超不定期更新コラム

春宵・渾身・かもしだ邸

このところ、週末土日のうちどちらかはワイン会、という生活パターンがすっかり定着している。週末の会でつい酒量を飲みすぎてしまうので、月曜火曜は原則として禁酒。残りの水曜〜金曜で1本か2本というペースだと、家のワインがなかなか減らず、おかげで最近はめっきりデイリーワインを買わなくなってしまった。

そんな毎週末のワイン会の中でも、ここ2ヶ月ほどのワイン会はとくにスゴイものだった。「青葉台ワイン倶楽部」や「フルール・ド・プリムール」のワイン会は定例のことなので、ここではあえて触れないけど、表題に挙げた3つの会を、少し間を置いた今、もう一度振り返ってみたい。

「春宵ワイン会」
よもぎねこさんのストックの中から、彼女自身思い出深いという86の1級ワイン3本をメインに行われた放出会。
この会では私の想像を大きく上回った事柄が二つある。
ひとつは、ドーヴネイの「オークセイ・デュレス」のすばらしさ。
もうひとつは会場になった 渋谷のフランス料理店「アテスエ」の料理。

オークセイは、ドメーヌ・ドーヴネイの中ではもっとも低価格なラインであるし、AOCのポテンシャルもあり、実のところあまり期待していなかった。ところが飲んでみると、その後に飲んだコルトン・シャルルマーニュを脅かすほどの完成度。ドーヴネイって市場にはほとんどないに等しいような状況だけど、捜し求めるだけの価値があると痛感させられた。

ただ、ちょっと反省の弁を述べさせていただくならば、今回のドーヴネイに関しては、若干はしゃぎすぎたことは認めねばならない。ご一緒した方々はみなその後のコルトン・シャルルマーニュをより高く評価していたようだし、ファーストインパクトが去った今、私自身ももう一度この2銘柄を出されたら、今度はボノー・デュ・マルトレの方に高得点を与えるかもしれない。
もっとも、そいういう私自身、この会のあと、勢いあまって、90×2本、97×2本を買い込んでしまったのだけど。

渋谷の「アテスエ」はワイン会にはよく登場するレストランだけど、私は一度もお邪魔したことはなかった。それで、 ワインを持ち込みやすいとか、使い勝手が良いというだけの店なのだろうと、なんとなくネガティブな想像をしていた。ところがそれは大きな間違いであった。出される料理の数々のなんと創造的で魅力的だったことか。店の方々のサービスもすばらしく、個人的にもまた来たいと思わせる店であった。

メインの86ビンテージ3本についてはどうか。これらはどれも以前に飲んだことのあるものだったので、心の準備ができていた分、ドーヴネイよりは冷静に味わうことができた。
86年という年は、タニックで長熟タイプ、木質的なフレーバーが支配する官能的というよりはシリアスなワイン、という印象を私は持っているのだけど、マルゴーとラフィットについては、まさにそうしたビンテージの特性がよく出たワインだと思った。
ところがムートンだけは別で、このワインはまるで新世界の凝縮したモンスターワインの姿がダブるようなところがある。好き嫌いはあると思うけど、この並外れた凝縮感、しかも15年を経て未だリリース直後のような若々しさを保っている点など、80年代の一連のボルドーの中では一種、異端児的なワインではなかろうか。

■Shinさん宅ワイン会
さて次は、GWのさなか4月29日に、Shinさん宅で開催された「渾身のワイン会」、別名なぜか「恥ずかしいワイン会」。

Shinさんといえば、幸運にも私は昨年すさまじいばかりのワイン会 にお招きいただいたが、今回のワイン会もその時のものに負けず劣らずすごかった。
参加者それぞれにゆかりのあるワインがブラインドで出てくるのだけど、まあブラインドという趣向自体はご愛嬌で、ラフィット96、シャプティエの91コートロティ・ラ・モルドレ、ムートン82というRP100点ワインたちが次々と出されて思わず言葉を失ってしまった。
恐れ多くも私の家内用に出していただいた85ルパンのすばらしさはあんまり繰り返すとイヤミになりそうだけども、他にすごかったのが、DRCの90エシュゾーと、世田谷太郎さんがお持ちくださった、「デビッド・アーサー・エレベーション1147」

DRCの90を飲んだのはもちろん初めてなんだけど、エシュゾーにしてあれだけの完成度とは恐れ入った。DRCを飲むときは、金銭的制約から上位銘柄のバッドビンテージものになりがちだったんだけど、これからは逆に良いビンテージのエシュゾーにも目を向けようと思った次第。

デビッド・アーサーは何の予備知識もなしに飲んだが、これもまたスゴイワインだ。その凝縮感たるや、まるでポートワイン。過去に私が飲んだ中で、これに匹敵しうる凝縮度を持ったものは、前述のShinさんのワイン会でご馳走になったマヤとコルギンぐらいなものだろう。

かもしださん宅ワイン会
この会はもともとは、GWにかもしださんご夫妻と我々とでこじんまりとやろうと言っていたもの。ワインも特に気張らずに気軽に、ということなので、私自身も大したワインを持参しなかったのだが、結果的には主のかもしださんに大盤振る舞いしていただくことになり、恐縮の至りだった。

90マルゴーと85オーブリオンはともに状態がすばらしく、どちらもまだまだ開けるのはもったいなかったかな、とさえ思わせるコンディション。ボルドー好きなら感涙にむせぶほどの味わい。
85オーブリオンは蔵出しをデパートのセールで購入、90マルゴーは品質管理に定評のある平野弥さんで購入とのことだが、やはり信頼できるルートで入手した状態の良いワインというのは、一味違うなあ、と思わずにはいられなかった。
それ以外にスゴかったのは、なんといっても、クニープハウゼンの76ベーレンアウスレーゼ。麦茶のような濃い色合い、枯れてきているがまだまだ甘く、また枯れてきているがゆえのサラリとした触感。年月を経たワインにしか出せない崇高な甘味にしばしウットリ。

もうひとつ、意外な驚きだったのが、Andyさん持参のコロンビアクレスト・リザーブ。90マルゴーという怪物のあとに飲んだこの19ドルのワインは、
「マルゴーでなくてもこれでも充分じゃん!」
と思わせてくれる完成度で、なんだか複雑な心境にさせられた。
さすがに何杯も飲むと飽きてくるのはこのクラスの限界だろうけど、 それでも、この銘柄のコストパフォーマンスの高さは驚異的だ。日本には輸入されていないようだけれども、入手できるようなら、ぜひデイリー用に購入したい。

ということで、この3つの会では、最近ブルゴーニュに傾倒している私としては久しぶりに、ボルドーの偉大なワインたちに感銘を受け、なんだか初心に戻ったような気分になった。次回はこの続きとして、この会で飲んだボルドーのことを中心に書いてみたい。