2003年 駄ピドの旅

ふじもり@えりー(ピドニ屋)

 

2日目(7月27日) SM〜O山(常念山脈)

■ここは北アルプス常念山脈のはずれ、七倉の南にあるG岳登山道である。
G岳まで登ると帰り道で日が暮れる恐れがあるのでとりあえず行けるところまで行って13時になったら引き返すことにした。
当面の目標は途中にある2000m付近のO山と決めた。
もしsignataが採れるとしたらO山の標高までで採れるはずである。
登山口へは前の晩に入り、そこで車中泊。
比較的道が悪い(=楽しい)ためか,表銀座の隣だというのに、ここは登山者がほとんどいないという。
前日から登っていると思われる人の車も数台というのがそれを物語っている。
夜の冷え込みはきつく、車の中でもシュラフが必要であった。
他に数組の登山者が前の晩より野営していたが、7時過ぎには皆出発しおえていた。
それを見計らってのんびりと昨晩買っておいたピザを焼き、コーヒーを飲んでから8時に出発した。
このあと登ってくるひとはまずいないだろうし、下山者も午前中には出会わないだろうからネットが出せる。
1800m付近まで登ったときには気温も上がっているだろう。
紅葉の滝(1150m)まではポイントにならないので花があっても無視して標高をあげていく。

 ■紅葉の滝

■沢沿いのショウマにはP. masakii、P. oyamae、P. puziloi (?) などが見え隠れしている。
沢を巻いていくため、アップダウンのある道である。
3,4度川を横切ると紅葉の滝に出る。

 ■魚止めの滝

■さあ,ここからが本番だ。
次の魚止めの滝(1300m)までに花があれば普通種はたくさん採れそうだ。
環境としては島々谷に良く似ている。
案の定、ショウマがぼちぼち道沿いにあり、やはりP. masakiiなどが目に入る。
まだ標高が低いことを示している。
石灰岩が細かく砕かれた足元で崩れる砂状の道と浮き石の道はやっかいだ。
予想を外れて魚止めの滝まではこれといって花がない。
そのままさらに滝を巻いて登っていく。
途中まるでウォータースライダーのような沢を空中回廊が続いている。

 

 ■滑り降りたら楽しそうな激流

■最終水場(1500m)までたどりつくと、そこはオニシモツケの園であった。
しかし、ここは日当たりが良すぎる。
明るいところにいるピドニアたちは多数いるが、それでも大部分は蜂や蝿の類であった。
それでも掬っていると、数だけは採れた。
この山の90%のピドニアはこの最終水場で採ることになった。
葉陰にあるオニシモツケを掬うとP. ohbayashiiが採れた。
珍品というわけではないのだが、P. limbaticollisは近畿では得がたい虫だし、立派な風格の虫だから個人的には結構気に入っている。
がっしりした体形に肩の垂れ下がり紋がある個体をネットの中で見つけるとうれしくなった。
思いのほかP. testaceaが入らないのが気になるが、P. oyahaeやP. insturata, P. grallatrixが沢山。
明るい場所のためP. takechiiと思しきmaculithorax 種群も多数いた。
ちなみに、ここのP. semiobscuraの♀は大型で幅があり、まるでP. limbaticollis hakusanaのようであった。
常念山脈においてP. hakusanaは欠落要素であると頭でわかっていても,もしかして?と思ってしまうほどP. semiobscuraらしくないものであった。
しかし、一向にP. l. hakusanaの♂は採れないし、腹部を見るとやっぱりP. semiobscuraなのである。
また、一見するとP. semiobsculaの♀はP. suzukiiの♂のようにも見えるので、一瞬心の中で喜ぶのであるが、前胸が張り出さないのと、♀であること気づいて、「な〜んだsemiobscuraか」と悪態をつくことになる。

 ■採集水場(1500m)。水を補給できるのは嬉しい。

■まだ標高が足りないのでP. suzukiiは採れるわけがないのだ。
一応駄ピドとわかっていても種を確認しながら毒ビンに入れているので気づいたのだが、P. himehana群が2匹採れた。
佐渡から記載されているヤマヒメハナの本土亜種にあたるホンドヤマヒメハナという未記載種に相当するか、あるいはまだ記載されていない別種と思われるhimehana系の種である。
それにもう1種、私には名前の付けられない紋様のピドニアが採れた。
これはP. maculithorax系にも見えるが、頭部とエリトラの比率からしてP. silvicolaあるいはP. himehana種群であり、胸が赤いのでP. silivicolaかと思ったがH紋があるのにLp紋が流れないのでP. silvicolaではない。
この個体はまるでP. mutataの♀のような紋様である。
P. silvicola/himehana種群はどうもよくわからない。
でも、さすがに3年ピドニアをやってると何かヘンだなという感覚が身についてくるように思う。
もちろん単なる勘違いということも多々あるので私の感覚はあまり当てにはならない。
ピドニアを採ってますと胸を張っていえるようになるにはまだまだ経験が足りないのだ。
このように有象無象のPidoniaがネットに入るが、やはりここは1500m程度であり、まだP. signataは見えない。
さて,ここからは斜度もきつくなり、明るい斜面のガレ場、そして暗い樹林帯の中を登る。
ここまでの標高における天気はまずまず。
しかし上を見るとガスが掛かっているので悪化することは自明である.

 
■こんなガエ場を登るのであった・・・

■明るいガレ場は足元から崩れるので登り難かったが、ショウマが咲き乱れており、クモマハナが1ex見えたのですかさずネットを出す。
針葉樹帯に入ると、思ったとおり花が無くなり、このままではPidoniaは簡単には採れそうも無い。
ベニバナイチゴやノウゴウイチゴすらない道で、標高をあげるにつれて周囲はだんだん背丈の高くなった笹に覆われるようになった。
O山山頂手前の急登りに入るところで7時に出発したカメラ片手の御仁を、1時間あとに出発し、虫採りをしていた私が追いついてしまった。
かなりへばっているようで、休みながら少し話しをしたがG岳の小屋まで登るつもりらしい。
これまでの登りで、このペースではG岳小屋まであと5時間はかかるだろう・・・天気のこともあるし日暮れまでに到達できるのかとちょっと心配になった。
O山についたのは12時を回っていた。

 
■O山山頂の針葉樹林

■O山といってもピークではなく急登りの尾根を登りきったところで、尾根筋を変えて登りが続くのであった。
お昼ごはんを食べているとガスが風とともに流れていった。
O山から見たG岳山頂方面は完全に厚いガスに覆われていた。
一方、下界は晴れているようで、陽光に輝く安曇野の平野が遠くに見える。
しかし、静かだ・・・ここは本当に常念山脈なのだろうか?
最終水場からここまでほとんど虫陰を見ていない。
もう一息ふんばって次の名前のないピークまで登ったところで、結局P. suzukiiもP. signataも見つけることはできず、時間もきたことだし引き返すことにした。
下りは時間をかけてゆっくりと下草や笹を見ながら降りることにした。
こういう虫の採れそうにない場所では私がまず目を向けるのは葉の上、そして蜘蛛の巣である。
天然のFITである蜘蛛の巣に掛かった虫はその場所にいる飛行性昆虫のよい指標となる。
1900m地点では右手に疎林の明るい斜面に笹が群生していた。
道端の笹の葉の上でmaculithorax系の虫が止まっていた。
そのうち、P. matsushitaiが止まっているのが目に入り、登りのときは気づかなかったが笹の葉上はよく探せば虫が見つかるものだと思った。
蜘蛛の巣にはP. matsushitaiと思われる死骸が見つかった。
もちろん大部分は蜂、蝿、アブ、蜘蛛の類だが、たまにベニボタルが止まっていたり、コメツキも多い。
ふと見ると、今度は寺地山で見たのと同じS紋の太いやつが止まっている。
また、P. signiferaか?と思いながらも毒ビンに入れる(この時点でもP. signataの♂?と思いながらもまだ確信していない)。
カーブを一つ曲がったところにももう1匹。
笹の背丈が高く、丁度私の目線上にあったので見つけやすかったのだろう。
1800m付近まで下ると笹が無くなり、ガスのせいもあって暗い樹林帯の道で下草もなく、虫を見つけるのは困難になった。
針葉樹林帯の密林の中では、夜間採集のごとく、ヘッドランプでもつけないととても目には入らないだろう。

■ずいずいと降りてきて、最終水場までたどり着いたが、オニシモツケにはまだ日が当たっている。
午前中よりは羽虫系が少ない一方、蛾が増えてきた。
花を良く見て午前中あまり数を稼いでいない種、とくにP. ohbayashiiを狙ってネットを繰り出す。
ここではP. ohbayashiiが15以上採れたが♂ばかりで♀が採れない。
そういえば昨年の島々谷でも大部分は♂だったのだ。
♀は花にはあまり来ないのだろうか?時期の問題か?
時間帯は午前も午後も同じ花を見ているので問題にはならないだろう。
♂がいるのだからどこか近くにいるはずなのだが・・・。
ふと、オニシモツケの花先に中型のヒメハナカミキリと思しき影が見えた。
ルリハナにしてはでかいし、モモグロハナにしては長いので、小型のフタコブかな?と期待しつつネットを出すと、それはチャイロヒメコブの♀であった。
「何だ、花粉も食べるんだ」と思いながらも花で採るのは珍しいと思ったのでしっかり毒ビンに入れる。
確かに、斜面にはカツラの大木が何本もあるのだが、斜度がきつくとても近寄れないのでパスしてきていた。
ここでの採集を終えるとあとは下るだけである。
ネットをしまって駆け足で下山する。
途中のショウマにはやっぱりP. masakiiがいたけど、無視。
午後4時に下山。
今回の登山は登り5時間、下り3時間の合計8時間であった。

■さあ,明日はどうしたものか.
どうもまだ梅雨は明けていないようだ.
携帯で天気図を確認し,山頂天気予報で明日はどうやら北アは雨らしい.
ここはひとつ,予定を変更して南アへ転戦することにしよう.


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