種の学名に関して一通りの知識が得られたところで、命名時に起きるであろう問題についていくつか取り上げたいと思う。
それが、同じ名前と違う名前の問題である。
多くの人が分類を行い、記載をすると、同じ虫と気づかずに別々の名前を付けてしまうことが起こりうる。
あるいは、過去の文献をきちんと調べないと、すでに記載されていることに気づかないまま新種として記載してしまうことが起こりうる。
しかも、それぞれの手続きは命名規約にのっとって行われた場合、1つのタクソンに複数の学名が与えられる結果が生じる。
このような学名のことをそれぞれ、異名
Synonymという。
そして、そのような関係にある学名は異名関係にある
Synonymyという。
これは大問題である。
そこで、命名規約はこのような場合の対処法を示している。
同一と思われる分類学的タクソンに対して、与えられる学名が複数あった場合、どちらが有効であるか?
それは、先取権の原理によって定められている。
すなわち、早いもん勝ちで、もっとも古い学名だけが有効であると定められている。
早いか遅いかは発見した(つまり採集した)日ではなくて、論文として発表した日付けで決まる。
一方、同じ理由で起こりうることとしては、
別々のタクソンに対して、同じ綴りの学名が与えられていることがある。
この場合、それぞれの学名のことを同名 Homonymといい、そのような関係を同名関係
Homonymyにあるという。
この場合も、やはりもっとも古い学名だけが有効であると定められている。
異名関係あるいは同名関係にある学名のうち、古いものを古参
Senior といい、新しいものを新参
Juniorという。
すでに別の虫に対して与えられている学名を、別の虫の記載で用いるとその学名は新参同名
Junior homonymとなるが、これは今後一切、分類がいかに変わろうともこの虫の名前としては用いることができない永久に無効となる。
まあ、ちゃんと下調べをしないで使うほうが悪いのであるが、分類学者は同じ属の虫の学名を知らないということはまず無いと思う。
もっとも、地球の裏側で記載された場合には情報伝達が遅かったりすることもあるだろう。
このような混乱をなくすためにも、すくなくとも公表するときは、同じ分野の分類学者が(世界中の)目に触れることができるようなものに発表することが重要であるといえよう。 |