シドニー五輪女子マラソン代表に内定している市橋有里(VISAジャパン)が、昨年8月のセビリア世界選手権以来約7ケ月ぶりとなるレースに出場し、一般女子5キロの部で16分40秒をマークし7位に入った。
市橋は昨年11月に代表に内定してから、年末年始はニュージーランドで合宿を行うなど、アスファルトではなく不整地を走リ込むことで主に筋肉量を増やし、アップダウンが激しいといわれるシドニーのコースへの対応をはかっていた。この日は、世界選手権時よりも、多少太くなったという太もものパワーを存分に発揮する力強さも見せ、五輪に向けての「マイナーチェンジ」が非常に順調であることをうかがわせた。
レースの優勝は、ルーマニアのオルテアヌで16分19秒。2位はトラックの第一人者、川上優子(沖電気宮崎)で16分20秒貫禄を見せた。また3位には、東京ランナーズ倶楽部で市橋の先輩、市川良子(JAL)が、千葉国際クロカンに続く好成績(16分29秒)で健闘した。
日本人トップの川上優子「2000年初めてのレースで、もっとボロボロかと思っていたんでとても良かった。昨年から最初は左のふくらはぎ、その後痛みがアキレス腱にまで下りてしまい、年明けの練習から下旬の沖縄合宿まできちんとした練習をこなすことができませんでした。今日の走りをいい方向に持っていけるようにして、4月23日の兵庫リレーカーニバル(一万メートル)を狙います」
世界陸上で銀メダルを獲得してから、7ケ月ぶりとなるレース復帰も、実に淡々としたものだった。
ゴール後多くの取材陣に囲まれ質問を受けていたが、会場内に響いた成績を通告するアナウンスだけは聞き逃さなかった。あ、ぴったりでした」と小さな声でホッとした笑顔をみせた。レース前、東京ランナーズ倶楽部の浜田安則コーチから言われた設定タイムは、16分40秒だった。アップダウンのある屋久島で、このクロカン前の合宿も行ったが、疲労が思ったほどなかったことも、筋力アップを裏付けている。
「16分40秒なら上出来、と(浜田氏から)言われていたので……」と、手ごたえを喜び、浜田コーチも「プラマイ(プラスマイナス)ゼロ、誤差なしでした」と、表情を崩していた。
実業団に所属する多くのランナーが、スケジュールの調整に四苦八苦し、時には非常に体調が悪い中にあっても駅伝などを無理にこなす状況とは正反対に、市橋はレースをじっくりと選び、その代わり狙ったレースのテーマと達成度を高めて行くという競技スタイルを特徴にしている。無謀な怪我をしない、体調を大きく崩さない、など、市橋の場合は若くして身につけた安定性こそが、武器であるともいえる。
例えばこの日、7ケ月ぶりのレースとなったが(2月の千葉国際クロカンは直前でキャンセル)、タイムは16分40で、そして「きょうはマラソン練習の一環なので、体を一杯一杯にして走ることよりも流れの中で、シドニーのコースの一部を走ろうというイメージを持ってマラソンの動きができればいい」(浜田氏)とのテーマを完全に実行したといえる。
世界陸上で銀メダルに終わった際、浜田氏は「今の市橋ではまだまだ馬力というものが足りない」と話していた。合わせてシドニーの難コースを考える時、脚力を第一の課題に取り組んでいたことは、メダル獲得への準備としての第一歩でもあった。体重は世界陸上よりも1、2キロ、これは意図的に増やし、そこから筋肉を効率よくつけていこうという作戦である。
「きょうは本当に久しぶりに緊張しました。力まないように、でも腕をしっかり振って行きました。世界陸上の後、ちょっとのんびりしちゃいましたので、春のサーキットに向けていいレースができたと思います」
内定が出たことによるプレッシャーについても「世界選手権の時は多少バタバタしたと思うので、今回はじっくりいい準備をしたい。(選考のことについても)今は自分のことを考えるだけ」と話し、本番まで文字通りのマイペースを貫くことになりそうだ。