『香港音楽事情』

 腹も膨れたので、また夜店で賑わう通りを香ブラする。Tシャツ・Yシャツ・ソックス・Gパン・スラックス・ベルト・ブルゾン・背広・防止・ハンカチ等々、衣類の店がづら〜っと並んでいる。中でも、女性の下着を売っている店が一番華やかで、僕の目を釘づけに。ブラ・スリップ・ガードル・ボディースーツ等々、ピンク・ベージュ・淡いブルー・レモン・ホワイトと色もカラフルなら柄・刺繍も豊富。照明効果と相まってそこだけ別世界のように輝いて見えた。つい、手に取ってみたいような焦燥に駆られる。欲望と理性とが激しく火花を散らして大格闘。ハッと我に帰るとLucは人ごみの中に消えていた。
 Lucは、ブルーのストライプの入った白いYシャツが気に召したのか「nice color」を連発してはしゃいでいる。店のお兄さんも「どうだい、いかすだろう!」ってな感じでニコニコ顔。ところが、値段交渉でLucが「バーゲン・バーゲン」を連呼すると、一変して店のお兄さんは口をへの字に閉ざしてそれには耳を貸さない。そんなやりとりを延々と繰り返し、店のお兄さんが根負けしてLucに軍配が上がった。
 僕は街角のレコード屋さんを覗いてみる。レコードが安い。LPが$30〜$40。店のお姉さんに「Whois the popular singer among Japanese?」と聞けば、松田聖子・中森明莱〔納得!〕続いて、五輪真弓・西城秀樹[フ〜ン!〕ところが、最後に桜田淳子と来たのには〔ウッソ〜!〕と耳を疑った。(御免なさい、クック・クックと歌っていた頃は僕もファンでした)これが1985年9月現在の香港に於ける日本人歌手の人気ベスト5である。その他、谷村新司・中村雅俊・オフコースといったところも顔を並べていた。
 それではと「Who is the most populare in HongKong?」と聞くと、お姉さんは黙って1枚のLPを出してくれた。見慣れぬ漢字で題名も歌手名も読めないけど、レコードジャケットの彼女の写真に魅了されてしまった。目はパッチリで鼻筋が通って口はポッチャリ。ふくよかな顔立ちの中にどことなくかげりと言うか哀愁を漂わせる僕好み。それが『葉 情文』である。どんなジャンルでどんな曲か分からないが迷わず「We are the World」等と一緒に、レコード4枚ミュージックテープ3本を$230で買った。〔そのレコードにはテレビの主題歌が多く収めてあり、ニューミュージック系や“いかにも中国”という感じの曲で、聞く度に落馬洲で見たのどかな水郷地帯を思い出させてくれる“My favorit songs”〕
 さて、帰るに帰る道が分からない。ビルの谷間から見える香港島の夜景の方角に向かって歩いて行けば海岸通りに出るだろうと、トコトコ歩き出す。お山の大将、街で迷子になってたまるか!しかし、歩けど歩けど海は見えてこない。途中で聞いてみると、マカポロホテルは「very far」だと。諦めて$7.10払ってタクシーで帰る。
 Lucの部屋で軽くビ−ルを御馳!朝から一日じゅう歩き回ったので、酔いがまわって眠くなってきた。明日は11時に僕の方から電話することにして、部屋を出た。
 昨日と同じ海岸通りを帰るのは芸が無いので、今夜はビルの谷間を通ってみる。香港に来る前、友達は「何しに行くんにゃぁ、ええことして来るんじゃろう」とニタニタしながら僕をひやかしてたが、果たしてどうなんだろう?多少、いや大いに興味のあるところ。それがこの旅の目的では無かったが、いつ何時そういう事態に遭遇してもと、心づもりだけはしていた。通りはネオンが美しい。ところどころ、ナイトタラブみたいな店があって地下に通じるる階段の璧にはヌードポスターも貼ってあり、呼び込みのアンチャンも店の前に立っていたが、僕には声が掛からない。無視されるとは、何につけても寂しい!やはり「虎穴に入らずんば孤児を得ず」と言うことか?
 途中のレコード屋さんで、また「ワイン・ライト」$40と絵はがき3枚$1.50を買う。その続きではビニ本も売っていたが、そこでも声を掛けられなかった。
 暗いビルの角をまわると人だかりが目に人った。みんな何を見ているのだろう。みんなの視線の先では、どうでも映画の撮影をしているようである。ライトに照らされた階段を数人の若い男が駆け上がって行く。それをカメラが追う。こんな夜中にどんな映画なんだろう?もしかして、エキストラで使ってもらえないかな?しかし、そんな気配も無いのでホテルヘ帰る。

 今日も一日大収穫。「明日は明日の風が吹くだろう」
                  Good night AM1:00


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