2001年9月2日(日)

エノテカJ・P・ムエックス試飲会
久しぶりにエノテカの試飲会に参加。 この日は垂直試飲ではなくて、ムエックス社の作るさまざまな銘柄の試飲だった。一見地味めな今回のイベントだけど、私の目的は二つ。ひとつ、、ボルドーで「同一の作り手による産地違い」をじっくり味わってみたかったこと、もうひとつは未だ私にとってミステリアスなワインであるペトリュスの真価を確かめることだ。

銘柄 ポムロール99
感想 クリスチャン・ムエックス氏自らがエノテカのために特別にセレクトした銘柄とか。
エッジに紫がかった、濃いめのガーネット。 杉の木、ハーブ、フレッシュなブルーベリーヤカシス。 味わいはなめらかでオイリー。果実味は甘く、酸はやや大人めで、タンニンはしなやであり、チャーミングによくまとまっている。これで2000円台の価格なら納得感がある。【81】
銘柄 Ch.オザンナ99
感想 ムエックス社が先年購入した、Ch.セルタン・ジローの畑のうち、最良の部分から造られた新ブランド。
エッジに紫がかった濃いルビー。 フレッシュなブルーベリーやカシスをシロップに漬けたような果実香。非常になめらかであっけないほどスルリとしたアタックのあと、中間部にじわじわと厚みが広がり、酸も後半にかけて存在感が出てくる。フィニッシュにビターチョコっぽいタンニンが感じられる。 現時点ではまだ早いが、素性のよさが光るワイン。【86】
銘柄 Ch.ラ・コンセイヤント97
感想 エッジにピンクがかった濃いめのガーネット。カシスやダークチェリーのコンフィ、プラム、甘草、八角などのスパイス、土。香りの華やかさでは今日一番。味わいはやわらかくなめらかな果実味のアタック。酸はしなやかでタンニンもなめらかにとけこんでおり、「剛より柔」とでもいうべきまとまりのよさを見せる。素直に美味しいといえる味わい。97年と言うビンテージの特徴がこの銘柄にはあっているのかもしれない。【89】
銘柄 Ch.ベレール
89 エッジのオレンジ色へのグラデーションが美しいガーネットで、色調は濃いめ。 カシスやブルーベリーのリキュール、プラム、干し草、各種のスパイス。 味わいはやわらかくチャーミングな果実味のアタック。タンニンはよく溶け込んで、かなり熟成が進んでいる印象がある。果実味を中心によくバランスされているが、やや水っぽいというか濃縮感に乏しい面は否定できないかも。【85】
96 エッジにかすかにオレンジの見える濃いめのガーネット。朽ちた木や、丁子、昆虫のような香り。味わいはやわらかく厚みのある果実味の第一印象。タンニンはとけこんでいて、酸もやわらかい。豊かな果実味を中心に中庸を得た構成。コストパフォーマンス良好。【86】
銘柄 Ch.ラフルール・ペトリュス96
感想 エッジにピンクがかった濃いめのガーネット。 プラムやオレンジピールなどのピュアな果実香が中心で、土っぽい香りやスパイシーな要素があまり感じられないところが面白い。味わいはなめらかで甘い果実味の第一印象。酸はしやなかでややフィニッシュに顔を出すが、調和を乱すほどではない。タンニンもシルキーで、大きさや力強さを望むと肩透かしを食らうが、やわらかくバランスのとれた品格のある上がりが素敵だ。【88】
銘柄 ドミナス
91 エッジにややオレンジがかった濃いガーネット。 プラムやカシスのシロップ漬け、中国のスパイス、コーヒー、スーボワ。 味わいは厚みのある果実味の第一印象。それを酸がバランスよく支えていて、タンニンはよく溶け込んで調和のとれたフィニッシュと長い余韻を見せる。今大変良い状態になっている。【90】
94 エッジにまだピンクの残る濃いガーネット。プラム、カシスなどの果実に、丁子などのスパイスやスモーキーなニュアンスが混ざる。 味わいは果実味に濃縮感があり、酸はなめらかだが、タンニンがややフィニッシュに残る。しっかりした果実味中心の凝縮感のあるワインで、91に比べるとややソリッドな印象がるが、それは時間が解決するかもしれない。以前名だたるカリフォルニアのカルトワインと並べて飲んだとき、ドミナスだけは独特なフレーバーで、「あれ?」っと思ったものだが、こうして、並べて飲んでみると、明らかにムエックスのワインなんだなあ、と再認識させられた。【88】
銘柄 Ch.ペトリュス
89 エッジにオレンジがみえる濃いガーネット。テイスティンググラスでは役不足だと言わんばかりの密度感のある香りは、プラム、カシスやダークベリーのリキュール、プラム、バラの花束、ファンデーション、時間をおくと、やや干し草っぽい香りも。外に向かって、パーッと発散するような勢いはないのだけど、香りの粒子というものがあるとすれば、その細やかさが、他のワインとは1ランク、いや2ランクぐらい違う。 味わいはなめらかでウルトラスムーズな果実味の第一印象。中盤の広がりは力まかせなものではなく、むしろ静謐さすら感じるような縦への伸びがある。酸やタンニンはスムーズすぎて、自らの存在感を感じさせないほどで、なんというか、牛乳でも飲んでいるかのように抵抗なくのど元を通り過ぎる。時間をおくと、口中での粘性が広がり、力強さを増すが、それでも決して味わい全体が重々しくならないところは特筆すべきものだ。
【93】
95 エッジにややピンクが見える濃いガーネット。シロップ漬けにしたブラックベリー、エスプレッソ、甘草、丁子、ビターチョコ、焼き栗。現時点ではローストされた要素がかなり支配的な印象。味わいはなめらかで品のある甘味をともなった果実味の第一印象。酸はしなやかで繊細であり、タンニンの緻密さは比類ない。とかく濃縮感の強い最近のワインたちの中にあっては決してパワフルでないし、圧倒されるような要素もないのだが、なにより各要素の精緻さが見事で、飲んでいて居住まいを正したくなるような、そんなバランス感と品位が見事。やはりペトリュスは只者ではないと思う一方、こちらが五感を集中していないと、その他大勢のワインの中に埋もれてしまいそうな、そんな飲み手を試すようなところがある印象を受けた。
【92】
88

エッジにオレンジの見える濃いガーネット。非常に密度感のある、ダークベリーやカシスのシロップ漬け、やや乾いたスパイスやしっくいの壁のような香り、それにネットリした黒土の香りなどの奥に、かすかにジビエっぽいニュアンスもある。 繰り返しになるけれど、香りの粒子の細やかさや連続性が別格の印象がある。味わいは、なめらかで粘性のある果実味のアタックのあと、中間部には上品な縦への広がりがあって、最後まで調和を乱さない点はさすが。しかし、上の2ビンテージに比べると、フィニッシュにややネットリしたタンニンが残る印象がある
【90】

さて、今回の試飲を通じて思ったことは、J・P・ムエックス社のワイン作りの哲学というべきものが、どのワインにも見事に反映されているなあ、ということだ。決して、当世流行の濃さ、パワフルさ志向におぼれず、精妙なバランスと品格を追求する姿勢は首尾一貫したものであり、たとえばごく安価なポムロールにも、「ムエックスらしさ」がよく出ているように思われたし、産地を全く異にするドミナスも、まごうことなきムエックスファミリーの一員だと納得させられるものがあった。そして、コンセイヤントやラフルールペトリュスを突き詰めていった延長線上にはペトリュスが君臨するという、歴然としたヒエラルキーの存在も。
ペトリュスについては、実は、試飲の最中はなかなか開いてくれなかったこともあって、ご一緒したY君とも「ペトリュスって難しいねえ。」なんて話していた。しかし、ひと通り全銘柄の試飲が終わってみると、改めてその圧倒的な木目の細かさ、バランスの精妙さには畏敬の念を抱かざるをえない思いだった。 もっとも、せいぜいテイスティンググラス半杯程度の量では、その全貌はつかめようはずもなく、いつかはリーデルのグラスにたっぷり飲んでみたいと思って帰途についた私であった。