12月2日

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2000サントリーチャンピオンシップ 第1戦
横浜F・マリノス×鹿島アントラーズ
(横浜国際総合競技場)
キックオフ:15時2分、観衆:41,595人
天候:晴れ、気温:13.6度、湿度:37%

横浜 鹿島
0 前半 0 前半 0 0
後半 0 後半 0


先発メンバー
交代出場
横浜
45分:永山邦夫(木島良輔)
65分:エジミウソン(城 彰二)
89分:岡山一成(エジミウソン)
鹿島
76分:本山雅志(柳沢 敦)
84分:本田泰人(相馬直樹)

89分:羽田憲司(小笠原満男)
 2000年Jリーグ、真の王者を決める“2000サントリーチャンピオンシップ”の第1戦、横浜F・マリノス×鹿島アントラーズの試合がこの日、横浜国際総合競技場で行われた。

 試合は序盤、アウェーの鹿島が中盤からプレスをかけ積極的にゴールを狙って、押し気味に進める。対する横浜は、この大舞台で先発に抜擢された木島良輔が活発に右サイドをドリブルで仕掛け、いくつか見せ場を作るが、ややフィニッシュに正確さ欠いた。前半のシュート本数はホームの横浜の4本に対し鹿島は9本と、鹿島ペースでハーフタイムを迎える。

 しかし後半に入ると、横浜の中盤が柔軟に動き出し、徐々に試合を支配し始める。64分、城 彰二に替えエジミウソンを投入すると、攻撃にアクセントがつき試合の流れを完全に横浜が掌握する。終盤、鹿島はディフェンダー陣の運動量が落ちてくると、相馬直樹に替え本田泰人、小笠原満男に替え羽田憲司を投入し、守りを固めに入る。後半40分過ぎには、横浜の三浦淳宏がゴール前のこぼれ球を押し込んだかに見えたが、これはオフサイド。さらに横浜の猛攻は続いたが、鹿島の守護神、高桑大二朗の好セーブもあり、なんとかこれをしのいだ。結局、90分を通じて両チームとも得点を奪うことができず、試合はスコアレスドロー。チャンピオンシップの行方は、12月9日、国立競技場で行われる第2戦へと持ち越された。

中村俊輔「プレッシャーが激しく、苦しい試合だった。試合前に監督が言っていたように、中盤の出来次第で試合が決まると思ったので、負けないつもりで臨んだ。後半の40分頃のフリーキックは、自分が(ファールを受けて)もらったので決めたかった。大事な試合だったし。次はもっと連携をよくして、いいパスを出したい。2試合目はアウェイだけど、国立は相性もいいのでがんばる」

木島良輔「チームとしてはよかったと思うけど、個人的にはあまりいいプレーはできなかった。(イエロー)カードをもらってしまったし、緊張していましたね。(ドリブルを多用したのは)自分の持ち味ですから。ああしないとアピールできない。アシストしたかったけど、最後のところでミスをしてしまった。2戦目は緊張しないでできると思う」

城 彰二「あまりお互いにいいプレーができなかった。力は5分だから緊迫した戦いになる。体調は悪い悪いと言われてきたが、自分としては整ってきていると思う。次は90分出て、しっかりと点を取る仕事をしたい」

鹿島/トニーニョ・セレーゾ監督
「予想通り厳しい試合になった。アウェーということで、その辺は予想していたことではある。アントラーズとしては決して内容は悪くなかった。前半、後半ともチャンスは作れていたし、勝つことができればそれに越したことはなかったが、選手も多少疲れがあったものの最後まで耐えることができたので満足している」

 以下、質疑応答:
──前半、横浜の両サイドとボランチの上がりがあったが、それについては
 F・マリノスはウイングバックの形でやっているのでやや攻撃的になるのは当たり前で、サイドからの攻撃でチャンスが作れる。その点についてはハーフタイムに指示を出し、それが後半には機能して抑えることができていた。今日のような試合では両チームともまず点を取りたいという意識が強い。相手を全体的に消すのは無理なことであり、どこかで相手に隙を与えてしまうし、また相手も隙を与えてくれる、という試合だったと思う。
──相馬直樹の交代について
 中村やエジミウソンらが攻撃的にやってくるので、中盤の層を厚くしたいという気持ちがあった。決して相馬が悪かったということではない。
──引き分けで迎えるホーム戦だが
 お互いにレベルの高いチーム同士の対戦であり、気持ちのうえではホームとアウェーとであまり違いはないのではないか。今日は残りの10分くらいの内容を見る限りでは引き分けでよかったと思うが、それまでの内容から考えれば勝って終われればよかったのだが。
 最後のほうでは疲れもあったが、大きなミスというのはなかった。全体のバランスを考えてやって行かなければならないので、(次の試合までの)1週間を使って細かい点を検討したい。週末にはみなさんに感動していただけるような試合をしたい。心臓のほうも準備してください。
──中村俊輔については、今日くらいの対処をしないと危険なのか
(中村を抑えるには、今日くらい厳しくマークするか)それとも38口径で撃ち殺すかしかないでしょう(笑、もちろんジョーク)。中村は素晴らしいプレーヤーだし、うちのビスマルクや鈴木もマンマークされているわけだが、厳しくマークしても瞬間を利用して攻撃できるプレーヤーだ。試合全体からすれば彼がボールを持てたのは1分〜1分15秒くらいのものだろうが、それでも我々にとって危険な場面を作っていた。まあ、この週末に下痢でもして欠場でもしてくれれば(笑)。

横浜/アルディレス監督
「両チームにとって難しい試合だったと思う。出だしはアントラーズのほうがよかった。F・マリノスの選手は緊張していたようだ。最終的にはうちのほうが少し上回っていたのではないか。両チームともバランスがいいという点で似ている。結果的には引き分けだったが、次の試合も同じような感じになると思う。自分としては今日の結果に喜んでいる。
 相手は大事な試合を重ねてきて、勝ち慣れてきたというか、勢いをつけていた。うちのほうはというと、緊張するような試合をしたのは4〜5か月前が最後だった」

 以下、質疑応答:
──遠藤が積極的だったが
 遠藤には、今日はどんどん前に出て前線のプレーヤーと絡ませた。鹿島は後ろのほうに経験のある選手が多いので、FWだけをマークさせておくと向こうにスムーズにやられてしまう。どのチームの場合もそうだが、中盤がFWを追い越して前に飛び出るのを相手は嫌がるものだ。
──最初は中村俊輔がかなり下がり気味だったのでは?
 中村はいろいろできる選手。……それ以上は秘密です(笑)。彼はタレント性のある選手だ。鹿島は特にマークをしていたようで、近くにいる鹿島の選手が常についていたが、中村はボールをもらえるようなポジショニングをしていた。
──後半、いつもの形ができていたようだが
 前半のプレーには満足している。15、20分あたりは相手が勢いに乗って恐かったが、そのあとバランスがよくなってボールをキープできるようになった。後半に関しては、特にサイドを使うよう指示した。
 2戦目はアウェーだが、国立競技場は前期の優勝を決めた場所でもある。
──セレーゾ監督はできれば中村には体調を崩して欠場してほしいと言っていたが、体調を崩してほしい鹿島の選手は?
 具体的な名前は挙げたくないが……、せっかくだから言うと、ビスマルク(笑)。
──城については迷っていると言っていたが、今日は先発、途中交代だった
 (城の起用は)コインを投げて決めた(笑)、アメリカの大統領選挙のようなもの(それくらい迷った、ということか)。まだ体調が完全によくなってはいない」

試合データ
横浜   鹿島
10 シュート 15
15 GK 11
3 CK 5
31 直接FK 18
2 間接FK 1
2 オフサイド 1
0 PK 0

「荷物テーブルで、泣いていた」


激しく中村俊輔をマークする小笠原
 この日の収穫は、MF小笠原満男の「闘争心」をピッチで見続けることができたということだろう。
 試合そのものは、まさに2試合分の「前半」にふさわしく静かなものだった。もちろん、水面下での激しい駆け引きと次戦に向けて腹のさぐり合いはあった。横浜のバックラインは9日も苦戦するであろうし、鹿島の前線はこれ以上チャンスを無駄にするような真似はしないと肝に銘じなければならない。
 そんな「膠着」した状況の中で、小笠原のプレーだけは、表面的に非常に熱かった。そして彼のそうしたプレーが先週の柏戦から持続していることに、目を見張っていい。
 21歳、入団して3年目になった。
「ぼくが入団して3年目になりますが、今でも入った年に見たチャンピオンシップは忘れられません。ジョルジーニョ(ブラジル代表)がいたんですが、プレーというか、とにかく戦っている姿がチーム全体を勇気づけるようなもので、それに本当に感動しました」

 鹿島にとって、沈みがちだったこの2年間、小笠原はどうしたらジョルジーニョのようなプレーができるのか、どうしたら男として勝負に挑むようなゲームを戦えるのか、ずっと考え続けてきたのだろう。
 この日は、仕事をさせてはいけない横浜の中村俊輔を、中田浩二、熊谷浩二と3人で冷静に受け渡ししながら「完封」したといえる。途中は「本当はいつでもああじゃなきゃいけないんですが、かなり厳しく行きました」と試合後笑うほど、ファールも怯えない積極的なプレーをした。後半14分には、そのプレーで警告を受けたが、以前の小笠原ならば止めにさえ行かなかったようなプレーであり、そこにこの厳しい試合で「自己改革」に挑もうという心意気と、清清しさがあった。

 小笠原の姿をもっとも印象的に記憶しているのは、1年前、五輪アジア最終予選でカザフスタンから帰国した時である。チャーター便で帰国した名古屋・小牧空港の荷物テーブルの前で、小笠原はトルシエ監督と1対1で説教を受けていた。監督の正面に直立不動で立ち、ドイツ、カザフでのキャンプでのふがいなさ、主に気持ちの問題というのを、もちろん叱咤は監督の期待の大きさに比例するのだが、それを指摘されていた。目は充血し、気の毒なほどしょげて首をもたげていた横顔を思い出す。直後に代表から落とされた。
 あれからキャンプには呼ばれているが、今も代表には選ばれていない。
 3年前見たジョルジーニョの死闘ともいえるプレーと、初めて立つチャンピオンシップの大舞台が、彼の闘争心を呼び起こしたのだろうか。
「先週の柏戦から3試合、絶対負けられない試合がずっと続いていて、かなり厳しいとは思います。でもちょっとくらい痛くても、ちょっとくらい疲れていても、これだけ高いモチベーションの中でプレーできるのだからがんばろう、と思ちゃったりして」
 ジョルジーニョのようなプレーが、たった3試合で叶うはずはない。しかし、同じ方向に近づくことはできる。荷物出口で泣いていた21歳の青年が、もしかするとサッカー選手として大人に大変身を遂げるのかもしれない。
 答えは残りの90分でわかるはずだ。

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