旅の空から
1985. 9. 25
最終日の朝は、雨垂れの音で、目を覚ました。窓の外は鉛色の雲が低く垂れ込め、霧雨が強い風で窓に叩きつけられていた。
今日は忙しくなりそう。飛行機の出発は午後3時過ぎだけど、ツアーの集合が午前10時になっているらしい。実は、この情報を耳にしたのは、昨日の朝、食堂でばったり会った親子連れの人からだった。もし、会っていなければ僕はどうなっていたのだろう。一人香港に置いてきぼりにされる運目にあったのかも知れない。あー恐ろしい!
軽く朝食を済ませて、まずは葉書を書く。早く出そうと思っていたが、結局最終日になってしまった。人間の僕の方が早く日本に着くだろうが、エア・メールというものを旅の空から送ってみたかった。時間の関係と伝えたい出来事が有りすぎて「香港は最高。是非お出で!」と殴り書き。
書き上がった葉書を持って郵便局を捜しに出掛ける。ホテルのフロントにもポスト・オフィスはあるだろうが、僕は街の郵便局から出したかった。シェラトン・ホテルの裏手に郵便局を見つけて飛び込んだ。沢山の観光局や地元の人達が長い列を作って並んでいる。大きな小包を抱えた人、僕と同じように絵はがきの束を持ってる人、誰もが遠く離れた人に伝えたい思いを胸に、ここに集まっているのだろう。「高度情報化社会」と呼ばれる今日、確かに情報伝達手段は発達して便利になったけど、自分の気持ちを誰かに伝えたいという人の内なる思いは変わらない。そして、その思い無くして情報は何も伝わらない。だからこそ、感動的な日々を送りたいし、いつか僕の思いを受けとめてくれるだろう誰かに向けてメッセージを放ち続けていたい。
壁際のカウンターに置いてあった「PAR AVION」と書かれた青いシールを葉書にペタペタ貼って、僕も列の後ろに並ぶ。初体験なので、これで受け付けて貰えるかどうか不安で堪らない。やっと順番が回ってきたので、前の人達がやっていたように黙って6枚の葉書を差し出した。「JAPAN?」と係りの人が確認するので「Yes」と答えたら、切手を貼ると同時に計算して「$7. 80」と言われた。1枚たったの$1. 30で日本に葉書が出せるなんて、驚き桃の木山椒の木!これで郵便試験も無事合格。
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