『バベリズム』 = 言語的意志疎通不能

 入口の所にカードが3種類あったので、それらしいピンクのカードに20US$とサインして自分の順番を待つ。香港の銀行は窓口の手前にロープを張った待合の粋があり、お客さんは一列にそこに並んで自分の順番を待つ。そして空いた窓口ヘ静かに進む。日本のように「○○さ〜ん」などと下品な声は飛び交わない。いたって静粛、いたって気品高い。
 さー僕の番。トラベラーズチェックを見せて「OK?」と伺えば「ウン」とうなずくので裏に名前をサインして渡すと、「Do you have passport?」「No」「IDcard?」「No」やばいぜ、やばいぜ!急に汗が噴き出して来て、首すじの辺りを流れ始めた。
 行員はけげんそうな顔をしてる。あ一参った。やっぱりパスポートが必要だったのか。トラベラーズチェックを諦めて、20US$紙幣を出して「OK?」と聞くとうなずくので、仕方がないこれに決−めた。すると、トラペチーズチェックを引き寄せて一枚切り離し「20US$もか?」と目で訴えるので「ウン」とうなずけば、何やら勘定し始めてくれだした。いったいどうなってんの?事は前に向いて進み始めたが、脇の下を冷たい汗が流れる。他の行員も居る、僕の後ろで並んでる人も居る。周りを見る余裕などある訳もなく、流れる汗を恨みつつカウンターの一点を見つめていた。すると突然、「Where do you stay?」と来た。戸惑いながら「New World Hotel」これで良かったのか、311.20HK$出してくれた。そして、そのレートか手数料か7.8と書いたサインを見せて、僕の表情を伺う。もうそんなこと、どうでもよかった。一応納得したふりして「ウン」とうなづいたが、頭の中はチンプンカン!冷汗・脂汗のやりとりに早く終始符を打ちたいばかりに、金もろくに確認せずに現行を飛び出した。フッ〜!と大きく深呼吸。手に持つハンカチが汗でずっしり重たく感じた。
 さて、気を取り直してビルの角を曲がるとファーストフードのお店があった。ジュースか欲しい!唾も出ないほど喉はカラカラ。しかし、二度も店の前をチョロチョロして横目でチラリと店のシステムを偵察してやっと足を踏み入れた。Tce d lemon kokeを注文する。2.50$のところを3$出して券を貰ったところまでは良かったが、さっきの動揺が尾を引いて、お釣りを取り忘れる始末。『しっかりするんだ高成!』
 グイッと飲み干して、タバコに火を付けるとやっと落ち着いてきた。銀行でのやり取りを手帳にメモしていく内に、異郷で味わう凄まじいまでの孤絶感が蘇り、顔が火照ってまた汗が出てきた。2.50$のコーラで1時間以上ねばる。コーラの氷が溶けてはジュルジュルと。それにしても、いずこのギャルも賑やかあでやか参ります。


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