8月4日

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世界陸上
2日目
男子100メートル、男子ハンマー投げほか
(カナダ・エドモントン、天候:晴れ、気温:24度、湿度:50%)

 男子100メートル、1次予選6組目に今季10秒02をマークしている朝原宣治(大阪ガス)が出場し、10秒25で1位となり午後からの2次予選に進出した。朝原はスタートの反応時間もよく、レースへの集中ぶりとコンディションの良さが伺えた。

1次予選後の朝原の話「前半だけを気にして走ったのですが、とてもよかった。あとはリラックスして走り切れました。このまま調整していけば、うまくやれると思う。どこまでやれるか楽しみです。過去の大会に比べてもすごく楽でした。今季はグランプリを回っていたので、周りを見ても有名な選手がいないなと思いました。走りのテクニックに集中することができた。このトラック(ファストトラックと言われている)は好きです。モンド(イタリアのメーカー)トラックは大好きなんで。オスロで10秒02を出してから同じような感じでここに来ている。とりあえず準決勝には行きたいんで2次予選も落ち着いて走りたい。スパイクはオスロのときに履いていたものとまったく同じです」


 男子ハンマー投げ予選B組には、今季世界ランク1位の83メートル47をマークしている室伏広治(ミズノ)が出場し、予選突破記録とされた79メートル50は投げなかったものの、2投目の78メートル80がA、Bトータルで10位となり(12人が決勝進出)、5日の決勝へ順調に進んだ。
 男子100メートル1次予選を突破した朝原宣治(大阪ガス)は2次予選で10秒06と自己2番目となる好記録をマーク。準決勝に進出し5日は決勝進出をかけて、1組目2コースでモーリス・グリーン(米国)、アト・ボルドン(トリニダード・トバゴ)、ドノバン・ベイリー(カナダ)ら、今大会の金メダル候補とともに走ることとなった。

 また、男子20km競歩ではシドニー五輪代表でもある柳澤哲(総合警備保障)が1時間22分11秒で7位(1位のタイムは1時間20分31秒)に入り、ビッグイベントの20km競歩としては初めて、入賞をする快挙を果たした。スピードの追求と歩行違反のギリギリを行く種目だけに、日本選手にとっては厚い壁が存在したが、柳澤は一度も「イエローカード」(歩行違反の際に上げられ3枚で失格)を受けずにゴールするなど、安定した力を存分に発揮した恰好となった

2次予選後の朝原の話「スタートからちょっと蛇行してしまった。フラフラした感じで入って、中間走までがあまりよくなかった。けれども悪いなりに修正をして走ることができたし、この調子でスタートから加速して行ければ、いいレースができると思う。今回は本当にリラックスして走れる。この2年間、ケガをして走れなかったことを思えば、今ここでこうして走れることが本当に楽しい。準決勝までは前回も出ているので、今回は決勝進出を果たしたい」

柳澤の話「メダルを狙っていたので残念です。(メダルを狙う自信があったのか?と聞かれて)競技者ならば、スタートラインに立った以上、一番いい色のメダルを狙わない馬鹿はいないでしょう。自分よりも強い選手だが気持ちで負けては行けない、メダルを取る気でいました。馬鹿と言われても、(最後の周回のところで)飛び出すつもりでしたが、先に仕掛けられてしまって、後は動かなくなってしまった。
 長距離(5000m)で高校1年の時にビリから2位となって先生に競歩を進められました。初めて出た大会で前から2番目、それは競歩を選びますよね。長野ではメジャーな競技でもあるし、よく言われるようにカッコ悪いとも思わなかったですね。地味だのマイナーだの言われますが、審判の主観で失格があって選手が途中でいなくなるなんてこんな派手な競技はほかにないと思うんです。
 この入賞をきっかけにして認知度が上がってくれればうれしいです」


「明日はガラッと変わる」

 ハンマーの予選A組は電光計時の不備のために実に35分も遅れ、その遅れはそのままB組に引っ張られた。気温は20度前後でも、陽射しが非常に強く、それを避ける小さいテントの中に、体重120キロ近い大男たちが肩を寄せ合い座っている姿が、どことなくユーモラスで、また気の毒な雰囲気が漂っていた。
 予選通過に設定された79メートル50は、もしこの記録を投げればシドニー五輪銀メダルも獲得できるというほどの距離。背景には、今季のレベルの高さがある。一方ではエドモントンの競技場の芝をハンマーによってできるだけ痛めないためには、投擲者の数を絞っているのだ、といった声もある。
 いずれにしても史上もっとも高い通過記録をどう解釈して、どう楽に突破するかがこの日の室伏のテーマだったはずだ。
 1組目が終了して記録を通過したのはわずかに2人。後は12人の突破者を上位から抜いていくことになり、2組目ではあえて79メートル50を狙わずとも、78メートルラインをひとつの指標とすることで有力選手が投擲をした。
 室伏は、1投目で77メートル69、2投目で78メートル06、3投目で78メートル80で予選を楽に通過した。「明日、決勝ですから」と笑いながらミックスゾーンを通過しかけて、記者団に止められ笑い出す。
「いつも通りやりました。まだ順応できていないところもありました。(サークルか? と聞かれて)いいえ順応するのはそれだけでないですから。(記録が悪いと聞かれて苦笑しながら)いや普通でしょう。これは予選ですから、大体こんなものです。そもそも設定が高いわけですから。予定ではどのくらい投げるつもりだったか? いえ、予定は立ててませんから、明日はガラッと変わるでしょうし」
 口数が少ないのも普段通りだけに安心である。予選の通過記録などは、とやかく論評するものではなくて、様子見の中でどれくらい力をうまく配分して決勝に行けるかどうか、ポイントはその1点に尽きる。
 その意味では室伏は、今季世界最高をマークしている実力とその余裕を、10位という通過記録で見せていたといえるだろう。おそらくこれまで、通過に対して使った神経があるとすれば、この日同じ目標に使った神経とエネルギーは半分にもならなかったはずだ。
 同じことは、この日予選を突破した朝原も、言った。「これまで経験したビッグイベントのどのレースよりも、今日が楽でした」と話し、室伏同様、温存している神経の手ごたえを感じていた。
 決勝は、肉体的に不利だといわれる日本人としては考えられない、ハンマー投げでのメダル獲得といった夢もかかってくる。室伏の場合は、世界のランキング者平均体重からさらに20kgほど軽く、不利などとさえもいえないレベルで一人戦って来たわけだ。「ハンマーの各選手、投擲がガラリと変わる」(室伏)決勝は想像力を掻き立てる楽しみなものだ。
 誰より楽しみにしているのは、もちろん本人に違いない。


「マイケル・ジョンソンがいない」

 男子400メートルを見ながら、「ああジョンソンがいないというのはこういうことか」と改めて実感せざるほどを得ないほど、どこか寂しさがあった。シドニーの後は休養とし、引退のためのセレモニーを準備しているところである。契約するナイキの会見では、会見嫌いが「司会」を務めるなど、なかなか微笑ましい仕事もこなしている。出ないことは十分にわかっていながら、いざ予選が始まってみると、43秒18の世界記録がどんなものか、その次元が一体どれほどのものか、これは全く「わかっていなかった」のだと思い知る気がした。
 ジョンソンには、取材で何度も、何度も面倒をかけた。セビリアの世界選手権で世界記録をマークした際にも、シドニーで金メダルを獲得した時にも、取材嫌いなのに、嫌そうな顔を見ないふりをして無理ばか……、うれしいというかなんというか」とゲラゲラ笑われた。その表情はなんともいえず柔和で、立ち話でもこれほどリラックスしたジョンソンを観たのは初めてともいえるほどだった。
「日本でも走る(引退レースとして)準備が考えている。今は練習もほとんどセーブしているので、ほら、筋肉が落ちているでしょう。久々にリラックス、という言葉を味わっている」
 記録も、目標も、体調もきかない、そんな会話は不思議な気がした。
 リラックスと引き換えに、もしまた闘志がわくのなら、いくらでも休養できないか、そう願った。

世界陸上エドモントン大会期間中、sportsnavi.comでコラムを連載します。ぜひ、そちらもご覧ください!

増島みどり「世界陸上スペシャル」



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