学名のススメ(2)-4

ふじもり@えりー


タイプ
さて、前セクションでは、学名が担名タイプに基づいて決定されること、そして担名タイプと学名によって名義タクソンが決定されること。
その結果として、分類学的タクソンに名義タクソンで与えられた学名を流用するということを述べた。
学名が一意に決まるためには担名タイプという存在が不可欠であることも述べた。
このタイプという言葉は聞きなれない言葉であるがいったいどういうものだろうか?と疑問に思ったかもしれない。

タイプという言葉は命名規約第3版まではタイプ標本と呼ばれていたが、あまりに幅広い意味をもち曖昧な使われ方をしてきたため、第4版では少し整理されて言葉の定義がより厳密になっている。

タイプの説明をする前にすでに出てきている概念を表す言葉を一つだけ覚えておいてもらいたい。
それは、原記載である。
原記載とは、ある学名を提唱した際、その論文中で該当する担名タイプの(すなわち名義タクソン、さらに拡大解釈すればおそらく分類学的タクソンの)特徴的な形質を記述した文章のことをいう。
また、その論文のことを原記載論文という。

タイプという言葉は様々な言葉と結びついて使われるため、以下のように幅広い意味を持っているが、それぞれには固有の意味がある。

(1) タイプ化 Typification

名義タクソンは、担名タイプとそれによって定められる学名で固定された形質である。
このようにある形質を固定することをタイプ化と呼ぶ。
(2) 担名タイプ Name-bearing type
学名はこの担名タイプに指定された標本につけられた名前であって、分類学的にこの担名タイプを同一の分類学的タクソンであると思われるものに同じ学名を流用するのであった。
したがって、真に名前のついている虫は担名タイプの機能をもった標本だけであるということができるだろう。
(3) タイプシリーズ Type serieas
原記載で用いられた(参考にされた)標本のうち、著者が明らかにタイプではありませんよというように名言しなかった標本すべてを指す。一つしかない場合は、必然的にその標本が担名タイプとしての機能を持つが、複数あるときはそれぞれ以下のように呼ばれる。
(4) ホロタイプ Holotype
原記載において著書がタイプシリーズの中から一つだけ選択した標本のこと。
必ず1個の標本であることに注意(それが♂であろうが♀であろうが、大きかろうが小さかろうがとにかく1個の標本である)。
もし、タイプシリーズが1標本のときは必然的にこの標本がホロタイプに指定されたとみなされる。
そして、重要なことはこのホロタイプに担名タイプの機能があるということである。
(5) パラタイプ Paratype 
タイプシリーズが複数の標本であるとき、ホロタイプ以外の標本のこと。
したがって、パラタイプの数は(タイプシリーズの数)―1である。
パラタイプには担名タイプの機能がない。
学名には影響しないということである。
(6) シンタイプ Syntype
原記載において、著者が何らかの理由で(あるいは忘れただけかもしれないが)ホロタイプの指定をしなかった標本群は、それぞれが対等でありすべてシンタイプと呼ばれる。
シンタイプの場合は、これらすべての標本全部で1つの担名タイプとしての機能を持つ。
例えば、♂♀で形質の異なる虫の場合(クワガタなどはそうである)♂だけあるいは♀だけをホロタイプとして指定することに問題がある場合がある。そうした場合には♂♀含めてシンタイプに指定するほうがよいかもしれない。
(7) レクトタイプ Lectotype
(8) パラレクトタイプ Paralectotype
シンタイプは便利であるが、複数の標本がまとまって一つの担名タイプとして機能することは問題も生じうる。
すなわち、著者が同じ虫であると判断して同等に扱った標本の中に複数の種が含まれているということが分かった場合である。
この場合、もとの記載に用いられたシンタイプの中からただ一つだけを選んで担名タイプの機能を持たせ、他のシンタイプから担名タイプの機能を剥奪することが可能である。
こうして選ばれたシンタイプはレクトタイプと呼ばれるようになる。
残りの選ばれなかったシンタイプはパラレクトタイプになる。
(9) ネオタイプ Neotype
動物の命名法では次の2つの場合について選ばれし標本をネオタイプと呼ぶ。
(A) なんらかの理由で担名タイプが存在せず、担名タイプが必要となったとき指定された1個の標本。
(B) 担名タイプが存在しているにも関わらず、それが同定の用を成さないために指定された別の1個の標本。
(10) アロタイプ Allotype
アロタイプは命名規約では厳密な定義はなされていない。
ホロタイプと反対の性を持つ標本一つを指すときに用いることができる用語であるが、担名タイプとしての機能は当然のことながらもっていない。
(11) トポタイプ Topotype
アロタイプ同様、記載のときに記述的に用いられる用語で、意味としては担名タイプが採集された産地で採れた標本であり、担名機能は持っていない。
(12) タイプ産地 Type locality
担名タイプ機能をもつ標本が採れた産地のことをいう。シンタイプに異なる産地のものが複数含まれている場合はそれらすべてがタイプ産地となる。
シンタイプからレクトタイプが指定された場合は、これまでシンタイプで指定されていたタイプ産地は破棄されて、レクトタイプの産地のみをタイプ産地と呼ぶようになる。
 

 


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