悪循環には決してはまることのない「強さ」がある。

「ガムシャラにやってますよ」
 西澤はこの日の会見で、そう話し小さく笑った。今回はコンビネーションではなく個々の力をアピールする場、と捉える。監督からはJ2でW杯を目指すためには意識を常に高く置くこと、と言われたという。
「決して楽ではないですが意識は落とさなければやれると思う」
 J2にいることは、FWの西澤にとってはむしろプラスに作用するはずだ。

 中山は4年前のW杯へのスタートも経験しているFWである。だから余裕も、本番までのペース配分もすべて熟知している。
「自分のことをよくわかっていることが大事だと思う。今の時期にやるべきことを見極めていないといけないよね」
 ベテランがサラリと言ってのける言葉には重みがある。
 吉原も「中山さんの落ち着きというか存在感は、この合宿でどうすりゃいいんだ、とペースがつかめないでいる自分にとって、本当に大きなものです」と話す。22日の夕食の時に、中山は吉原にも「力の出し惜しみはしない」「ハートこそ大事だ」と助言をしたそうだ。

 吉原と、「選ばれると選ばれないとではとんでもない違いになってしまう」とこの合宿に賭けて来た北嶋、昨年FWとして最長出場時間を果たした鈴木隆行(鹿島)、イタリア戦で技術点、印象点その両方を強烈に見せつけた柳沢敦(鹿島)、この日は下痢と発熱でリタイアした久保竜彦(広島)、ハムストリングの違和感で福岡に戻った山下芳輝(福岡)、最年少の前田遼一(磐田)。同じFWではあるが、ペース配分には大きな差、個性がある。もしかすると彼らが試合でゴールを狙うのと同じような嗅覚がそうさせているのかもしれない。
 FWについては誰が生き残るかというより、どう生き残るか、選手には申し訳ないがそんな想像力をかきたてられる。

1か月ぶりにボールを蹴った右サイドの市川大祐(清水)「今日、怪我(右足首捻挫)をして1か月ぶりにボールを蹴って、本当にいい感じでした。初蹴りでした。(そういうレベルにあってもボールを蹴るのは特別かと聞かれて)本当に不安がありましたし、いくらサッカーをやってきてもドキドキするんです。ですから、今日は痛みもなく本当にうれしかった。僕にとっての正月でした」


◆◇◆代表候補合宿アラカルト〜記者会見より◆◇◆

取材・文/松山 仁

■1日1日を大事にしたい〜三都主アレサンドロ(清水)
 初めて日本代表候補合宿に参加した三都主は、周囲の過剰な注目に戸惑いながらも、熾烈を極める左サイドでのポジション争いを勝ち抜く自信と決意をのぞかせた。
「代表では新人ですから、慣れるまでには時間がかかる。でも、自信はあります。自信がないとこの厳しい争いの中では残っていけないと思う」
 22日のインターバルテストでは、ずば抜けた走力を見せつけた。フィジカルや技術の面では代表候補選手の中でもトップクラスであることは間違いない。しかし、戦術の理解に関しては、ハンデがあると感じている。
「正直なところ、去年は代表の試合を見て、自分も十分やれると思っていたけれども、実際に練習に参加してそんなに簡単なものではないことがわかった。ポジションは同じ(左サイド)でも、エスパルスとは全く要求されることが違うから」
 トルシエ監督からは、練習の中でボランチがボールを持った時の動き方や、右サイドから攻撃している時のポジショニングに関して指示を受けた。それでもわからない部分は他の選手に聞く。特にエスパルスでチームメイトの戸田には毎日質問ばかりしているという。
「あと4か月しかないと思っても仕方がない。それよりも、1日1日を大事にして、合宿の中でわかった課題を1つずつ早めにクリアしていきたい」
 あと4か月、日本代表から三都主が吸収したものがそのまま、日本代表のプラスアルファになることだろう。

■4年前と違うのは〜中山雅史(磐田)
「トルシエ監督からは(この合宿では)特に細かいことは言われていません。気持ちを全面に出して、ということは声を大にして言っていたけれども、それは個人個人がわかっていることだと思いますよ。
 僕自身は合宿に呼ばれて、その都度自分のやれることをやるしかない。そのためには、体と心、両方のコンディションをベストの状態にして臨んでいかなければなりませんね。今年がW杯だからというのではなく、常にもっとうまくなりたいと思っています。飛躍的なレベルアップは無理でも、少しずつでいいから。あとは、チームの中でいい雰囲気を作っていければとは思います。1つ1つの細かいプレーに関しても、お互いに声をかけあえるような関係が作っていければベストですし、馴れ合いではなく、厳しさが必要ですね。
 4年前と違うのは(年齢が一回り違う)同じ干支の選手と一緒にやっていることですかね。他の選手よりも年を重ねていることが、経験の差として出るのか、それとも体力の差として出てしまうのかわかりませんが、少なくともプラスの方向に変えていきたいですね。
 単純に比較はできないけれども、4年前も突然代表に呼ばれて、運よくW杯のピッチに立つことができた。その時と今は立場的には大差はないです。常に危機感をもって臨まなければいけないという立場にいることは十分認識しています」

■自分の立場は〜北嶋秀朗(柏)
「この合宿に参加するまでに、だいぶ体を作ってきたので、自分としてもコンディションがかなりいい状態で臨むことができたなと思います。僕の立場であれば、本当はもっともっと体が動くようにしておかないといけないのかもしれませんが。
 今の自分の立場は決していいものではないし、そのことは十分わかっているので、この合宿でもこれからも自分をどんどんアピールして、北嶋という存在をトルシエ監督に示していかなければならないと思っています。結局、FWは点をとらないと評価してもらえません。だから自分にできることはJリーグで点をとりまくっていくことしかありません。
 代表の合宿にきて一番刺激を受けたのは、個々の選手の意識の高さですね。リラックスルームでの話を聞いていても、みんな将来の目標をすごく高いところにおいているし、そのためにやらなければいけないこともしっかり自覚している。僕なんかは特に発言するわけではないですが、そういう話を聞いているだけですごく勉強になります。これは残念ながら柏レイソルではなかなか体験できないことです。逆に代表では、それが当たり前になっている。今回、久々に合宿に参加しましたが、一番の収穫はプレーよりもむしろ、そういった意識の部分だったかもしれません」



読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い


BEFORE LATEST NEXT