10月23日

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サッカー

日本代表候補合宿
(静岡県)

 11月7日のイタリア戦(埼玉スタジアム2002)に向けての、代表候補合宿が22日から2日にわたって静岡県内で行われ、この日は練習が公開された。
 イタリア戦は、今年最後の日本代表Aマッチとして予定されている、いわば仕上げの試合となる。中田英寿(パルマ)をはじめ欧州に移籍している選手5人、南米の高原直泰(ボカ・ジュニアーズ)、廣山望(セロ・ポルテーニョ)、またこの合宿にはアジアクラブ選手権のために招集されていない鹿島の柳沢敦、鈴木隆行、中田浩二らを欠いた合宿で、主に戦術の確認と意識統一、またチームとしての闘争心の維持といった点に主眼が置かれた。
 練習が公開され、選手の会見もその後に行われたサービスデーのためか、トルシエ監督がまたも「もっと激しく、もっと力強く、悪くプレーしろ(通訳による。ダーティーの意味か)」と絶叫。闘争心が見えない、と、初招集されたFW前田遼一(磐田)の胸を何度も突き飛ばし、DF中澤佑二(V東京)、FW山下芳輝(福岡)らの頭を小突くなど、恒例の熱いパフォーマンスが繰り広げられていた。
 森島寛晃(C大阪)は、前日のミーティングだけのために呼ばれ、この日も別メニューでの練習に参加。ひざ痛の久保竜彦(広島)、トルシエ監督から別メニューを言い渡された吉原宏太(G大阪)らは、ピッチの外で軽いランニングなどの調整を行った。イタリア戦に向けての代表は、30日に発表される。


「遠征の手土産は」

 イタリアのメンバーはまだ発表されていないが、今年、フランス遠征をスタートに始まった「実験の第2段階」「新たなステージ」と監督が表現した代表の2001年のハードル競争は、いよいよ最終コーナーにさしかかったといえるだろう。
 今年を障害レースにたとえるならば、新しいハードルのひとつはこれまでにないフィジカル、テクニカルを持った相手との対戦であり、もうひとつは自分たちの成熟度にある。
「(イタリアのDF)カンナバロ(パルマ)に負けるな」といった実名を挙げての指示が飛ぶ中、この日の代表は特に接触プレー、動き出しでの激しさを要求されていた。

 Jリーグでの出場も頻繁ではなく、こうした練習にはまだ対応するのが精一杯という前田遼一(磐田)に、監督は「もっと激しく動け」「なぜ声を出さない」と胸を突き飛ばして、闘争心のアピールを強く求める。途中には、大声で意味不明の怒鳴り声をあげるなどしていたが、「今日は監督のアピールの日なんでしょう」「みなさん(報道陣)がいらっしゃったから」と、もはや「フィジカル」での闘争心や1対1での当たり負けしない対応といったテーマには、選手のほうが冷静に対応しているといえる。

 イタリア戦へ向けて最大の焦点となるのは、2番目の成熟度のほうだ。
 同等、格上との対戦でどこまでフラット3で対応できるか、どこで見切りをつけて5バックに変えるのか、といった守備での要素である。DFの選手は「イタリア戦で問題を出し尽くすことになるだろうし、そのほうがいいのではないか」と言った分析をする。
 アフリカとの2試合では、身体能力から当然ではあるが、これまで身体能力が高いと評価されたはずの松田直樹(横浜FM)、森岡隆三(清水)、サイドでも波戸康広(横浜FM)らが激しく揺さぶられ、結局はファールで倒す、あるいはミスをしてそのまま得点されるといった守備的な破綻が起きている。

 問題は、厳しい日程を組んで対戦したセネガル、ナイジェリアとの試合後、それは本当の土産ともいえるべき課題だが、これを得て、明らかに格上との対戦を強いられる本番につなげるか、現実路線をどこに求めるかにある。今年1年、代表は成果をあげ、欠点も露呈した。積み重ねるばかりではなく、小さな針路変更も当然必要だ。次に進むべきステージ、監督が言うところの「ミニラボ」(小さな実験室)の次の部屋はどこなのか。
 メンバー発表は30日、合宿3日で臨むイタリア戦では土産の中身をぜひ披露してほしい。


「殴り返すくらいじゃなきゃ」

 この日、仲間が監督の派手なパフォーマンスに戸惑う中、中山雅史(磐田)は大声を出し、チームのムードを前向きなものに変えていた。
「自分に求められているものもあると思いますからね。合宿はチームの雰囲気を高める意味もあるので当然でしょう。イタリア戦は厳しい試合になるし、技術、フィジカルうんぬんはあるけれど、一番重要なのは1回やってダメなら2回、2回やってだめなら3回、それをやり抜く精神力、集中力が大事」と、現在はコンディションが非常にいい、と強いモチベーションをもってイタリア戦に挑むことになりそうだ。

 今季のJリーグ得点ランキングでも5位に浮上。「チームの状況のおかげ」と笑っていたが、肉体的疲労やメンタルの疲れが本来ならば大きく影響しはじめるこの時期になっての上昇は、やはりベテランの味と、新人を上回るサッカーへの意欲の産物だろう。
 特に若い前田が何度も叱られたことについては、前日の練習でも遠慮がちな前田に「もっと声を出して、積極的に要求してもいいんじゃないか」とアドバイスしていたことを披露。チームの若い選手、しかもユースのメンバーは刺激になるかと聞かれ、「らしい」愛情に満ちたコメントをした。

「やっぱり、まだ若いし、これだけのメンバーの中で名前呼んで寄越せなんて言えないでしょうけど、名前言わなくても寄越せ、でいいから(FWとしては)思い切りやってもいいんですよね。ただ、自分があの年の頃を思って刺激なるかと聞かれると、本当に凄い選手で、才能だと思いますよ。ヤツ(前田)は技術もあるし、自分じゃとてもこんな所(代表の練習ピッチ)には立てないですし、あんなプレーできないでしょう。まあ思い起こせばできっこないんですよね、DFでしたから。ユースの時はストッパーだった」

 10年以上が経過して、ストッパーが代表の大黒柱になる。驚くべきは前田の若さと才能ではなく、中山の努力のほうである。

前田遼一(磐田)「まだジュビロでもほとんど試合に出られていないので、正直なところ今回の合宿のメンバーに選ばれるとは思っていなかったけれど、やるからには頑張ろうという気持ちで練習に臨んだ。(トルシエ監督に胸をどつかれて)予想以上に痛かったが、みんなから聞いていたんで、びびらないように向かっていかなくてはと思った。トルシエ監督からは、もっと激しく、積極的にいかなければだめだと言われた。U−20の時とも、ジュビロとも練習方法が違うので、それに合わせていかなければならない。自分は2トップと言ってもクラブでもユースでも1.5列目のような感じでやることが多かったが、今日は文字通りの2トップだった。でも、こういう形もやったことがあったので、特に問題はなかった。昨日、今日と練習して大分慣れてきたとは思う。同世代の阿部ちゃん(勇樹)とも話したが、やはり代表に選ばれる人たちは、うまいしプレッシャーも速い。それに普段はリラックスしていてもやる時はやるというのが徹底している。今回の合宿の収穫はそんな代表の雰囲気を感じることができたということでしょう」(コメント取材・松山仁)



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