10月20日

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サッカー

J1 2ndステージ第10節
横浜F・マリノス×セレッソ大阪
(横浜国際総合競技場)
天候:晴れ、気温:19.3度、湿度:42%
観衆:20,118人、16時04分キックオフ

横浜FM C大阪
2 前半 0 前半 0 3
後半 2 後半 2
延長前半 0 延長前半 0
延長後半 0 延長後半 1
82分:ブリット
88分:ブリット
森島寛晃:58分
オウンゴール:60分
真中靖夫:111分

試合データ
横浜FM   C大阪
10 シュート 11
16 GK 7
12 CK 3
26 直接FK 22
6 間接FK 8
0 PK 0
 イングランド1部リーグ、「ポーツマス」に移籍するため、この試合がJリーグ最終戦となる川口能活の守りに注目が集まった試合だったが、残留の崖っぷちに立たされたC大阪に3-2で敗れて、ラストマッチを飾ることはできなかった。
 横浜FMは前半から、ボールが前線、中盤とうまくつながらず、中村俊輔からフォワードの選手までの距離が長くあいてしまう悪い格好でシュートまで結びつけることができない。逆に中盤でのミスから、C大阪のカウンターに押し込まれてしまう場面が続く。前半は結局無得点のまま後半へ。
 エース、森島寛晃の復帰により、後半はC大阪ペースとなる。慣らし運転か、前半から運動量を少しずつ増やしていた森島に、ディフェンダーがマークをずらしてしまうなど戸惑い、ファールを連続しはじめる。58分には、ゴール前に走り込んでいた森島をノーマークにしてしまい、ヘディングで1点を奪われた。
 直後には、左サイドから大柴健二がシュート、このボールをディフェンダーの小原章吾が不運にも脚に当てて「オウンゴール」となってしまった。
 しかし0-2から、横浜FMは反撃に出た。フォワードに木島を投入するなど流れを変えようと積極的な作戦を採る。残り7分には、左サイドをドリブルで切れ込んだセンタリングにブリットがボレーシュートであわせて1点を返し、89分には、コーナーキックから中村が中央に正確なボールを上げこれをブリットがヘディング押し込み土壇場で追いつき延長戦に持ち込んだ。しかし111分、延長戦から交代で入ったC大阪の真中靖夫にVゴールを許してしまい、追いついたゲームを2-3でこぼしてしまった。
 川口は、随所に好セーブを見せたものの、これで横浜FMは依然2部降格争いから脱することができず、移籍にあたって自身がもっとも気にしていたクラブの成績に大きな不安を残しての「旅立ち」となってしまった。

川口、お別れセレモニーでのスピーチ
 今日の試合が始まる前に、みんなヨシカツのために、ということで物凄くモチベーションが高かった。同点に追いついてくれて、本当にいいパフォーマンスをしてくれましたけれど、セレッソに勝つことができませんでした。この移籍に関して本当に悩みました。マリノスに残ってみんなでプレーしたい、でもイングランドでプレーするチャンスをつかんだ、それもものにしたい。わかって欲しいのは、マリノスでプレーしたいと思ったのも本当の自分で、イングランドに行きたいと思ったのも本当の自分です。わがままを許してくれた、社長、フロントのみなさん、ラザロニ監督をはじめ、スタッフ、小村キャプテンはじめ選手のみんな、マリノスを愛するサポーターのみなさんに心からお礼を言いたいと思います
 マリノスのみんなの魂と、サポーターの魂を胸に、ここ港町横浜から同じイングランドの港町ポーツマスで、この気持ちをともに持って行き、イングランドでも同じスタイルで、マリノスでプレーしたのと同じようにがんばりたいと思います。これがスタートですのでこれからも応援してください。マリノスは生まれ変わりつつある。是非、マリノスを応援してください。(※川口の出発は22日)


「斜めのピッチ」

 同点に追いついた瞬間、川口は、ハーフラインまで走って行って滑り込んだ。それほどまでにうれしかった理由は、最後にホームで戦うゲームを納得したもので終わらせたかったからに違いない。周囲が思うほど、力みもなければ、周囲が思うよりもはるかに思い入れのある試合が「ラストマッチ」というものだろう。
 セレモニーでのスピーチでは「引退するわけじゃないから」と照れていたが、言葉につまり、仲間から激励に胴上げをされて目を真っ赤にした、サポーターも一体となって涙を流していた。Jリーグの良さがある。

 しかし、イングランド1部リーグに足を踏み入れた途端、この日味わったであろうラストマッチの感傷など、一瞬にして吹き飛ぶに違いない。アーセナルに移籍した稲本について関係者がこんな話をしていた。
「お別れセレモニー? それはどういうもので、何の意味があるのだ、是非辞めてもらいたい、とアーセナルにいわれて返答にちょっと困った」と。
 Jリーグの1部と2部、セリエAとB、トップリーグと下位リーグには、環境、地位、無論実力的に格差が存在する。しかし世界的に見ても、もっとも大きな開きがあるリーグは、イングランドのプレミアと1部ではないか。プレミアリーグ誕生の、ひとつの動機と目標は、両者の格差をつけることでの、国内リーグの再建であったことを思えば、当然である。日本代表GKでもある川口は、そういうリーグで、しかもイングランドでこそ、大きな注目と尊敬を集めるポジションでの戦いを決意した。

 今春、イングランド出張の際、1部リーグを3試合ほど見るチャンスがあった。
 あるクラブの試合では、グランドが傾斜し、しかもゴール前まで凸凹になっている。冗談ではなく、ボールが転がってしまう。サッカーのルールの多くはアバウトで、特にピッチの大きさなど幅がある。しかし、日本では、あんな傾斜はあり得ないし、他のリーグでもない。サッカーの発祥地とされる国の、独自のサッカー観がそこにあり、サッカーというスポーツに対する厳しい観念を、1部リーグは華やかさの一切ない世界で今もストレートに表現している。いわば、この日見られた「セレモニー」のような飾りのない、ボールだけが無骨に飛び交う世界がそこにある。
 ガラガラのスタンドでは椅子が壊され、静かなスタジアムに飛び交うのは激しい人種差別への汚い野次であった。何よりも、春だというのに切なくなるほどの寒さが、体中の熱を奪って行く。「私たちの街の誇りであるクラブ」といった従来いわれているサッカーの良心的な感覚以上に、貧困、経済難、人種的問題、英国の階級、こうしたものが、クラブに複雑な形で注がれていることはよく理解できた。無論、環境はそれぞれで、ポーツマスはプレミア入りを狙うポジションにはつけることができる、いいチームだろう(※10月19日時点でポーツマスは9位。首位との勝ち点差は9点)。

「本当につらいですね。この1か月で太陽を見たのは3日、いや2日でしたか。天気はつらいものがあります」
 8日までの欧州遠征で久しぶりに会ったボルトン・ワンダラーズの西澤明訓がそう話してくれた。何を天気くらいで、天気が悪いくらい甘えるな、そんな批判は平凡で、イングランドを包み込むあの暗い天気は、本当に辛い。西澤の話は、胸に沁みる。ポーツマスは、海沿いでもあり、雨が多く、転向が安定しない場所である。川口の1部行きが決定したとき、あの何試合かを観戦しながら味わった、サッカーの切なさを思い出した。あの、相手さえ沈んで見えるような傾斜したピッチと悪天候を思った。
「エクスペリエンス イズ インポータント」
 アフリカ2か国との試合を終えてその感想を聞かれた川口は、イギリスのメディアに自らしっかりと英語で返答した。これまで海外に移籍を果たしたどの選手よりも、恐らくハングリーな環境と戦う川口が、1部での最初の試合で、強くそう感じるはずだ。
 そして川口が、それを乗り越えることを楽しみに変えることは、間違いない。



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