4月28日


シドニー五輪マラソン代表のコース下見
(ノースシドニーオーバルからスタート、シドニーオリンピック競技場ゴールの片道42.195キロ)
天候:晴れ、気温:19度

 男子代表の犬伏孝行(大塚製薬)、佐藤信之、川嶋伸二の旭化成勢と、女子の山口衛里(天満屋)、補欠の小幡佳代子(東京陸協)が9月に行われる五輪マラソンのコースの下見を行った。犬伏、山口、小幡は初のコース下見で、旭化成勢はコースが多少違っていたもののすでにかつてのシドニーマラソンを試走している。この日、マイクロバスをチャーターして42.195キロのほぼすべてを回り、スタート地点、折り返し(17.5キロ)地点などを実際に歩いて見学。
 30日に行われるシドニー・ホスト・シティマラソン(オリンピックと同じコースを使用)で全員がレースに参加しつつ、コースのイメージを作りあげる。
 下見はバスで、五輪本番のレースとほぼ同じ午前9時(日本時間7時間)にスタート、ラッシュアワーと片道通行のために一部ショートカットした道はあったもののほぼ全体をカーバーした。
 スタートラインでは、1.5キロで50メートルを下る坂を最高地点で車を止めて確認。噂以上の急勾配に驚きを隠せない様子だった。その難しさから「史上最悪のコース」と称されるマラソンの意味が実感となったようだ。
 選手は30日に勝負など関係のない練習の形でレースを走り、その後帰国する。

佐藤信之「(下見は)初めてではありませんのでそれほど新しい驚きはありませんが、しかし、アップダウンに対応するための脚はしっかり作らないといけないな、という気持ちは強く持っています」

川嶋伸二「以前見たコースとはちょっと違うので……。ただあの時にはまさか自分が代表になるとは思ってもみませんでしたので、なんかコースもはっきりと覚えていませんね。心なしか前よりも坂が増えてしまったような……(笑い)」

犬伏孝行「大変なコースですね。それぞれ攻略方法が違うと思いますが、やはり自分は前半というか序盤の急勾配ですね。今までアップダウンというとボストンでしたが、それをはるかに上回っていますね」

山口衛里「車から見ても驚くほどの起伏ですね。東京国際マラソンの(四谷からの)坂、など従来のものではとても計り知れません。ここでいい記録を出してメダルを獲ることなどできないのではないでしょうか」

小幡佳代子「こういうコースを見ることは、いい意味で練習から『どうやって走るか』を常に意識させるものにもなる。いい準備をしたいと思う」

「百聞は一見にしかず」

 シドニーは前日の雨から晴れ上がり気温は最高で20度に上がった。シドニー五輪が行われるのは9月で、気温は現在よりも多少低めになる。これまでバルセロナ、アトランタ、そしてその間の世界選手権で連続した「酷暑マラソン」から、選手はようやく解放されることになる。しかし、別の難題も持ち上がった。コースである。

 これまでもコースの起伏が注目されることはあった。しかしバルセロナは、最後のモンジュイックの丘まではほぼ平坦な道で、アトランタも後半はどちらかといえば単調とも思えるほどであった。しかし今回は違う。
 序盤、中盤、終盤それぞれに文字通りの「山」と「勝負の山」が存在する。スタートから1.5キロを50メートル下るコースは現在世界的なマラソンにも存在しないし、30キロ以降、10〜30メートルの起伏を実に10以上クリアしなければならないコースもまた初めてのことであろう。
 この日、選手を乗せたマイクロバスは頂点ともいえる場所でストップして下りを選手に実感させていた。眼下の町並みが見えないほどの勾配に「ジェットコースターか」と言った声も聞かれた。

 今回の遠征の団長を務める桜井孝次シドニー五輪強化担当部長は「やはりいくら資料を持っても、一度でも実際に見ることにはかなわないだろう。これで選手のイメージがかなり固まるはずだし対策も練ることができる」と下見のあと話していた。海外の選手はあまり下見をしないのに対して、日本の選手は繰り返し繰り返し下見を行う中でレースへの対応力を身につける。
 96年のアトランタ五輪の際、金メダルを獲得したロバが有森との対談の中で「コースは見ても見なくても同じ、当日いい調子で行くこと、あまり情報がないほうが先入観で走ることがないので、私はそうする」と話し、有森は「下見をしつこいほどやって準備してこその実力」とこの点だけは2人とも意見が反対であった。
 こうしたアプローチも含めて、いよいよ五輪のマラソンへのゆっくりとしたアップが始まった。
 30日のレースには豪州の選手も含め5,500人がエントリーをしている。

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