3月4日


2000 ゼロックススーパーカップ
磐田×名古屋
(東京・国立競技場)
キックオフ:14時47分、観衆:25,063人
天候:雨、気温:13.6度、湿度:62%

磐田 名古屋
1 前半 0 前半 0 1
後半 1 後半 1
73分:福西崇史  ホミルド:55分
3 PK 2

PK results 1st 2nd 3rd 4th 5th
磐田(先攻) × ×
名古屋 × × ×

 磐田との一戦は、今年のJリーグを占うものとしても注目を浴びた。前半開始わずか10分で、名古屋の中盤のバランスを取るべき重要な役割を果たしているウリダが、左ふくらはぎを負傷するアクシデントで退場、古賀正紘を交代で入れることになった。またその直後、22分には、飯島が右太ももの痛みで急きょ岡山と交代。前半の序盤で、名古屋は早くも2人の先発を怪我で交代させるという珍しいアクシデントで、波乱含みの試合となった。
 名古屋はこうした緊急事態に、3バックのオプションを選択。ストッパーに古賀、ホミルド、大岩剛を置く形にして対応をした。前半は、アジア選手権のため1週間で3試合をこなす磐田が、コンディショニングが難しい状況の中で、名古屋を終始圧倒、中山雅史、高原直泰らがゴール前でチャンスを作って5本のシュート等で主導権を握ってハーフタイムを迎えた。
 後半に入って、磐田のアウトサイド、山西尊裕、西紀寛の2人に疲労が見えはじめ、この両サイドを名古屋が狙って崩し始めたことから、状況が少しずつ変わる。そんな中後半10分、平野孝が右サイドからのキックをゴール前に走り込んできたDFのホミルドの右足にドンピシャのセンタリングを放り込み、これで先制点を奪った。しかし、その後名古屋はパスミスを連続するなど、磐田へのプレッシャーが甘くなり、28分にスローインから高原がゴール中央にボールを放り込み、このボールが流れたところでノーマークになった福西崇史が右足でシュート。同点に追いつかれてしまった。
 試合はそのまま1−1でPK戦へ。後攻めの名古屋は、1番目のストイコビッチ、2番目の平野と外して劣勢に。しかしGK楢崎正剛が踏ん張り、高原、中山のシュートを阻止。サドンデス手前で呂比須ワグナーが外して、名古屋はPK2−3で磐田に敗れた。名古屋はこれで国立競技場での15連勝がストップ。しかし1週間後の開幕にむかって、両クラブとも優勝候補の一角にある実力を示したプレマッチとなった。

磐田、ハジェヴスキー監督「後半はピクシーのマークがずれてフリーにしてしまうことがあったので三浦文丈を入れて、マンツーマンでつくことにした。西、山西はともに若く素晴らしい選手だが、一方ではああした状況に対応できる経験が少ない。そこで両ウイングバックを交代することになった。開幕から4試合くらい厳しい(上位チームとの対戦)戦いが続くが、きょうから頭をレイソル戦(開幕)に切り替えて行く」

名古屋、ジョアン・カルロス監督「非常にレベルの高いゲームだった。結果は負けたが、攻守とも両方で非常にいい形ができた。多少のミスは磐田もいいチームなのだから仕方ない。私としては、非常に満足しているししっかりした試合ができたと思っている。きょうすぐに開幕してもいいくらいいい仕上がりではないか」

PKを外したピクシー「(PKを外すところを初めて見ましたが、という質問に)そうか、キミはラッキーだ。初めて外すところを見られたんだから(笑い)。私としては、外すのが開幕した後ではなくて、きょうであったことを感謝したいね。きょは雨が途中からひどくなり、コントロールが難しいし、ジュビロのほうがより試合にフィットしていた。1−0になってもう1点を早く取れなかったところにきょうの反省がある。(これで連勝が止まったがと聞かれて)、いたきょうは負けたとは思っていない。PKはまるで宝くじみたいなもんだから」

続く2番手で外した平野「最悪です。自分の出来としても最低。PKはしっかり(GKを)見ないで行ってしまった。前半はアクシデントもあって、かなり(自分が)あたふたして面もあったと思う。でも、開幕にはつながる試合でもあった。自信を持って臨みたいと思っている」

苦手のPKをやっぱり外した中山「PK戦は参ったね、高原が外すから(大笑い)。まあ言い訳にはしたくないんで。でも、足首は一瞬気になりましたね。痛みを感じることはなかったけれど、それは治ったというよりもアドレナリンが出ていたからじゃないか。厳しい試合を追いついて最後はものにできたことを収穫に、自信を過信にしないようにまたがんばりたい」

Jリーグ、川淵三郎チェアマン「名古屋が(連戦の磐田より)もう少しいい調子かと思ったが、やはり磐田は今年も勝負強そうだ。リーグを代表するゲームとしてはいいものだったし、この天候の中で(試合開始から雨に)わざわざスタジアムにきてくださったファンのみなさんにもお礼を申し上げたい」

「応急処置は早く、しかも適切に」

 多くの見所があったこの試合の中でも一番の見どころは、名古屋、ジョアン・カルロス監督の「手腕」だったのではないか。
 前半10分で中盤のウリダ、22分で飯島寿久と、試合がまだ何も動き出していなかった序盤でいきなり2人の故障退場者を出すなどというのは、あまりないだろう。
「始まって30分も経たないうちに2人がいなくなるなるんで、オレも長くやっているけどびっくりした。あるんだね、ああいうことが」
ベテランの山口素弘は試合後振り返ったが、言葉通り、びっくりしたのは監督自身だったはずだ。
 しかし、カルロス監督はまったく慌てることはなかった。先ずウリダに代えて、古賀を投入。この時点では中盤にそのまま入れ替えたが、22分の飯島の交代で今度は4バックを思い切って3バックに。昨年の天皇杯から取り入れているオプションのひとつではあるが、その交代に岡山哲也を入れてから、磐田の若く経験の浅い両サイドは岡山らに翻弄されてしまうようになった。

 ハーフタイム、監督は両サイドのマークとカバーリングを徹底すること、相手をフリーにしないこと、また前半は動きの少なかった呂比須をターゲットに磐田DFの裏を狙っていくように指示をしている。この日の名古屋は、もちろん敗れた結果は残念なものだが、しかし一方では、昨年までにはない、いわば「応急処置」への対応力、言い換えれば底力、というものを十分に示すことができたのではないか。監督は会見後、「ああいうことはサッカーではしょっちゅう起きる、と考えている。もちろん、私の心の中は冷静な顔ほど静かじゃなかったが、しかし困ったり、焦ったり、まして考え込む時間などない。それがサッカーだから」と笑顔で話していた。難しい試合だった。そして厳しい試合だった。しかしそれを監督以下チームが「楽しんで」いたこともまた事実だろう。開幕は柏と対戦する。この日、競技場には柏の偵察部隊も訪れ、開幕まで残り少ない緊張感が、どのクラブにも漂っていた。

「まだ、まだ、まだ、です」

 横浜Fマリノスから引退勧告を受けて、現役にこだわり、代表にこだわり続けた井原正巳がこの日、磐田のユニホームで初の公式戦に出場した。ボランチなどの情報もあったが、最終的にはストッパーとなり、リベロを任されている福西崇史、鈴木秀人とのコンビネーションも初めて実践で試されることになった。「まだまだ、というか、まだ、まだ、まだ、というところでしょうね。福西はよくなっていると思う。試合中の問題はなかったのではないでしょう」ベテランは、感傷的なコメントはまったくせずに淡々と試合を振り返る。体調は非常によく、故障個所などもなく、コンディションもうまく仕上がっているという。気の毒なのは、アジア選手権にトップが出場し、移籍直後の井原には手続き上の出場権がなかったことだ。このためチームが戦闘モードにいる中、井原だけは一人チームを離れてサテライトでの練習をしなくてはならなかった。サテライトでのプレーは遅く、しかもDFでもほとんどマークの必要がないような状況が多い。井原にしてみれば、監督にアピールする間もなく、また磐田のサッカーの本当のタイミングなども体で熟知する以前に、この日を迎えたことになる。
「代表で123試合も出場した選手だ。きょうは経験によってチームを勝利に導いたと思うし、井原が西(19歳)のような気持ちでプレーするなら怖いものはないはずだ」と、監督もむしろきょうからあとの「真価」に対して大きな期待を寄せている。まだスタートラインについただけ、田中との、あるいはほかの若手とのポジション争いも始まってはいない。しかし、井原が優勝クラブの先発としてピッチに再び立ったことには、価値があった。

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