誰しも気になる隣りのテーブル
空港に着いた僕等は、係員の後について搭乗手続きを始める。まずはトランクと溢れる土産袋をカートに積んでキャセイの荷物カウンターに。封印のシールがトランクに貼られてベルトコンベヤーに乗って消えていった。土産に買ったレコードだけが心配だった僕は荷物が無事日本に着くことを祈った。
フライトまでの待ち時間を利用して二階のレストランで昼食をとる。係員の案内で、アン・ノン姉ちゃん二人と家族連れと僕とで大きなテーブルを囲んだ。僕はチキンの入ったちゃんぽん麺を注文した。アン・ノン姉ちゃん達はショッピングを楽しみ、家族連れの旦那様は日本チームが出場したサッカーの試合を観戦した話に華が咲いている。熱狂的なサッカーファンらしいその旦那様は、来年韓国で開かれるアジア大会へも観戦に行くつもりだと熱い口調で僕に語りかけてくる。その隣では奥さんが、まだ幼い二人の子供のよだれを拭うのに追われている。僕は、南アルプスの塩見岳で出会った親子を思い出していた。小学2年生くらいの息子を連れて来たお父さんは、遥か彼方に見える北岳を指差して「お前がもっと大きく成ったら、あの尾根を歩いて北岳まで行こう」と息子に言い聞かせていた。その子は無言でうなずき、一際そびえ立つ北岳をじっと見つめていた。傍らでみていた僕は、いい親子だなぁ、そして僕も息子に「父さん」と呼ばれるように成りたいと思ったものだった。しかし、ヤクルトを一つ僕にくれた代わりに「済みません、タバコを一本貰えませんか」ときた途端に、そのイメージは吹き飛んでしまった。
美味しくちゃんぽん麺を食べていると、メニューを決めかねたドップリ太った外人さんがやって来て、僕のどんぶりを指差して「What’s this?」と大きな声で聞いてきた。「Chicken noodle. Very delicious」と親指を突き出して答えてあげると、そのおじさんはニコニコしながら同じ品をウェートレスに頼んでいた。これだけ堂々とやられたら、まったく厭味を感じない。
香港ドルを遣い果たしていた僕は、レート換算をウェートレスと問答しながら千円札を出して$2. 50のお釣りをもらった。アン・ノン姉ちゃん達は、そんな僕を呆れ顔で見ていたが、僕は二人を無視して勘定を済ませた。
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