学名のススメ(1)-2

ふじもり@えりー


名前を付けるという行為

ペットの犬や猫に名前をつける。
ポチ、シロ、アレクサンダー、フランソワーズ・・・(ようするに、なんでもよいのだ)。
しかし、これらの名前はあくまで愛称である。
馬主は自分の持ち馬に名前をつける。
トウカイテイオー、マチカネタンホイザー、マヤノトップガン・・・(年がばれるなあ)。
しかし、これの名前もあくまで愛称である。
これらが学名ではないことは誰でも分かるだろう。

個々の虫には固有の名前がある。
なるほど、誰もがそうだと頷くだろう。
上で述べたような愛称のことではない。
たとえば、オオクワガタと聞いて、大部分の人が思い浮かべる虫は・・・今あなたが頭に思い浮かべている、そうその黒い虫である。
自分がはじめて飼育したオオクワガタ、図鑑でみたオオクワガタ、今掌の上にあるオオクワガタ・・・。
野外に目を向ければ、日本にはいったい何匹生息しているか分からないが、それらはやはりオオクワガタと呼ばれている虫なのだ。
それらがみな同一の虫であるわけがない、だがなぜみんな「ああ、あれか」と思えるのだろうか?
これからわかることは、オオクワガタという名前はクワガタムシのうちのある集団を指しているということだ。
別の言い回しをすうるならば、オオクワガタはオオクワガタ以外の虫と境界線で区切られていることになる。
虫に限らず地球上の生物を分類(他と区別し)、名前をつけるというという行為のことを命名といい、名前の付け方のことを命名法という。
したがって、分類と命名は混同されるべきではない。
そして、何より

学名は分類学者の分類のための道具にすぎない。

生物に名前を付ける方法はさまざまであったが、現在行われている方法は、歴史的には、生物学者リンネが、その著書 "Systema Naturae(1758)" のなかで二語名法を採用したことにはじまる。
それ以来、生物に名前を付ける作業は現在にいたるまで連綿と続いている。
この作業は世界中で同時多発的に行われ、しかし、お互いが決まったルールの元に名前を付けなかったため混乱を引き起こすことになった。
自分勝手な命名をしてきた結果、何がなんだか
わからなくなってしまったのである。
あるひとは、オオクワガタのことをオオクワガタといい、別の人はニホンオオクロクワガタと呼んでいたらお互い話がかみあうわけがない。
そこで、動物の命名法を規定する国際的に認知されたルールづくりというものが必要になってきた。
詳細は省くが、この国際ルールの策定は紆余曲折を経て、その結果として生まれたのが国際動物命名規約 [ICZN4]である。
以後は、略して命名規約とか、規約という言葉を使う 。
この規約は現在第4版が最新であり、2000年1月1日に発効したもので、この小文もこれに基づいている。
植物や細菌には別に国際規約が存在する。
とりあえず我々に必要なのは昆虫なので、ここでは動物についてのルールだけを紹介する。

 

通俗名

あるクワガタは”オオクワガタ”と呼ばれている。
これは私たちが普段使っている日本語のカタカナという言語で記載されている、普通はookuwagataとローマ字では書かない。
でも発音するときはどちらも同じように聞こえるだろう。
普通、”オオクワガタ”は和名と呼ばれているし、実際そう呼んでいる。
これは日本に生息するある虫を呼ぶのに使う名前である。
オオクワガタにしてみたら迷惑な話かもしれない。
もしかしたら、彼らには固有の言語があるかもしれないし、固有の言語で自分たちは別の名前で呼び合ってるかもしれないのだ。
オマエらに”オオクワガタ”などといわれる筋合いはない!と怒っているかもしれない。
何がいいたいのかというと、

虫の名前は和名だろうがなんだろうが人間がつけた「仮のもの」に過ぎない

ということである。

さて、和名と学名はどう違うか?
実は和名は学名のひとつなのである。
和名は正式には通俗名と呼ばれる名称のひとつである。
オオクワガタは立派な学名である。
しかし、オオクワガタという通俗名は日本国内(あるいは日本語を理解する一部の周辺諸国)でしか通用しない。
日本語を理解しない外国人に”オオクワガタ”って叫んでみたところで、彼は「ハァ?なんのことかさっぱりワカリマセ〜ン」とお手上げポーズだろう。
逆に、同じ(と思われる)虫が異なる言語を用いる国にまたがって存在するときは、それぞれの虫に対してそれぞれの国において異なる通俗名が存在することになる。

 


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