9月29日
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ベルリンマラソン
ベルリンマラソン前日、小出監督会見
(市内、スイスホテル)
30日のスタートを前に、小出監督が高橋尚子(積水化学)の直前の様子を代弁し「世界最高もそうだが、やはり人間何でも一番がいい。20分の壁を破る期待は十分ある」と、世界最高2時間20分43秒の更新だけではなく、女子マラソン初の20分の壁突破も狙う積極的な姿勢を見せた。
高橋はこの日、市内から45分程度の郊外で朝練習を行い、シドニー五輪の前と同様「いい意味で開き直っている。全力で行きたい」と監督に話すなど好調だという。
スタートは午前9時でスタートはシャルロッテンブルク門から片道42.195kmのコースで最大高低差は20メートルと平坦なコース(出場は約3万人)。高橋はガードランナー5人と、先導するバイクに守られ、一方、世界最高保持者でコースレコードホルダーのロルーペ(ケニア)も、5人にガードされる予定で、ライバルがどこでどう交わって走りだすかなど、どういったレース展開になるのか予想しにくくなりそうだ。
ベルリンマラソンガイド
〜注目のポイント
スタート |
3万人が同時にスタートするような男女混合レースの雑然さを、日本のファンが同時に注目するのもおそらくこれが初めてになるはずだ。日本では女子だけのレースで先頭にエリートランナーが並んでしまうと、レースそのものが完全分割されて展開するため見やすく安全でもある。高橋はこれまで市民(ハーフ)マラソンで転倒して手首を骨折し、札幌ハーフでもトラックでつまずいて危うく転倒しそうになったところを免れるなど、スタートでの混合レースの恐怖感はあるようだ。今回5人ものボディガード役を周囲につけるのはこうした転倒の危険防止で、まずはスタートを無事に滑り出すか、観戦する上でも最初のポイントになる。 |
最初の5km |
小出監督のプランでは16分40秒が最適のペースだが、高橋の場合は、98年の名古屋で16分6秒というとてつもないスプリットをたたき出しているように、乗ってしまうと後戻りをしない。それだけに今回のペースメークは「むしろ、ああいうペースならば、と参考にして自分のスピードを調整する。あくまでも判断材料として走ってもらえばいい」と、監督も「人間計時車」的に捉えている。ともかく最初の5kmを16分40秒程度で通過できればいいペースで走っていると判断できる。 |
15km地点 |
高橋がシドニーで「体が行けと教えてくれる」といつも言うような体の声を聞いて最初のスパートしていったのは17キロ、折り返しを過ぎたところだった。今回も、どこかでペースを上げる場所があるはず。監督はこの日「それがどこになるのかランナーもわからないんだ。体が動き出すポイントがどこか、もし高橋がこのへんで競り合っていたら、まだエンジンがかかってないと思ってみてて欲しい」とギアチェンジのポイントをあげた。 |
ハーフポイント |
高橋が98バンコクアジア大会で日本最高2時間21分47をマークしたときのハーフは、1時間9分15秒、ロルーペが世界最高をマークした時は1時間9分47秒で、高橋は今回のレースを前に監督に「私のほうが30秒も上回っています」と前半でのスピードにも自信をのぞかせていると、監督は言う。ロルーペはほぼイーブンで前半後半をカバーし、高橋はさらにここから後半をあげることもできる。2人の中間点の記録がどの程度かで、後半の落ち込みと伸びも計算が可能できるだけに、もっとも面白い情報となるはずだ。 |
30〜35km |
平坦なベルリンで唯一の上り。監督はここを16分50秒まででカバーできれば世界最高はほぼ間違いないと断言する。ここでそれまでのペースから20秒近くをロスするが、反対に35kmから下り坂となるために10秒程度を取り戻すこともできる。この地点までに10〜20秒の貯金を持って望めれば、ラストの7.195kmを走り切るエネルギーにもなる。 |
5点満点の3。今回監督が「やや心配」と、高橋の今大会への通信簿で「3」としている部分が2つある。ひとつはこの日の会見で明かしたように、ベルリンへ向けての基礎練習が昨年のシドニーよりも1か月遅れたこと。このため、登山や走り込みなどのメニューを詰め込んだために、仕上がりが早くなり、その分、どこにストレスがくるか心配だという。もう1点が今回体を見事なまでに絞りきったこと。筋肉には、「ある程度の脂肪というかテカリや、ツヤが必要。絞るのはいいんだが、最後の最後、絞りすぎると今度は動きが小さくなる。これがどっちに出るだろうね」と、監督は話す。とはいっても、不安材料というものではなく、むしろ積極的な挑戦という点だけに、結果が楽しみになる。
やるべきことはやったと言えるレース前日が来ることは、ある意味でランナーにとって最初のゴールでもある。後はレースを戦えばいいだけで、高橋が常に口にする「毎日が42.195km」という哲学に添うなら、彼女は、この4か月すべての42キロを、自分の全力をぶつけて走り切ったことになる。「コースは平坦だが、平坦は息抜きできないだけに逆に苦しいものだ、舐めてはいけない」監督はそう戒めていたが、高橋に限って心配はないだろう。20分の壁を破るために、本当にすべてをぶつけてくるはずだ。

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