11月26日

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Jリーグ 2ndステージ 最終節
鹿島アントラーズ×柏レイソル
(国立霞ヶ丘競技場)
キックオフ:15時4分、観衆:50,399人
天候:晴れ、気温:17.6度、湿度:51%

鹿島
0 前半 0 前半 0 0
後半 0 後半 0
延長前半 0 延長前半 0
延長前半 0 延長前半 0


先発メンバー
交代出場
鹿島
82分:本山雅志(柳沢敦)
115分:本田泰人(小笠原満男)

74分:砂川誠(渡辺毅)
 優勝決定戦となった最終戦で、これまでナビスコ杯を制し、残る悲願でもあるリーグ初優勝を狙う柏は前半、最大の持ち味である攻撃陣を含めた全員の「早い動き出し」からボールを積極的に奪い、開始直後3分には、試合の“鍵”となる両サイドの攻撃で先にパターンを作った。

 中盤からのボールを渡辺光輝が右サイドから鹿島GK高桑大二朗の飛び出しと重なる絶妙のセンタリング、これに平山智規が合わせたが最後はタイミングがずれゴールにはならなかった。

 しかしこの後も柏は27分に、FW黄 善洪がセンターライン近くからフェイントで2人を抜いてそのままゴール前に走り込んだ大野敏隆にスルー、また37分には黄が奪った右コーナーキックを平山が蹴り、このボールにボランチに入っている萩村滋則が頭で合わせる。ヘディングは惜しくもバーに当たって跳ね返るが、柏は試合開始から前半終了まで“普段着”に集中して試合を展開した。

 前日の練習では、柏の堅守を支えるDF渡辺毅が足首を捻挫するハプニングもあった。西野 朗監督は試合前、「彼が迷惑をかけたくないので交代してほしい、と直訴して来たくらいだからよほど痛いのだと思う。でも、ここまで来たらやってもらいたい、ダメになったところで代える、と伝えた」と渡辺の起用について明かした。渡辺は足首に2重にテープを巻き、さらにその上にサポーターをする状態でピッチに立っていた。

 0−0で迎えたハーフタイムには、「今もいい動きだが後半はさらにもう一歩、相手よりも早く動き出すこと、攻守で周囲のサポートを心がけよう」と、監督からこの1年のサッカーを象徴するかのような注意だけが与えられた。

 後半28分、西野監督はこの2試合、交代後に起用が当たっている砂川 誠を、前半終了間際にビスマルクに蹴られて足首をさらに悪化させた渡辺と交代。「試合を決めるのはおそらく交代のタイミングだろう」と試合前に自らの決断力をターニングポイントに挙げていた通り、“先”に動いた。

 後半は、鹿島が優位に試合を進め、中盤からサイドに展開する攻撃で柏を翻弄する。しかし消極的なプレーがあったFWの柳沢 敦を37分、こちらもスーパーサブの本山雅志と交代。試合の主導権がどちらにも流れない膠着した状態となった。

 後半はそのまま終了し、延長となった。
 延長に入ると、勝たなくてはならない柏と引き分けでも優勝には持ち込める鹿島との精神的な余裕の差が少しずつ出始める。

 柏は、ここまで運動量では圧倒的に上回っていたはずの中盤、サイドでボールを取られる場面が続き、さらに、ゴール前までボールをつなごうとするが、サイドの渡辺光輝、平山の動きが鈍くなりサポートができない。鹿島も中田浩二の脚がつるなど、両者とも肉体的な限界に到達するような凄まじいゲームとなった。延長後半も事態は変らず、鹿島は残り3分で守備固めに本田泰人を投入。タッチライン、コーナーフラッグ付近でボールを盛んに回し、柏はこのボールを奪うことができなかった。

 ロスタイムは2分、それを終了して試合は無得点の引き分けのまま、勝ち点差2と、鹿島のリーグ優勝が決定した。鹿島は2年ぶり4度目のステージ優勝を果たし、12月、横浜F・マリノスとのチャンピオンシップに臨む。

指導者としては初の優勝となった鹿島・トニーニョ・セレーゾ監督「柏はすばらしいチームだった。それ以上のコメントは不要だと思う。ハイボールを入れてこられたが中田、熊谷が攻撃に参加するようになってから全体的によくなった。どうしても勝ちたいと思う気持ちが、選手全員にあらわれていたし、特に、うちの鉄壁である秋田が向こうのボールを30、40回はクリアしてくれた。見ていて感動した。私の指導歴はまだまだで多少頑固なところはあるが、これからもがんばりたいと思う」

昨年は年間総勝ち点で2位、今年は1位ながら優勝できなかった柏・西野 朗監督「(会見で)本当にありがとうございました。残念です。あと一歩、何かが足りない。それは漠然としたものですが。両チームの選手全員がよく力を出し切ったし、うちの選手も持てる力すべてを出したと思う。自分自身、それを出させようと試合に挑んだ。昨年より今年、今年より来年、と伸び続けているし、第一、今季はまだ終わったわけではない(天皇杯がある、の意)。(延長から交代が2人できたが、の問いに)いや、それはまったく考えていなかった。全体のバランス、コンビネーションとも良かった。試合は前半20分までで先制点を奪おうというプランだったし、とにかく先に点を、と選手も思っていたはず。(リスクがなかったとの問いに)そんなことはない」


この日、2トップを務めた鈴木隆行(左)と柳沢敦
途中交代でFWを務めチャンスを作った
本山雅志「凄くキツイ、競った試合になると思っていたが、その通りでした。守りに入るとよくないので、やはり最後まで積極的に行こうと心がけた。最後の最後は、ビスマルク、相馬さん、(小笠原)満男とタッチ、コーナー(に逃げて)のサッカーを徹底した。鹿島の(サポーターの)応援には本当に勇気づけられた。
 監督には交代の際、“行け”とだけ言われた。不満があるのはPKのシーン(※判定はファールなし)。あれは自分でゴールが見えて、蹴ろうと思ったら(相手の)脚が出てきた。みなさんどう見えましたか? 倒されながらでも蹴ることができるような強さを身につけたいと思います。今年は怪我が多く、第1ステージは試合に出られないこともあった。代表に呼ばれるたびに、それが心機一転のチャンスにもなり、本当に感謝したい。
 FWでもMFでも、大事なときにゴールを取るという点では何も変りがありません。チャンピオンシップはぜひ勝ちたい」

脚がつって、途中交代か、と一度はバッテンマークが出ながらピッチに戻った中田浩二「すみません! ぼくの体力がありませんでした(と、笑って報道陣に頭を下げる)。左のふくらはぎ、ももの間、右のももと、3か所つってしまいました。怪我明けでしたし、前半からフィジカルで非常に厳しいゲームになったことで、もう脚が動かなかった。関先生(ドクター)は、“もうダメだ、このゲームでは治らないよ”と交代を言ったんですが、やっぱりピッチに戻ろうと勝手に入っちゃいました。最後にまた無失点だった流れを、チャンピオンシップに持ち込みたい」

攻守で粘りを見せた名良橋 晃「きょうが誕生日(29歳)で、いい誕生日になりました……。(ブラジル式のお祝いで、チームメイトに卵を頭の上で割られて)頭が卵まみれですけどね。とにかく疲れた。本当は、ドローでは納得していませんし、決着をつけるためにここに来たわけです。でも、チャンピオンシップに気持ちを切り替えて、そこで思いを晴らそうと思う」

強い鹿島復活のシンボル的存在・この試合ではキャプテンを務めた相馬直樹「優勝はいいね、本当に何と言っていいか、平凡な言葉なんだけれどうれしい、これしかない。サッカーをやっている限り(優勝は)全部欲しいね。向こうの流れの時間帯は確かにあったけれども、まったく気にはならなかった。正確なポジショニングを取ってさえいれば、ああいう勢いというのは怖くないのです」


柏の主将・洪 明甫「あと一歩、手が届かなかったが、皆ベストを尽くした。上位チームと対戦するときもそうではないときも、同じような集中力を出して戦わなければ実力は発揮できない。これが来年からの課題だろう。鹿島の攻撃はそれほど怖いと思わなかった。レイソルはもっと攻撃に人数が必要だった」

この日は無得点に終わった黄 善洪「ノーコメント」

平山からの絶妙のコーナーキックで頭に合わせたが、シュートがバーに当たった萩村滋則「悔いが残るのはあのワンプレー。練習通り、イメージ通り、なのに……。あのシーンが頭から離れません」

守備ではこの1年の成長を示すような好プレーで再三ボールを奪った明神智和「負けたわけではないが本当に悔しい。自分としては満足できるプレーもなかったし、チームにはもっと何かできたと思う。チャンスがあっても、その流れをうまく生かせることができませんでした」

途中交代の切り札だった砂川 誠「本当に悔しい。浮き足立ってしまいました。度胸のなさというか、サッカー選手として自分はずいぶんと成長したつもりだったのに、そうでないという現実を見つめないといけない試合。鹿島は、見ている以上に上手かった」

これ以上ないJリーグ最終戦を陰で“お膳立て”(マッチメーク)したJリーグ・川淵三郎チェアマン「すばらしい試合だった。本当に両チームともいいゲームをした。見ていてこんなに肩が凝ったのは初めてだ」

試合データ
鹿島  
9 シュート 11
13 GK 17
8 CK 10
30 直接FK 23
4 間接FK 6
3 オフサイド 6
0 PK 0

「ピッチに仕掛けられた罠」
──相馬は洪に2度勝った──


カップを手にし満面の笑顔を見せるベテラン秋田豊(左)。右は高桑大二郎
 試合は引き分けである。しかし、鹿島はなぜ年間王者の座をもぎ取ったのだろうか。120分戦っても決着がつかなった試合が、なぜ王者と2位を分けたのであろう。西野 朗監督は試合後、「漠然としたもの、それが何なのかは言葉でうまく説明できないが、何かが足りない」と唇をかんだ。
 しかし、実際ピッチで十二分に戦った選手にとっては漠然としたものではなく、それは具体的な差であった。後半から投入された砂川 誠はこんな表現をした。
「自分ではここまで非常にいい形でプレーしていると思っていたし、結果も出ていました。けれどもきょう鹿島と優勝をかけて戦ってみて、あと数センチ、あと1秒、そんな差がこんなに大きいのかと、自分は思い知らされた気がしました。浮き足だって何もできなかった」
 柏にとっては何よりの誤算であった渡辺 毅の右足首捻挫。これにより、後半最初の選手交代で、柏は砂川をサイドあるいは攻撃陣とではなく、渡辺 毅と替えなくてはならなかった。しかし交代で入った砂川は、これまで連勝してきた勢いをもってしても異種類の壁があることに気がついたという。
 この日、これでもか、というほどボールを拾い続けた明神智和も、チームバスに乗り込む際、ほっと大きなため息をついて首を振った。
「鹿島は上手かった。時間が経てば経つにつれて、じりじりとこちらを締めてくるような感じでした。上手かったです」

 鹿島のこうした強さが4度のステージ優勝経験ゆえであると結論つけるのは、あまりに平凡である。具体的な話でこれを裏づけると、相馬直樹のこんな話に行き着いた。
 試合開始前、両チームのキャプテン、鹿島の相馬と柏の洪 明甫がコイントスをした。その際、両軍のベンチの前でボール回しをしていたはずが、陣地が交換された。ルール上はコイントスに勝ったほうが、ボールではなく陣地を選ぶ権利を得る。つまりこの時点でコイントスに勝った主将が、陣地を換えたということを意味しているわけだ。試合後、その疑問を相馬に聞いた。
「僕が勝ちました」
 相馬は笑った。
「もちろん意図的に陣地を換えました。冬の西陽がもっともきつい時間帯ですから。逆に後半はもう完全に陰りますからね。前半、西陽を真正面から受けたくなかったので、背中で受けてプレーできるようにしたんです。ええ、楽でした」
 競技場で試合を見ていると明らかだったが、西日がもっとも強くピッチを照らしている時間帯である。しかも柏は西野監督から絶対的な勝ちパターンである“先制逃げ切り”のために「最初の20分で点を取ろう」と指示を得ている。指示自体は至極当然だが、国立競技場では場所が悪かった。
 強い西陽を受けて20分ともう少し、先制点を奪おうと走り、攻め続けた柏の地力は、ここでかなり消耗せざるを得なかった。陽射しの加減によるストレスは、思うほど軽くはない。
「あの時間帯に点が取れなかったことが悔やまれる」と、試合後、北嶋秀朗は話していたが、まさにその通り、あの時間帯に点を取ろうと懸命にもがいているうちに、柏は鹿島の術中にはまり、体力を消耗し、ストレスを溜めていた。そして、それがいつの時間帯かに現われてくるまで、鹿島の選手はじわじわと彼らを追い詰めればよかった。
 柏のもっともいい時間帯こそ、相馬のようなキャリアと鹿島の伝統を象徴する巧妙な“罠”であり、柏は自分たちの脚を懸命に動かすという正攻法だけで、この罠に脚をひっかけてしまった。

 延長に入る前にもコイントスがあった。この時は、陣地は両者のベンチの前。これがトスで変ることはなかった。ということは、後半のままの陣地を、どちらかのキャプテン──トスに勝ったキャプテンが選択したということになる。
 これも相馬の勝ちだった。
「前半は意図的に、計算して陽射しのないほうを取りましたが、後半はそれと違い、勢いを取りました。流れがよりあるほうの陣地、つまり後半のほうですが、それで行こうと」
 強さとは、単にこれを選択できることではなくて、その選択の意図を全員が瞬時に理解してしまうことである。
 延長後半残り5分から、柏は、コーナーフラッグ付近でボールをキープして時間稼ぎに粘り続ける鹿島からボールを奪うことができなかった。ビスマルク、相馬、小笠原満男らが、執拗にタッチ、コーナーに逃げ続けた。
「まあ、いやらしいというか、みんなに嫌われると思いましたが」と相馬は笑う。
「引き分けでの優勝決定は満足できるものではないけれど、一方では、ここで引き分けで優勝を取る、と腹を決めなくてはならなかった。それはみんな徹底していたんじゃないですか。柏の勢いは、もう前半の途中からありませんでした」
 この日が誕生日、ベテランのキャリアを誇る名良橋 晃は言う。
 ブラジル式の誕生日祝いに、“ケーキをプレゼント”と、卵とミルクと粉をかけるジョークがあり、それをプレゼントされたために卵まみれとなった(さすがに粉とミルクは遠慮したようだ)頭を触りながら、自分たちピッチにいる11人がいかに同じことを意図し、徹底したかを説明する。
 秋田によれば、これは鹿島の「サポート精神」でもあるという。強かった時代には、1人が敵を相手にしていれば全員でそれに向かおうとサポートした。それがうまくいかなくなったのが低迷と言われた理由だったとも。そしてこの日は、正確なポジションニングさえしておき、柏に「攻めさせておけば」いつかは疲労し脚が止まるとも読みきっていた。
 こうしたベテランの意図を、若手も汲み取った。
 中田浩二は「優勝経験を持った人たちが何人もいる。その人たちが要所、要所をビシっと抑えてくれ、ぼくらを動かしてくれる」と、新しい鹿島の強さを誇った。

 両者のステージでの勝ち点は、鹿島が33、柏が32。年間総勝ち点は、柏が58点、鹿島55点。昨年も年間総合勝ち点では柏が58点と2位につけた。
 この2年間でもっとも多くの「勝ち点」を奪ったはずのチームがリーグ制覇できなかった理由はひとつ、洪の言葉にすべてがあったのではないか。
「下位チームと対戦するときも、上位チームと対戦するときと同じような集中力を出して戦わなければ実力は発揮できない。これが来年からの課題だろう」
 柏が喫した3敗は対横浜、市原、V川崎で、すべて0-1である。落とした星の重さを本当の意味で実感したのが、鹿島がトロフィーを掲げた瞬間だったとすれば、それもまた前進への糧へと変える以外に取り返すことはできないだろう。

2000Jリーグ ディビジョン1 2ndステージ 最終順位表
順位
チーム
勝点
得点
失点
得失差
 
順位
チーム
勝点
得点
失点
得失差
1 鹿島 33 28 10 +18   9 C大阪 19 20 24 -4
2 32 23 10 +13   10 V川崎 18 20 21 -1
3 磐田 30 35 17 +18   11 広島 18 23 25 -2
4 G大阪 28 27 20 +7   12 京都 18 23 30 -7
5 横浜 24 24 24 +0   13 清水 14 13 19 -6
6 福岡 22 22 20 +2   14 神戸 11 19 32 -13
7 名古屋 22 25 27 -2   15 川崎F 11 12 27 -15
8 東京 20 23 19 +4   16 市原 9 15 27 -12

2000Jリーグ ディビジョン1 年間総合順位表
順位
チーム
勝点
得点
失点
得失差
 
順位
チーム
勝点
得点
失点
得失差
1or2 鹿島 55 48 27 +21   9 名古屋 41 42 45 -3
1or2 横浜 54 56 45 +11   10 V川崎 38 46 44 +2
3 58 48 32 +16   11 広島 37 40 40 0
4 磐田 55 67 42 +25   12 福岡 37 41 48 -7
5 C大阪 48 54 49 +5   13 神戸 33 40 49 -9
6 G大阪 45 47 43 +4   14 市原 28 37 49 -12
7 東京 43 47 41 +6   15 京都 25 39 66 -27
8 清水 42 34 36 -2   16 川崎F 21 26 56 -30

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