11月27日

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サッカー
第22回トヨタ ヨーロッパ/サウスアメリカ カップ
バイエルン・ミュンヘン×ボカ・ジュニアーズ

(国立競技場)
キックオフ:19時13分、観衆:51,360人
天候:晴れ、気温:13.3度、湿度:36%

バイエルン・ミュンヘン
(ドイツ)
ボカ・ジュニアーズ
(アルゼンチン)
1 前半 0 前半 0 0
後半 0 後半 0
延長前半 0 延長前半 0
延長後半 1 延長後半 0
109分:クフォー  

 連覇をかけたボカ・ジュニアーズは前半からMFリケルメ、FW2トップのデルガド、バロスケロットが、コンディションの必ずしもよくないバイエルン・ミュンヘンを攻め立てた。しかし開始18分でDFのマルティネスがアクシデントから、まだ誰もアップをしていない段階で交代。またデルガドをはじめ2人の選手が途中でスパイクを履きかえるなど、アクシデント、ハプニングが起きる。
試合データ
バイエルン   ボカ
21 シュート 6
9 GK 15
8 CK 0
23 直接FK 19
8 間接FK 2
0 PK 0
 27分には、デルガドへのロングボールが、GKカーンと1対1の絶好のチャンスに。しかしカーンがエリアを飛び出してこのボールをスライディングでクリアし、ピンチを逃れる。直後の29分には、バイエルンのDFクフォーからバロスケロットが奪ったボールがフリーのデルガドに渡ったが、シュートをゴール右に外し、ボカは前半を通じてわずか2本、しかしながら決定的なチャンスとなる2本のシュートを外し、ゲームの流れに大きな影響をもたらした。
 さらにすでに19分、オフサイドの判定後に故意にシュートを打って警告を受けていたデルガドが、前半ロスタイムにも、ゴール前でGKとの1対1に故意に倒れこんだためにこれで2枚目の警告を受けて退場。前半で1人少ないというハンディを背負ってしまった。
 後半、ボカは同じメンバーで守備を固める。試合はミュンヘンが押し続けるものの、固い守備でこれを退ける。トップに残したリケルメにボールを集めるが、最後の突破ができず。人数が少ないために貴重なチャンスとなるはずのFKからの攻撃にも、突破口を見出すことができなかった。
 そのまま試合はバイエルンが少しずつ調子をあげて行く格好で延長戦へ。延長後半4分、左コーナーキックからゴール前の混戦となり、クリアボールが流れたところを、バイエルンのDF、この試合ミスを連続していたクフォーに右足で決められて109分で初の失点を喫した。ボカは1人退場の中で、ボール支配率がわずかに38%という状況に耐えたが、最後に振り切られた。バイエルンはトヨタカップ初優勝となった。

    試合後の会見より

ボカ・ジュニアーズ ビアンチ監督


「今日はどちらかのチームが勝っているというのではなく、均衡したゲームだった。両クラブとも全力でプレーしていたと思う。均衡が崩れたのは、デルガドが退場(前半ロスタイム)してからで、そこから試合の性格が変わってしまった。デルガドがうちのチームからいなくなってからは、バイエルンにボールを支配される場面が多くなった。ただ、我々のチームは1人少なかったにもかかわらず、90分を戦い、ロスタイム、さらに延長戦まで戦った。つまり90分以上(実際は約80分)、1人少ない状況で戦っていたということもできる。負けてしまったが、自分たちのプレイヤーのことを誇りに思っているし、これからもボカで力を出してくれると信じている」

――デルガドが退場した後、ゲームプランは変わったか。
「実際には彼が退場した後は、4−3−1−1のような形でFWが1人減った。ただ、チームのフォーメーションはよく機能していた。惜しかったのは、セットプレーでの失点、GKのミスなどで、これらの小さなミスをおかしてしまったことだ。しかしながら、我々は1人少ないにしては、非常にいい試合をした」

――レフェリーの判定によって結果が左右されたと思うか。また、1点取られた後、もっと積極的にいってもよかったのではないか。
「強調したいのは90分以上も、我々は1人少ない状態で欧州チャンピオンを相手に戦ったということだ。1点は取られてしまったが、それも奇妙なゴールだった。それ以外の得点チャンスは与えていない。もし11対11で戦うことができたのならば、我々が勝っていただろうし、仮にこちらが11人で相手が10人であれば、こんなにハッピーなことはなかっただろう。レフェリーの判定に関しては、答えは差し控えたい。自分が思っている以外のことを言ってしまう可能性もあるから」


バイエルン・ミュンヘン ヒッツフェルト監督

「この試合に、最終的に勝てたことは嬉しい。ただ、時間がかかり過ぎた。もっと早く1−0という結果を出しておくべきだっただろう。全体としてはバイエルンがゲームをコントロールしていたし、ボカよりもいいプレーをしていた。ボカは1人少なかったということもあるが、ゲームを作っていこうとはしていなかった。それに対して我々はボカの選手をよく走らせた。スピードがあるゲームではなかったが、耐えるということを通して、ゲームに勝つことができた」

――バイエルンの選手は素晴らしい身体能力を発揮していたが、それについてはどう思っているか。
「私たちの選手は体力的にきちんとできると信じていた。問題は意志の力である。つまり疲れている体に鞭を打って、プレーする意志だ。選手たちはよく戦った」

――何度がチャンスを作ったが、最後のところで崩せなかった原因は何か。
「原因はシュートが少なかったことである。そもそも、トップクラスのチームが対戦する場合は、シュートチャンスはそれほど多いものではないし、運も必要だ。ただ、私たちはシュートのチャンスは多く作ったと思う」

――クフォー選手は前半はオウンゴールをしそうになった場面があった。一方、後半ではいいチャンスも作った。こういった選手を監督としてはどのように思っているのか。
「サッカーは幸運と苦しみが非常に密接した競技だ。相手のカウンターにより、0−1という結果につながらなかったことは幸運だった。大事なのは選手を信じることで、クフォーは確かに前半はミスもあったが、プレーの中で徐々にパフォーマンスをあげ、期待通りに点を取った。最初はよくなかったが、プレーの中で調子を上げていくことができることを彼は示した。チームの中でもクフォーのプレーはどうかという批判を時々聞くが、今日の1点で彼は素晴らしいプレーができることがチームにもわかったと思う」

――クラブにとって、この勝利はどういう意味を持つのか。
「当時はトヨタカップではなかったが、バイエルンは25年ぶりに優勝することができた。クラブにとっては、プレステージという点で大きな意味があった。すでにバイエルンは世界的なステイタスを確立しているが、それでも実際にどんなタイトルを獲ったかということは重要である。私の仕事が報われた。スーパーカップには勝てなかったので、トヨタカップは獲るという野心をもって、私たちはここに来た」

――昨日の会見で監督は、「歴史を作る」と言ったが、今日の結果はまさにその通りだったと言えるか。また、サッカーの世界にワールドランキングというものがあるとすれば、バイエルンはNo.1だということか。
「私に言えることは、バイエルンはこの試合に勝ったことで、まさに歴史を作ったということだ。そういった意味では、No.1チームだと言っていい。ただ、現実には、すでにブンデスリーガの次の試合が迫っているので、そちらにも力を注いでいかなければならない」

――途中出場したスフォルツァ選手は、今後も活躍の場があるのか。
「スフォルツァは、バイエルンにとって重要な選手の1人である。来シーズンもチームでプレーすることになると思う。彼との契約はまだ何年かあるのだから」


「噛合わないサッカー」

 今年で22回目、もういくつもの歴史と時代を刻んだプレーを数えたはずのトヨタカップの対戦でありながら、それでもこの日のピッチには意外な「初」があった。欧州と南米のNo.1クラブ同士の対戦で、ドイツとアルゼンチンのクラブでの試合は、この日の対戦が初めてだったのである。
 これといった特徴的なシーンも、際立った戦術もない。もちろん片方で一人少ないのだから、不完全ではあるが、この試合が過去のゲームと圧倒的に違うとすれば、これほどまでに両者が絡まない、噛合わないサッカーが展開されたことはかつてなかったという点ではなかったか。
 試合がつまらない、という平易な表現以上に、なぜかドイツとアルゼンチンの、もちろん国の代表ではないから、両クラブのサッカーがまったく絡まないという点で、もしかすると最後になるかもしれないカップ争奪は歴史に残るものだったといえる。バイエルンが仮に機能美、を追求しているとすれば、ボカは、デザイン性を重視している。バイエルンは計算しながら建築図を描こうとしているとすれば、ボカは、イメージを重視してデッサンをしようとしている。サッカーでいえば、ボカはたとえ触られていなくても、オーバーに倒れこむことをサッカーと解釈し、バイエルンはどんなことがあっても倒れずすぐに起きることをサッカーだと解釈する。サッカーとは、たったひとつのボールを巡って、解釈と哲学の違いをぶつけ合っているような、究極のコミニケーション・スポーツである。一方では、両者の解釈の接点も、互いの攻略といった形で存在する。
 しかしこの試合では両者「わが道を行く」かのようなサッカーを貫いたために、過去にも例をみない、どこかモチベーションが低く感じられる展開になってしまった。

「私たちは、耐えることのみを通じてこのゲームをものにしたといえる。サッカーでは忍耐、意志の力こそすべてであり。疲れているとき、自分に鞭を打たねばならない」
 バイエルンのヒッツフェルト監督は試合後の会見でそう話した。
 ボカのビアンチ監督は、バイエルンがいわば忍耐の末に獲得したかのような渋いゴールを「実に奇妙なゴールだった」と表現した。無論レフリーの判定への不満はあろうが、それは口にしない。奇妙なゴール、不思議な得点という表現に、バイエルンのサッカーに対する気持ちのすべてがにじんでいたのではないか。
 得点をした、ガーナ代表クフォーは、前半では危うく試合を落とす筆頭責任者になりかねないほど怠慢なプレーを連続していた。監督の考えるサッカーの美徳と解釈である忍耐によって、交代はせずにいた彼に、今度は運が舞い込んだ。
「一人少ない相手に負けることはできない。前半はよく凌いだと思うし、挽回をしたかった。我々は最後まで我々の試合をしたと思うし、勝てた理由はそこにある」
 クフォーはミックスゾーンで母国のテレビ局にそう話しながら、祝福を受け続けていた。
 ボカはほぼ全員が無言のまま、ファールと判定に口をとがらす選手が多い中で、リケルメは「不満があるのは、私が考える良いサッカーができなかったことだ」とだけ答えていた。
 サッカーの不思議な魅力はしかしこの試合で存分に見られたように思う。戦術やテクニックの違いではない。解釈、哲学、もしかすると人生観までもが交差する90分のピッチの、不思議な魅力と魔力の両方を。



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