IOC総会を取材するため、昨日モスクワに到着しました。こちらは、連日8月並みの陽気だそうで、短い夏の陽射しは午後10時頃までモスクワの街を明るく照らしています。
さて、今回は、いつものようにスタジアムや練習場に直行することなく、最初に向かうのはIOCのメンバーが宿泊している高級なホテルです。ユニホームを来た人は一人もおらず、代わりにネクタイと揃いのブレザーを着た人々、革靴で歩く人々を取材しています。まあ多少違和感があるのですが、今回の総会は「2つの選挙」で、試合はなくてもそれ以上に激しい戦いが展開しそうです。
スタジアムの読者のみなさんに説明しますと、ひとつはIOCの会長、スペインのサマランチが今任期をもって退任するため、実に21年ぶりに会長選挙が行なわれるのです。サマランチは80年にモスクワ五輪が行なわれたときに会長に選出されて以来、実に21年(1回の任期は8年なので3選となります)、時に自分で定年を延長するまでしてこのIOC会長の座を死守してきました。ついでに、今後は終身名誉会長に就任するとのこと。オリンピックムーブメントの何がそれほど、80歳のご隠居を駆り立てるのでしょう。権力でしょうか、物欲でしょうか。
今回はこの会長選挙に5人が立候補しています。
韓国の大物で世界テコンドー連盟会長の金運龍氏(70歳)、IOC前副会長で水泳ではローマ大会の自由形に出場しているカナダのリチャード・パウンド氏(59歳)、今回、最有力かとされるベルギーのジャック・ロゲ氏(59歳)もヨットで3度五輪に出場しています。ハンガリーからは現在はIOCの環境委員長を務めているパル・シュミット氏(59歳)、そして米国からは現副会長の女性、アニタ・デフランツ(48歳)で、彼女もまたボートでモントリオール五輪銅メダリストになった人です。
彼ら5人の投票が、この一連のIOC総会の最終日16日に行われます。何しろ、21年ぶりの選挙です。モスクワに到着して昨日、今日と取材をすると、大阪など5都市が立候補している五輪開催都市選挙よりも、会長選のほうがはるかに注目され、同時に政治的なパワーバランスが大きく左右しているように見えます。
先に挙げた最後の2人の候補は、まだ今回は予備選といった風で、上3人による戦いになることは必至でしょう。金氏は、アジア初の理事を狙い、パウンド氏はトロントが五輪に立候補していることもあるためにキーマンとも言われているのですが、サマランチの支持層を取り込むにも限界があります。
ボールやスパイクやタイムはありませんが、これも非常に厳しい、もしかするとドロドロとした分だけ、さらに激しい戦いになるのかもしれません。21年ぶりに、IOCというスポーツの砦である部署に変革が起きようとしています。日ごろあまり関心はないかもしれませんが、この際、是非とも注目をしてください。
もうひとつの選挙は、13日に投票(有効票数110票)が行われる2008年の五輪開催都市決定のためのものです。みなさんはこちらのほうにより大きな期待や、感心を抱いているかもしれませんね。
サッカーは国による立候補ですが、オリンピックは都市での立候補ですから、今回は前回、シドニーに敗れた北京、トロント、パリ、イスタンブール、そして大阪、と5都市が13日の投票に向けて、現在投票前のプレゼンテーションを成功させるべくリハーサルを続けているようです。ご存知のように、これまでのIOC委員の投票では、様々な賄賂、収賄、などスキャンダルが起き、これがIOCの、ひいてはスポーツの威信を大いに傷つけました。今回は、こうしたスキャンダルから脱して初めての方法、例えば委員の開催都市訪問を禁止するなど、IOCの再生へのスタートとなる選挙でもあるのです。
一方で、これまでのような「とにかくもてなしておけば」というわかりやすい図式がなくなったことで、ベクトルが定まらないこともまた事実です。
評価委員会が各都市を訪問して「採点」をすることを、ひとつの公明正大な評価だとIOCはして来ましたが、これには(表面上は)得点もランクもつかない。たとえば視察の段階では、パリの施設やアクセスが総合で何点獲得、大阪は何点とすればいいのでしょうが、これもないため、評価の基準は曖昧なまま。大阪が事実上の退去勧告を受けるかのような評価がありましたが、これも根拠が不明ですね。
もうひとつ有利不利があるのは、投票当日のプレゼンテーションの順番です。大阪は当日のプレゼンテーションがトップバッターなのです。一番打者は、その後の4都市が微妙に作戦を変更できる時間的余裕を与えることにもなりますし、インパクトを重視すると、今度は浮いてしまう可能性もあります。
今回は、これまでのIOCの総会の順序とは違い、先に開催都市を決めてから会長選挙という、異例の順番です。この背景には、21年続いたサマランチ体制を締めくくるべく、会長が自分が「会長」として君臨するうちに開催都市を、つまり、前回はシドニーに敗れた会長の郷愁でもある北京を決定させてから、会長を退くという、まあとてつもない権力欲ですね。そのための日程だとされています。
12日にはいよいよ開催5都市が最後の会見を行い、リハーサルを終えます。
2つの選挙の、あるいは今後のIOC、スポーツ界全体を占う上での最初の指針となる、開催都市決定について、明日の会見からお伝えしたいと思っています。