5月7日
水戸国際陸上
兼シドニー五輪代表選考会、男女100m、女子10,000mほか
(水戸市立陸上競技場)
女子マラソン選考レースでは(大阪国際)2時間22分56秒をマークしながら代表に選ばれなかった弘山晴美(資生堂)が、10,000mの代表をかけて出場し、31分59秒60と好記録で優勝(A標準は32分30秒)、シドニー五輪代表を決めた。
弘山は3月13日、理事会でシドニー五輪のマラソン代表選考に漏れた後、同月下旬から米国・ボルダーでの高地合宿を行うなどし、4月中旬に帰国してこのレースにかけていた。
また、中国の昆明で高地合宿を行ってスタミナの強化をはかっていた市橋有里(住友VISA)も出場し、33分5秒60で7位だった。
10,000mではすでに昨年の世界陸上で入賞を果たした高橋千恵美(日本ケミコン)が内定しており、先月23日の兵庫リレーカーニバルでは川上優子(沖電気宮崎)が標準記録を突破して優勝し、弘山はセビリアでの世界陸上と同じ川上、高橋とともにシドニー五輪のスタートラインに立つことになる。
陸連の一般種目での代表決定は、6月中旬の理事会で正式に決まる。陸上ではA標準記録を突破した選手が40人を超えており、枠は40と定められている。すでにマラソンなど12が決定しており、残りは28となる。エントリー締め切りが7月25日のため、理事会では今後も標準記録を突破する可能性の高い選手については一時ペンディングをして7月25日ぎりぎりの南部杯まで(札幌)待つ予定でいる。
「自分の立つべき場所」
弘山は最初の1キロを3分11秒で入り、400メートルを76秒程度でカバーしていく積極的なレースを展開した。レースの8割で先頭を引っ張り、ラストの2,000メートルは独走。途中一度もトップ、インコースの位置を譲らないままゴールまで戻って来た。
市立競技場にはレース中から弘山の周回に大きな声援が飛び、ゴールではスタンド中の観客が立ち上がって拍手を送るなど、弘山がトップでゴールした瞬間、誰もが共有できるような「安堵感」が競技場を包みこんだ。
「陸連に負けるな」「10,000mで代表になれ」と、本人にとってもこれ以上ないほど心強い応援が積極的なレースを後押ししたはずだ。
「彼女は、日本の国内で勝った、負けたのレベルにいる選手ではない。自分のいるポジションを考えて思い切って引っ張ってもいいのでは」。
夫でコーチの勉氏はレース前、短くアドバイスした。
マラソンの選考では弘山の記録が、内定していた市橋よりも良かったことで落選に同情が集まった。陸連への批判、弘山夫妻への同情論が渦巻く1か月間を毅然と乗り切った2人だったが、3月ボルダーに入り、考える時間ができたとき、初めて本当に気持ちが落ち込んだ。
「長い競技歴でもはじめてでしょうね。本当にどうにもできないものだった」と勉氏は振り返る。そんな状態を救ってくれたのは、ボルダーのランニング仲間、そして、大阪では激戦の末に破れたシモン(ルーマニア)だった。
弘山の落ち込みを人伝えに聞いたシモンは「シドニーの10,000mでメダルを狙って欲しい」と、知人に伝言しそれを聞いた弘山にも少しずつ気持ちの変化が現れ始めたという。
「なかなか真正面から困難に取り組むことはできずに辛かった。でも、私も走っている。それをシモンにも見せたかった」とレース後は笑顔を見せた。
マラソンでの代表にかけてそれが最高の結果でもかなわなかったとき、どれほどの困難があったかはとても説明できないものだろう。しかし、弘山は多くのスピードランナーがマラソンに挑戦して、春のトラックに戻れずに終わるほどのダメージを受けた中、一人両方の種目で最高のパフォーマンスを見せた。
日本のトラック種目で3つの日本記録を持ち、さらにはマラソンでのメダルにかけ、なおも貪欲に10,000mでのメダルを狙うことになった。
選考会に「とりあえず選考会だから」とか、「日本人1位でもいい」などと縮小した解釈をせず、果敢に記録を狙い自らでハードルを上げた点も、アスリートとしてのレベルを十分に見せつけるものだった。人がどう見るかではなく、自分で自分の立ち位置を決めなくてはトップアスリートとは言えないことを弘山は知っている。
そして選んだ場所は、同情を買うような場所ではなく、尊敬と敬意を集めるポジションである。同時に日本陸連は、弘山の競技者としてのレベルの高さに多いに救われたはずだ。
この1年、失ったものはあっただろうが、得たものもそれに勝るとも劣らないほどあったはずだ。困ったことがあったとすれば、夫の勉氏が、頑張り続ける妻に多少涙もろくなったことくらいだろうか。
「いつも泣いてばかりで……。でもきょうはうれし涙です。よく乗り越えてくれました」
弘山晴美の1,000m通過ごとのラップタイム
1,000m |
2,000m |
3,000m |
4,000m |
5,000m |
3'11 |
6'23 |
9'38 |
12'53 |
16'07 |
6,000m |
7,000m |
8,000m |
9,000m |
10,000m |
19'19 |
22'32 |
25'44 |
28'54 |
31'59"60 |
※ラップタイムは手元の時計による計測 |
陸連シドニー五輪強化特別委員長の桜井氏の話「前半からすべての点で積極的にレースを展開した姿勢はこちらに本当に良く伝わるすばらしいもので最大限に評価したい。トラックにおいても彼女の力が十分に実証されたレースだったと思う。シドニーでは、アトランタで志水(見千子、リクルート)があそこまで粘ったように(5,000mで4位)、女子のトラックでも成果が出ると思う。(マラソンもコースなどが非常に困難なので)マラソンだけが戦える種目と約束されているわけではない。弘山さんが日本の女子陸上全体のレベルを大きく上げてくれたと思う」
10,000mの成績
順位 |
選手名 |
所属 |
タイム |
1 |
弘山晴美 |
(資生堂) |
31分59秒60 |
2 |
ソマジオ |
(イタリア) |
32分15秒95 |
3 |
ヌデレバ |
(ケニア) |
32分17秒58 |
4 |
土佐礼子 |
(三井海上) |
32分25秒80 |
5 |
松岡範子 |
(スズキ) |
32分32秒99 |
6 |
渋井陽子 |
(三井海上) |
32分34秒35 |
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