陽はすでに地平線、いや山の向うに沈んで薄暗い。水郷に映った夕陽、最高でした。
香港人の彼は水曜日の晩、家でバーベキューパーティーをするから、是非遊びに来いと言う。さあ、大変な事に成りそうですよ。ハプニング、ハプニング!見知らぬ旅先で初めて会った人からパーティーに招待されるなんて。香港の人々の生の生活に触れることが出来るなんて。僕の旅であってそうでないような気がした。誰かの旅行記を羨ましくむさぼり読んでいるような、それほどのショックだった。“旅はその人自身のパーソナリティーの反映”と言うけれど、僕にもそれほどの一面があったのだろうかと、つい疑ったり、自惚れたり。それでも不安が一つも無い訳ではなかった。僕の会話力でパーティーを楽しく盛り上げることが出来るだろうか、一人だけ浮いて仕舞わないだろうかと、些細なことにいや、僕にとっては真剣な問題と闘っていた。
彼の家は九広鉄道の沿線で比較的近いらしい。パーティーは午後6時から始める等と具体的に話が進んで行く。彼が最後にもう一度出席の確認をした時、僕の口から「OK」という返事が出なかった。頭の中で、今日は9月23日月曜日、明日は24日火曜日、明後日が25日水曜日。アャーッ!水曜日は香港を発つ日だったんだ。あー残念!曜日を勘違いして喜びはしゃいでた自分のなんと惨めなことか。こういう時、旅を一日延ばすだけの心の余裕と旅の自由があれば良いのだが、なにせ初めての海外一人旅、パックツアラーがそんな気の利いた術を持ち合わせる訳もなく、メンデルスゾーンの“真夏の夜の夢”ならぬ“単なる勘違い”に終わってしまった。そんなにいい事が僕に起こる筈もなく、これが僕の旅なんだと諦める。まぁ僕らしくていいか!と旅は一喜一憂の連続也。
Lucは土曜日まで香港にいるので行けるからと、日暮れて良く見えないのに、手帳に住所、名前、電話番号を交換して、火曜の晩にLucが電話することにして別れた。それにしても、僕等と話した2時間近くもの間、彼女を一人っきりでほおっておく彼も最低の奴に違いない。せっかく彼とデートに来て、一人ぼっちで淋しくタ暮の彼方を見つめていた彼女を思うと、ナイーブでおせっかいで親切の安売りをする僕としては、少々心が痛んだ。“小さな親切大きな下心”それにしても可愛いかったなぁ−、彼女は。なにはともあれ国境の地、落馬洲で日・豪・香の小さな友好が芽生えたことは確かである。『一人から広げよう民間外交の輪』
下のポリスボックスまで戻り、お巡査さんにタクシーを呼んで貰う。3分位でタクシーは来てくれた。お巡査さんに「Thank you」と窓から手を振りながら落馬洲を後にした。辺りはすっかり夜の帳が降りて、虫の鳴き声だけが賑やかである。タクシーに揺られながら一人思った、こうして見知らぬホテルからも遠く離れた地で、日が暮れても遊んでいられるのは、隣に居るLucが居てこそだとつくづく感じた。僕一人では到底出来っこない。日が暮れたらホテルの部屋に一人籠もるか、ホテルが見える範囲をウロウロするのが関の山だろう。だからこそ、人との出会いを大切にしなければと。
タクシーの基本料金$3.30。流石に田舎なのか夕クシーも安い。$11.70で上水駅着。あいかわらず、美味しそうな焼きそば等を裸電球の下でおばさん達が売っている。芳ばしい匂いが漂い、急に腹が減ってきた。“僕のバーベキュー何処へ行ったんだ−!”帰りの切符、もう任せなさい。完ぺき!