幕の内にはお茶が一番
食事の準備が始まった。今日の機内食は洋食と和食の選択のようだ。日本人が日本に帰るというのに洋食を注文しても恰好つかない。神戸肉の入った幕の内弁当に決ーめた。機内食の幕の内、いったいどんな弁当だろうかと期待していたが、駅弁に毛が生えたようなもの。余りにも「和」を強調するあまり、綺麗に飾り立てられてるだけで味はさっぱり。どれに箸を付けようかと迷ってしまう。これも洋食に慣らされた舌を持つ日本人の悲しい性なのかも。
賑やかな殿方達の食事風景を見た僕はゾッとした。SWに「○○のワインですよ」と言われればグラスを傾け「○○のブランデーは如何ですか」と勧められればグラスを傾けてもう片方の手には箸を持って幕の内を頬張っている。グルメとして世界から評価を受ける日本人の舌も、とうとうここまで来てしまったのだろうか?僕は「Please give me green tea」と澄ました顔でSWを呼び止めた。
余りにも淡泊な幕の内を胃の中に流し込み、ズーズーとお茶をすすりながらふと窓の外に目をやった僕はハッとした。鉛色した翼が紅に染まり、その向こうには茜雲が浮かんでいた。大晦日の北アルプス燕岳で、その寒気と感動に震えながら見たアーベント・ロートのドラマがまぶたに浮かんできた。長いようで短い一年が暮れるように、僕の旅も終わろうとしている。し〜んっと“旅の詩”が心に響き渡り、旅はクライマックスを迎えようとしていた。「翼よ、お前にも表情があったのか!」と無理やりおセンチになってしまった。
いよいよ飛行機は大阪空港に近付いて大きく旋回する。「翼よ、あれが伊丹の灯だ!」などと臭い台詞を呟きながら、着陸に備えるて足を踏ん張る。僕を迎えてくれた今夜の夜景は、夏に六甲から見た時よりもはるかに暖か味があった。
時計を修正し忘れていた僕は、1時間の時差に気づかず「もう着いたのか」と呆れていた。それでも予定時刻より少し早く、ゴンッと軽いショックを受けて無事着陸。日航機事故の後だけに思わず機内から拍手が沸き起こった。
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