5月27日
体操NHK杯
兼シドニー五輪日本代表決定競技会
第1日目
(金沢市・県立体育館、男子6種目、女子4種目)
過去の選考会での持ち点をベースにして争う最終選考会で、女子では山脇香奈(15歳=ビッド体操クラブ、岐阜大学教育学部付属中学)が持ち点トップの安定した演技を見せて37.237点で初日のトップに立った。山脇はロス五輪代表でもあった父でコーチの恭二さんに続く親子五輪出場に王手をかけた。
また男子では、すでに五輪代表に内定している塚原直也(朝日生命)が6種目を終えて56.825点でNHK杯トップ。選考会のトップには藤田健一(徳州会)が55.925点で立った。また塚原と並んで父との2代五輪代表となる笠松昭宏(徳州会)は、平行棒で落下したものの持ち直して選考会2位につけている。
体操の五輪代表は4月の選考会での得点の半分を持ち点とし、NHK杯での得点との合計によって女子は2位まで、男子は塚原をのぞいて5人(団体は6人)があすの2日目の競技終了後に選ばれる。
「わー、根性ないんだ」
力からいって女子では圧倒的な強さがあると言われている山脇にとっても、最終選考会の重圧は特別なものだった。
前日の練習で体がうまく動かず、絶対にしてはならない着地でのミスを重ねてしまったという。こうなると、「いいイメージ」を抱いての演技は難しくなり、「ちょっとヤバイかもしれない」と感じていたと試合後は告白した。
父恭二さんは言う。
「試合前、娘に(フィニッシュの技は)どうするんだ、と聞いたら、(難易度の高いモリスエではなくて比較的安全な)伸身で行く、と行っていた。私は、わー根性ないんだ、と言いました。それなりに怖かったと思うが、国内だけで勝っていればいいという問題ではなくて日本の女子もできるということは示さなくてはならない。だから最初から行こうと言いましたがある部分、普通の女の子です」
父と相談の結果、結局安全策を取ったが、それも当然の策といえる。現在の体操競技の採点方法では規定がなくなり、その後は減点法が取られている。つまり大技で失敗しても、比較的安全な演技で失敗しても減点においてはまったく同じになる。
着地にいいイメージをもてなかっただけに、石橋をたたいて渡った初日には、守る難しさがあった。
「最初の種目が(段違い平行棒)終わるまでは緊張もした。あしたは思い切って自分を出したいと思う」
父の「わー根性ないなあ」という言葉を聞くと、娘は「結構根性ありますよ」と笑顔で答えていた。
「こちらは、お任せ」
初の五輪に挑戦する山脇のか細さと、父の心配と比較するのは無理があるが、塚原家の応援席にはその演技と同様に不思議な安定感だけが漂った。
競技会はシドニーでのプレ五輪(2月下旬)以来という塚原は試合後、「吊り輪の着地に緊張感があったが、集中できたしまあまあだった。内定を受けて細かいところをきちんと確認できるようになった」と、吊り輪と課題の床での着地失敗を悔やんだ。
4年前のアトランタではまだ高校生だったこともあり個人総合12位と力を出し切れずに終わった。社会人になり練習時間も十分に取れる。体も出来、精神的にも安定した。
スーパーE演技のコールマン(鉄棒)などは初日には封印されたが、むしろ大技よりもどんな細かなミスをもしてはいけないという緊張感の維持のほうを大きな課題にする。
「もうお任せ状態。直也の安定感は増す一方ですし、こちらが言うこともありません」と、シドニーへは「父」として乗り込む光男氏は話す。個人総合の得点ラインを「(各種目)9.5〜9.7くらいでまとめること」と勝算だけは見通している。あえて言えばコーチのアンドリアノフ氏とともに五輪のコーチIDを(人数制限から)もらうことができず、練習会場などでの微調整がうまく行くかどうかだが、これもさして大きなハンディにはならないことを予感させる安定した演技だった。
超スーパーE難度の技が平行棒の「伸身モリスエ」、平行棒の「屈伸モリスエ」、鉄棒の「コールマン」と床の「伸身の新月面宙返り」と大技の幅は広がっている。
「成功させる自信がなければ意味がない。あすは入れても2つくらいにする」と、五輪前としては最後の公式競技会でのテーマを「ノーミス」に置いていた。
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