2000−2001年シーズンを前に、スキーノルディックの原田雅彦(雪印)、葛西紀明(マイカル)、船木和喜(フィットスキー)らジャンプ陣、複合の荻原健司(北野建設)、女子モーグルの里谷多英(フジテレビ)らが記者発表に出席し、シーズン開幕を前に今シーズンにかける意気込みを新たにした。
昨シーズン前には引退を表明して転戦をした荻原は、「シドニー五輪を見ていて、メダルを狙った人たちの活躍が励みになった」と、今シーズンでまたも世界選手権金メダルを狙うと力強く宣言。2002年のソルトレーク五輪も視野に入ってきたという。
また、度重なるルール改正に苦戦したジャンプ陣もそれぞれがスキーに対応して大幅な減量をし、10月には初めて風洞実験、また欧州遠征中には「スカイダイビング」を練習に取り入れるなど、今季は昨シーズンの雪辱に燃えている。
体脂肪をこれまでの6%からさらに1〜2%は絞ったという荻原は、余分なものすべてを削ぎ落としたような、それは精神状態をも含むのかもしれないが、それほど「研ぎ澄まされた」精悍な表情で会見に出席した。昨年シーズン前は引退をほぼ決めて臨んだが、今季は引退を撤回して31歳のベテラン・アスリートとしての新たな一歩を踏み出すことになる。昨シーズン前との心境の違いについて、こう答えた。
「シドニー五輪を見ていて、やはりメダルを狙います、という意気込みを持った人たちだけがメダルを獲得していった。それを見て、昨年、しっかりとした目標を持たないで遠征に出て行った自分を恥じました。目標を置かずに、いつ頃やめようかな、などと考えながら世界を戦った自分が恥ずかしかった。ですから今年は、やはりW杯への全試合出場を目指し、併せて世界選手権の金メダルをしっかりと狙っていきます」
31歳の競技者のこうした新たな決意には、どこか神聖なものがある。一度はやめると決意しながらそれを撤回。荻原は自らを恥じたというが、ここまで自分を潔く見つめる姿のどこにも「恥」といわれるようなものはないのではないだろうか。
精神的な“リ・ボーン”(生まれ変り)は、肉体的な新しさも呼び起こした。夏からは初めてサーフィンに挑戦。これを「初めての趣味」だと笑う。
「初めて自分がまったくできないスポーツがあったんですよ。この衝撃っていうのは、もうなんとも言えないもんでしたね。とにかく悔しいじゃないですか。くそーって思ってムキになってしまいました」
笑いながら話す表情が輝く。
実際のところ、複合にも2つのメリットがあったという。ひとつは、普段スキーではまったく使うことのない上半身の筋肉を存分に使い、初めて味わう筋肉痛を知ったこと。これは、ここまでスキー一筋だった荻原にとって何よりのリフレッシュになったはずだ。
2点目は、道具を使うことへの新たな感覚だと話す。
「ぼくらスキーをこれだけやっていると、道具を使うことの難しさとか、忘れてしまうんですよね。ですから、体重をしっかり乗せないと、海でも雪でもダメなんだとか、本当に上手に道具を使うことへの繊細さを思い起こさせられましたから」
夏の間、悔しいと取り組んだサーフィンが思わぬ副産物を生んだようだ。
29日には欧州へ出発。11月26日のリレハンメルから始まるW杯をすべて転戦し、来年2月15日からの世界選手権(フィンランド)で「金メダルを狙います」と話す。
ルール改正でまたも距離の得点比重が上がるが、「うんざり、と思う反面、ルール変えたって(実力は)何も変らないよ、ということを問いたい」と意欲を見せる。「すぐに次のシーズンのソルトレークとは思えない。1戦1戦を大切にしたいし、体が続く限りベストを尽くす」
シンプルな答えは、しかしどこまでも力強い。
今季巻き返しを狙うジャンプ陣は、10月13日、国内で初めての風洞実験を行って、実験室の中とはいえ、風の流れ、掴み方、体重との関係などさまざまな観点からの計測を行い、これを役立たせようとしている。
実験ではさまざまな風を受け、抵抗や風圧を変えていきながら、自分自身でバランス、手の動かし方など普通のジャンプ練習ではできない感覚を得ることができるという。「風をつかむ」という観点からの数値は、やはり日本選手も抜群のものがあったそうだ。
「経験したことのない条件の中で新しい感覚を得た。それをジャンプに取り入れるのは結構難しいかもしれない」(宮平秀治=ミズノ)、「もともとやっていることでもあったので、それを改めて見直した、という感じ。やはりいい実験になったと思う」(葛西)、といった意見から、「ジャンプは一定方向だけの風を受けるものではないので、実験といってもいろいろと難しい面はある」(船木)との感想、また「大変参考になったし、世界的にはかなりこうした研究が進んでいるんだと思う」(原田)といった見方もあり、それぞれがさまざまな格好でデータと実験をヒントにしたようだ。
また欧州遠征ではスカイダイビングも試して(インストラクターと)、空でのバランスなども知った。
葛西のコメントがユニークだった。
「やっぱりスカイダイビングをやってかなりの根性がつきました。ほんと怖いんですよね、いくらインストラクターがいても」
ジャンプ台からパラシュートもなしに雪上に、しかも風を体だけで受けて落下してくるジャンプのほうがよほど怖いのではないか。ジャンプ選手の感覚の面白さと、どこか凄みを感じた。
■ジャンプのルール改正のポイント
身長×146%の長さの板を使用することは前年度と同じ。しかし、板自体の厚さが1センチ厚くなった。また、ウエアは大幅に変更され、スーツの厚みはこれまで8ミリから5ミリまで薄くなり(空気を溜めることができなくなるため、飛距離はある程度下がることになる)、空気容量を低下させている。板の規定の変更にともない外国勢が体重を落としたことから、日本も葛西が6キロ減(59キロ)などみな大幅なスリム化が主流になっている。一方では試合会場で選手が倒れたり、拒食、貧血などの摂食障害も報告されるなど、「選手の健康を害してはならない」と国際スキー連盟が国際オリンピック委員会の医科学サポート部門に調査を依頼。夏をメドに、身長比でどこまで痩せても効果がないかなど、ある程度のラインを引くことを検討している。
■複合のルール改正のポイント
これまで1分の差を10点としていた距離でのポイントを12点とする。これで距離へのウエイトが大きくなり、またジャンプの距離換算でも、これまでの5メートルで1分差が、今度は6メートルで1分差となるため、距離スキーのスタートはあまり差がつかず集団でスタートする傾向になる見通し。このため、ゴールまで熾烈な争いとなるなど、クロスカントリーで誰が抜け出すか、がポイントとなる。荻原はこれに備えてすでにトレーニングをしており、昨年以来取り組んできた「ストックワークを、ノルウェーの選手たちを参考にしながらさらに磨きたい」と備えている。