見えないの?歩く土産が
ぞろぞろとみんなの後について入国手続きへと向かう。入国審査のボックスは日本人専用と外国人専用とに別れていたが、外国人が少ないので先を争う人達はそちらの方へも流れ込む。既に日本人専用の長い列の後ろに並んでいた僕は、足を踏み出しそうになったが思い止まる。他人が行くから僕も行くというのでは、余りにも主体性に欠ける。「赤信号、みんなで渡れば恐くない!」と言うけれど、これほど恐ろしいものは無い。どんなに安全だと分かっていても、他人が信号無視したから僕も続きたくない。そのかわり、向こうから車が来ていても、自分が渡れると思ったら堂々と信号無視する。「ガンコ」なんてもんじゃない「イチギャーナ」だけである。
隣りに並んでいたアン・ノン姉ちゃんが呆れ顔で僕に言った。「あなた、土産買ってないの?」周りを見ればナポレオンだのジョニ黒だのと、腕が引きちぎれんばかりに重たい酒の入ったビニール袋を抱えた人ばかり。僕はと言えば、ウエストバックを腰に巻き、カメラの入ったデイパを背負って用のない手はGパンのポケットに。今更可愛子ぶったって誰が持ってやるもんか、このタコ婆ぁ!目の前の歩く土産が目に入らねぇーのか?
1階へ下りて土産が詰まった僕のトランクを引き取り、荷物検査へ。行く時同席だった澄まし顔のおばさんの後に続く。出来ることなら分けて貰いたい程の土産をカートに積み上げている。やっと僕の番が回ってきて、何も卑しい思いの無い僕は、無記入の申告カードを差し出す。係官は「申告するもの無いの?」「ハァア」「免税枠内の人は向こうだよ」知らなかった。免税範囲内の人はグリーンのランプのカウンターへ、免税オーバーの人はレッドのランプの所へ行くようになっていたとは。「ほんとに何も無い?」とニタッと少々鼻の下を伸ばして聞いてくる。「有りません」係官は一呼吸置いてから「ハイ、よろしい」今頃はお釈迦様でもシコシコやっているだろうか、仏教本の下に隠したエロ本を思い出した。
到着ロビーには迎えの人垣が出来ている。予期せぬ出迎えでもあるかと期待して顔を覗いてみたが、彼等の視線はあさっての方を向いていた。。テレビで見るような劇的な再会を夢みていたが、足早に前を通り過ぎた。
ゴーゴーとトランクを転がしながら空港バス乗場へ。一番端に大阪丸ビル行きのバスが止まっていた。トランクのバスの横腹に投げ入れて、後部座席に乗り込む。車内はほとんど日本人で、新婚さんらしい一組の香港人が僕の斜め前の席に座っていた。
滑走路のライトにシルエットで浮かびあがるジャンボ達が、翼を休める大きな鳥のように見えた。夜のエア・ポートがこんなにもロマンチックとは、今度デートに来ようかな。「それでも僕は絶対に信じないぞ、あんな大きな鉄の塊が空を飛ぶなんて!」
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