10月16日

※無断転載を一切禁じます


とやま国体にて

 シドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子(積水化学)ら、陸上の入賞者に対して、特別表彰が行なわれ、同じ種目7位の山口衛里(天満屋)、400メートルリレーの伊東浩司(富士通)らメンバー、男子10000メートル8位の高岡寿成(鐘紡)が表彰を受けた。高橋は、前日本陸連会長の青木半治氏の名を冠した青木半治賞を授賞した。

「いただけるものなら……」

 これまで小出義雄監督とともに、もしかすると練習よりもはるかにきつい表彰行脚を続けている高橋だが、中でも注目されたのは国民栄誉賞に対する自身の考えである。この日、富山の県立陸上競技場で行なわれた表彰式の後、短い会見の場を持ち、その席上で「この何日か監督とも、会社ともきちんとお話する時間を持っていません」と、この話題をまだ正式には受けていないことを示唆した上で、「もし本当に受けさせていただけるならば、名誉なことだと思うので喜んで受けさせていただきます。(一部ではこれが現役として負担にならないか、との声もあるが)これが最高とは思わないよう、それにとらわれることなく、今まで自分がしてきたのと同じ道を歩んで行きたい」と話した。
 陸連も、「話が本人、及び積水化学に行くのが筋であって、陸連には来ないものだし(団体表彰ではないため)、受ける、受けないについて陸連が話し合うようなものではない」と、明確な姿勢を見せている。一部では陸連が辞退も、との話があったが、これを伝え聞いた小出監督が「会社が辞退するならいざ知らず、連盟がそれを拒否するのは不自然ではないか」と話していた経緯がある。
 積水の関係者も、「検討中と報じられた以外、まだ何も正式にはお話を聞いていないし、自分たちから問い合わせるものではない」と、事態を静観している。いずれにしても、国民栄誉賞が高橋の元への正式に連絡されてからの話になる。

「体は辞めたがっているが……」

 100メートル10秒0の日本記録を持つ伊東浩司(富士通)が、注目の今後の陸上活動について、「体は辞めたがっているが、心は続けたいと思っているような感じです」と依然揺れる胸中を明らかにした。
 伊東はここまで行事や富士通での研修に終われて、18日からようやく通常の勤務で職場に復帰する。そこで上司ときちんとした形で話し合ってから、今月中に決めたいとするが、ここまで相談した人には全員、「続けて欲しい」と言われているという。ネックとなるのは、まずは会社との兼ね合いだろう。理解し協力を受けていても、今後は「違った体系と比重で競技に向かわなくては。年齢もあるし、引退して仕事もできない、という状況にはなりたくない」と、30代の男性社員としての悩みと、アジア最速、黒人選手以外では唯一の10秒フラットをマークしているトップアスリートとしてのバランスを取ることが、いかに難しいかをうかがわせる。
 また、来年の世界選手権(エドモントン)で引退を、という声があるが、やはり目指すならば4年をひとつの目標として最終的にはアテネ五輪に照準を合わせたい。リレーでメダルを逃したことも、新たなモチベーションにはなる。しかしそうなると伊東も34歳と、誰もが踏み入れたことのない領域でさらに戦わねばならないわけで、こうした点も「かなりの覚悟はいる」と話す。
 今年は30歳を境にする競技者で、やはりノルディック複合の金メダリスト、荻原健司(北野建設)が引退を撤回して競技を続行すると表明した。悩むくらいが彼らにとって唯一の自由で、急いで結論を出すものではないが、今月中をメドにすると伊東はいう。
 ちなみに先週に受けた研修では入社以来初めてプレゼンテーションを行った。題は「リーダーシップについて」。
 一日中ネクタイを絞めて、会議室にこもっている自分に少しも違和感がないこと、練習に行かねばならない、という強迫観念がなかったことに少しだけ驚いたという。
「そういう自分に焦るのは、やはり練習をしなければ、と心のどこかで思っているからですね」
 わずかな心境の変化や揺れと向き合いながら、答えはすでに出ているのだろうか。

BEFORE LATEST NEXT