漂流者のように
みんな大きな土産を手に手に持って、出口へ向かう。この飛行機を出てしまったら、もうそこは日本、また「日常」の暮らしに戻ってゆくのだろう。僕が一番望むのは、安らぎのある平穏な「日常」という世界、そして僕が一番嫌うのもまた、何の変化も刺激も無い退屈な「日常」という世界。山にも「山を想えば人恋し、人を想えば山恋し」という言葉がるように、この矛盾は僕の旅の永遠のテーマであるような気もする。
これまで、歩き、バイク、自転車、カヌーといろいろな旅をしてきたけれど、僕の旅のスタイルはいつも同じだった。思い立ったが吉日、いい日旅立ちとばかりにふらっと一人で旅に出て、気の向くままに足をのばし、嫌になったらさっさと引き上げる。こんなふうに言えば、さぞ呑気そうに思えるが、そんなにいい事ばかりは続かない。道に迷って途方に暮れたこともある、故障に泣いたこともある、バテたことも風邪で寝込んだこともある。まっ暗闇に一人寝る寂しさも恐怖も知っている。それでも僕は旅に出る。旅のトラブルよりも、目の前に愛することがいっぱいあるのに素知らぬ顔をする自分と、流れ去る二度と戻らない時間の中で立ち止まってる自分が怖いから。
もっと本当のことを言えば、後継ぎの長男という自分に敷かれたレースから脱線してみたくて、家財道具一式バック・パックに詰めて「ボヘミアンごっこ」を楽しんでいるだけなのかも知れない。尻が痛くなったら、自転車をバックに詰めて汽車に乗って帰れるのも家族が待つ「家」という帰る場所があるからにほかならない。
飛行機の中でSWに葉書を頼めば、ただで1枚だけ送ってくれると本で読んでいた僕は、せめてその葉書を貰って帰ろうと、中程のブースに立っているSWに最後の英語とばかりに話しかける。「Excuse me. Please give me post card」最後まで手のかかる客だと思ったかどうかは知らないが、SWは笑顔でキャセイカラーのジャンボが写った絵葉書を10枚引き出しの中から取り出してくれた。「Than you. Bye-Bye」と僕も手を振りながら異次元の世界を後にした。
<<トップページへ>> <<もくじへ>> <<次の章へ>>