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2014.06.22. 掲載
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目次
1.はじめに
2.症状は腕の痺れから始まった
3.どのような病気だろうか?
4.治療法と自然経過はどうなのか?
5.この病気のメカニズムをまとめた
6.付随して起きている症状のメカニズムを考えた
7.この病気にどう対応するか
8.まとめ
昨年(2013年)の総括に書いたが、老化は確実に進行している。視力の低下には白内障手術、聴力の低下には補聴器を装着、記憶力低下には、パソコンの活用のほか、いろいろ工夫をしている。
2ヶ月前から、右腕がしびれて痛むようになった。肩も首も凝り、だる痛い。オマケの人生を7年もいただいているのだから、文句の言える筋合いではないのだが、苦痛である。
9年前に現役を退いたが、医師の資格は持っている。この苦痛の原因と対策を自分なりに調べ、考え、実行してきた。それをまとめて、このサイトに記録として残して置くことにした。
今年の4月、白内障手術を受ける3日前(4/4)から、クラビットの点眼を行う際に、首を後屈すると右腕がしびれることを経験した。それは少しずつ進行し、腕の痛み、肩や首の痛みや凝りが加わってきた。それまでは首を後屈するような動作をする機会がなかったので気付かなかったのだろう。 症状は日によって変動するが、一番激しいときには、右腕にしびれと耐えられないほどの電撃痛が走る(図1)。また、たえず、肩や首がダル痛く、凝った感じが持続する(図2)。
この症状は、首を後屈すると現れ、後屈の角度を増すと増強する(図3)。腕のしびれや痛みの出る側(右)に傾けると、後屈の場合ほどではないが、腕のしびれや痛みが現れ、角度を増すと症状は増強する(図4)。他人の手でこれが行われた場合、それぞれ「ジャクソン検査」「スパークリング検査」と呼ばれる。
医者が病気を診断する場合、その病気に特徴的な症状やデータに的を絞って、いくつかの考えられる病気をリストアップして、その中から不適当なものを除外していくという診断方法をとる。これを鑑別診断(differential diagnosis)と呼ぶ。
「病気に特徴的な」ということを、疾病特徴的(pathognomonic)と呼ぶが、これは臨床医が迅速に診断を確定するために有用なデータ把握法である。
今回の私の病気を診断するにあたって、疾病特徴的症状として「首を後屈すると片側の腕にしびれと痛みが生じる」をとりあげた。この症状のある病気として知られているのは「頚椎症性神経根症」と「頚椎椎間板ヘルニア」である。
「頚椎椎間板ヘルニア」は40〜50歳代に好発し、それ以上の年代になると、髄核が飛び出る圧力も低下するため、椎間板ヘルニアは少なくなり、それに代わって、椎間板がつぶれて椎骨が骨棘などに変形する「頚椎症」が多くなる。78歳という私の年齢から「頚椎椎間板ヘルニア」が除外された。
星地 亜都司 自治医大整形外科准教授が執筆したMyMed 医療電子教科書の頚椎症性神経根症によれば、「単純X線写真で骨棘形成の所見がみられることは、無症状の場合にもよくある。MRIでも頚部神経根を精度よく描出できていないため、診断は症候学的なものとなる。すなわち、しびれの強い指があって、頚部の姿勢に依存する痛みであることで本症の診断となってしまうのが現実である。」と書かれている。
このように、X線検査やMRI検査が必ずしも頚椎症性神経根症の診断に役立つわけではない。今回、頚椎のX線検査やMRI検査を受けていないが、症状から私の病気は「頚椎症性神経根症」であると診断した。
日本整形外科学会サイトでは、「基本的には自然治癒する疾患です。症状が出ないように頚椎を後方へそらせないようにし、適切な方向への頚椎牽引や症状が強いときには消炎鎮痛薬の投薬などが行われます。治るまでには数か月以上かかることも少なくなく、激痛の時期が終われば気長に治療します。」と書かれている。
MyMed 医療電子教科書では、「保存的治療が第一選択肢であり、わが国で本症に対する手術治療が行われることは少ない。薬物治療として、非ステロイド系消炎鎮痛剤, ビタミンB12、筋弛緩剤、安定剤などが使用されている。
頚椎の伸展位(後屈位:あごをあげる恰好)が症状悪化や遷延化の原因となるため、その恰好を避けるよう十分注意してもらう。頚部のポジションに注意払って保存療法を行えば、疼痛が軽減する可能性が高い。
千葉大学 宮下智大氏ほかの論文によれば、「頚椎症性神経根症の多くは保存的治療により軽快する。手術療法により早期の症状改善が得られるが、長期的な成績は保存療法と差がないとする報告が多い。」と述べ、頚椎症性神経根症の自然経過の文献的考察を行っている(表1)。
これら3件の情報から、治療法は保存療法が主流で、時間はかかっても、自然治癒するか軽快する病気であることを知ることができた。嬉しい情報である。
病名が分かり、その治療法と自然経過から、緊急な対応が必要ではないことを知ったので、この頚椎症性神経根症という病気のメカニズム(病態)を調べることにした。
その前に首、肩、背、腕の解剖を理解しておく必要がある。学生時代の復習になるが、記憶に残っている知識は悲しいほど貧弱である。
脊椎は7個の頚椎と12個の胸椎、5個の腰椎と仙椎、尾椎からできている(図5)。頚椎は茶色の部分で、頭蓋骨と胸椎の間にあり、軽く後向きに彎曲している。
頚椎を左側から見ると図6のようになるが、これをさらに詳しく見ると図7のように区別できる。
図9のように、頚椎は7個であるが、頚髄は8個の分節があり、頚神経も8本ある。第1頚神経は後頭骨と第1頚椎の間から、第2頚神経から第8頚神経は、それぞれ一つ上の高位の頚椎の下(椎間孔)から出る。頚椎と頚髄には約1.5椎体のずれがある。
頚椎は、7個の脊椎から成り立っているが、上の2つと下の5つは形も大きさも大きく違い、機能や動きも大きく違う。1番上の骨は2番目の骨を軸にして石うすのように回転する構造をしている。
3番目以降の骨は、それぞれががっちりと重なって首を支えることに適した形をしているが、あまり動けない構造になっている。それぞれは、脊椎の前方部分が椎間板、後方部分が椎間関節で繋がっている。
椎間板は、ゴム状の円板でクッションの役割をし、上下の椎骨の前方部分である椎体と強く密着している。この椎間板の中央部は髄核と呼ばれ、ゼリー状で弾力性に富んでいる。髄核の周辺を線維輪が取り囲んでいる。
椎間板は加齢によって水分を失って薄くなり、弾力が低下して、つぶれて面積が広くなり、上下の椎骨が安定性を保とうとして棘が出るような変形をする。これを骨棘という。
脊椎の後方部分の椎間関節も軟骨が薄くなって隙間が狭くなり、修復するよに骨の変形が起きる。正常な頚椎では、第5〜6、第6〜7、ついで第4〜5頚椎間の動きが大きいため、これらの部位の変形がおこりやすい。
このような頚椎の変形は、年齢とともに強くなっていき、高齢になるとほとんどすべての人にみられるが、大部分の人には症状がない。この状態を「変形性頚椎症」あるいは「頚椎症」と呼ぶが、症状がなければ病気とまでは言えない。
しかし、骨棘の形成、関節の変形が、脊髄の通り道である脊柱管や、神経根の通り道である椎間孔を狭め、脊髄症や神経根症といわれる症状をおこすことがある。これは「頚椎症性脊髄症」「頚椎症性神経根症」という病気である。
頚椎症性神経根症のメカニズムは、椎骨の加齢変化により生じた骨棘が、神経根の通る椎間孔に突出して、椎間孔を狭くして神経根を圧迫することである(図16)。
頚椎症性神経根症の症状は、骨棘によって圧迫された神経根が刺激されて生じる。その内の知覚神経関係についてまとめた。
頚椎は7個の椎骨で構成されているが、頚髄は8個の髄節に分かれ、それぞれの髄節の左右の腹側(前側)から運動神経根が、背側(後側)から感覚神経根が末梢に出ている(図9 図11参照)。 図18で示された赤色の運動神経根(前根)と青色の感覚神経根(後根)は合わさって頚神経となる。
後根の刺激では神経痛様の刺すような激痛が支配領域に放散する。頚椎後屈や病変側へ側屈すると、肩から指先にかけてしびれと電撃痛が走る。
脊髄神経は皮膚感覚を支配している。脊髄はそれぞれ番号が付けられていて、何番の脊髄が皮膚のどこを支配しているか示したものをデルマトーム(dermatome)と呼ぶ。
頚椎症性神経根症で最も傷害を受けやすい第4から第8頚髄神経根に絞って皮膚感覚の分布を調べた。拇指のしびれや痛みはC6(第6頚神経根)の圧迫、示指と中指のしびれや痛みはC7(第7神経根)の圧迫、環指と小指のしびれや痛みはC8(第8神経根)の圧迫に対応している。
私の場合、右の拇指、示指、中指のしびれが強く、環指と小指にはしびれがないことから、C6(第6頚神経根)C7(第7神経根)が圧迫されていると推定できる。
神経根の前根の刺激では、筋に局所的な筋緊張が生じ、筋内の感覚神経を刺激するため、筋肉痛様の痛みが支配筋に生じる。この痛みは安静臥床によっても軽快せず、咳、排便時のいきみなど、脊柱管内圧を上昇させるような原因で増強する。また、頚椎後屈や病変側への側屈によって疼痛が誘発される。
ここで、頚神経に支配される筋肉を列挙する。( )内に支配神経を略号で表示した。例えば、C5は第5頚神経を表す。
感覚神経のデルマトームから、病変は右側のC6、C7の神経根にあると推定されたが、その支配下にある筋肉は、図27.前鋸筋(C5〜C7)から図45.方形回内筋(C7、C8) までの19の筋肉があり、筋肉痛が起きる筋肉は広範囲である。
なお、以上表示した首、胸、背、腕の25点の筋肉の画像は、PCソフト「解体演書 上肢の構造と運動」を使って作成した。
患側の手指や前腕のしびれ、肩から指先への放散痛、肩や背部の鈍痛やだるさなどは頚椎症性神経根症のメカニズムから理解できる。
しかし、派生的に生じる両側の肩こり、首のこり、患側の背部に何カ所かの圧痛点があり、そのいくつかを圧迫すると、首を後屈した時と同じように、肩から指先にかけてしびれと激痛が放散するとか、健側にも筋肉痛が生じ、その中にも、首を後屈した時と同じように、肩から指先にかけてしびれと激痛が放散する場所がある。
それらの症状が生じるメカニズムは「椎間孔での骨棘による神経根の圧迫」だけでは説明がつかない。この派生的、二次的症状も説明できるメカニズムを調べた。
そこで役立ったのが、「トリガーポイント」と「関連痛」という知識だった。内臓の関連痛は、急性虫垂炎のMcBurney、Lanz、の圧痛点や胃潰瘍・十二指腸潰瘍のBoas、小野寺の圧痛点、狭心症や心筋梗塞の胸の中央、左肩の痛みなどを知っている。しかし、筋肉痛について「トリガーポイント」と「関連痛」というメカニズムがあり、筋肉痛の多くはこの「トリガーポイント」が引き起こしていること知ったのは、今回の病気で得た大きな収穫だった。
今回学んだ「トリガーポイント」と「関連痛」を含めて、頚椎症性神経根症に関連する症状のメカニズムを図47にまとめた。人が感じる痛みのメカニズムは複雑で、これだけで説明できるわけではないが、大きくステップアップしたと考える。
骨棘が神経根を圧迫すると、感覚神経が刺激されて痛み、しびれを感じ、それが脊髄に伝わり、脳に伝わる。 脳に痛みの情報が伝わると、脳は脊髄を通して、交感神経を刺激し、血管を収縮させ、そのため血管の流れが悪くなる。
血管の流れが悪くなると、酸素や栄養が不足し、痛みを起こす物質が生じる。この物質が感覚神経を刺激する。ここに「痛みの悪循環」が成立する。
そのほか、骨棘が神経根を圧迫すると、運動神経が刺激されて筋肉が緊張する。筋肉が緊張すると血管が締め付けられ、血管の流れが悪くなる。
また、筋肉が緊張し収縮を続けると筋肉痛が起こる。筋肉痛が持続すると「索状硬結」が生成される。この「索状硬結」を圧迫すると強い痛みを感じるので「圧痛点」でもある。
この「索状硬結」=「圧痛点」の中で、圧迫を加えると周辺部まで強い痛みを感じさせる圧痛点がある。これを特に「トリガーポイント」と呼ぶ。また「トリガーポイント」を圧迫して生じる、周辺部まに及ぶ強い痛みを「関連痛」と呼ぶ。
トリガーポイントの識別基準
1.触診可能な筋肉の場合、そこに触診可能な索状硬結があること
2.索状硬結に鋭い痛みを感じる圧痛点(部位)があること
3.圧痛点を押した時に、周辺部分を含む現在の痛みは圧痛点から来ていると患者が感じること
4.痛みにより体の可動範囲に制限があること
この図48で、患側である右側に圧痛点とトリガーポイントがあるのは当然として、健側の左項部にトリガーポイントがある。それが理解できない。日により、時間により変動はあるが、このトリガーポイントを圧迫すると、右肩から指先にかけて電撃痛としびれが走る。首を後屈した時の症状とまったく同じ症状が起きる。
背面と比べて、正面には圧痛点はなく、トリガーポイントは2箇所だった。
Janet Graeme Travell と David Simons は「Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual」を著した。筋や筋膜などに生じるトリガーポイントが痛みをはじめとする、さまざまな症状を引き起こしているという内容で、筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome)の発表である。
この書籍を、トリガーポイントの最重要文献として、Amazonで購入してみると、VOLUME 1 だけで1038ページもある大著であるが、分かりやすい図譜が豊富で、それに助けられて少しは理解することができた。
ケネディー大統領は椎間板ヘルニアと診断され、ヘルニアに対する手術を受けたが、症状が改善せず、続いて脊椎固定手術をして更に症状が悪化。その後、Janet Graeme Travellが、椎間板ヘルニアは誤診で「Myofascial Pain and Dysfunction」であると診断し、Trigger Point治療を行って症状が大幅に改善、以来ケネディー大統領の主治医となったと聞く。
こちらは Clair Davies が著した筋肉痛診療の実用書で、日本語訳であるため、読みやすく分かりやすい。
YouTubeで、トリガーポイントをアニメで説明する動画を見つけたので紹介する。写真や文章では理解し難いところを動画は分かりやすく教えてくれる。作者はドイツ人で、2013年6月6日に公開された。
この病気の治療法と自然経過を調べた結果、治療法は保存療法が主流であり、時間はかかっても、自然治癒するか軽快する病気であることを知った。だから、その治療法は手術療法ではなく保存療法に決まってくる。しかし、その保存療法にはいろいろあって、エビデンスに乏しかったり、自己療法が困難なものであったりする。
宮下氏ほかの論文で「手術療法により早期の症状改善が得られるが、長期的な成績は保存療法と差がないとする報告が多い」という分析は、人のからだの自然治癒力、回復力に逆らわなければ、どれを選んでも大差はないということだろう。
そこで、自分なりの対処法を考えた。
この病気は、図16で示したように、加齢現象で生じた頚椎の骨棘が、椎間孔を通る脊髄神経根を圧迫し、刺激することが本態である。首を後屈するか患側に曲げる動作は椎間孔は狭くする。そこで、まずこの動作を行わないように工夫する。
●机と椅子と姿勢
私は9年前にリタイヤした時から、毎日10時間以上パソコンの前に座って何らかの構築作業をしている。興に乗ると2〜3時間まったく休憩をとらないこともしばしばなので、頚椎を長時間後屈させていた可能性が高い。
そこで、図53のように、椅子を高くして、背筋を伸ばした状態で少し首を前屈し、モニターの中央に視線が向くように気をつけることにした。
●枕と寝かた
枕をして仰向けで寝る場合にはしびれや痛みなどの症状は現れにくいのは、枕により頚椎が前屈状態になることによる。健側を下にした側臥位で寝ると、頚椎が患側側に曲がり、椎間孔を狭くして、神経根を圧迫し症状が悪化するため、この位置での就眠は控える必要がある。ただし、この寝かたはすぐ症状が出るので、無意識でも楽な位置に戻っているようだ。
●姿勢
猫背になると、正面を向う場合、首を後屈しなければならない。だから、背筋を伸ばし猫背にならぬように注意する。私は昔から猫背の恰好が嫌いなので、意識して気をつけてきたように思う。
●首の動かし方
むちうちなど頚椎を急激に後屈する外力が働いた場合が最悪で、首を急激に後ろに傾ける(後屈する)とか、患側に傾けると神経根を強く圧迫して傷つける可能性がある。首はゆっくり動かすのが肝腎である。
椎間孔を広げるようなストレッチがあれば行いたいと調べていて、日経新聞の記事を見つけた。
ストレッチは筋肉の緊張をとる効果はあるが、筋力を高める効果はない。重い頭を支えるために首の筋肉をトレーニングする必要がある。しかし、首を後屈させたり患側に曲げることはしてはいけない。それをせずに首の筋力を高めるトレーニングを「頚椎の等尺性筋強化運動」と呼ぶ。
頚椎症性神経根症では、神経根刺激症状ののほかに、肩こり・首の痛み・背部痛などの苦痛がある。このメカニズムについては、トリガーポイントと関連づけてかなり理解できたが、まだ未解明なところも多い。
●圧迫とマッサージ
痛む箇所があれば、その場所に手をやり、マッサージするとか、押さえることが多いだろう。指先に力を入れて強く圧迫(指圧)をすれば、痛くても後が気持ちよくて続ける場合もあるだろう。
TravellとSimonsは The Trigger Point Manual の中で、トリガーポイントを直接処置する治療法として、Trigger Point Injection(トリガーポイント注射)を推奨しているが、これは自分自身で行うことはできない。
自分で行える治療として、Deep Stroking Massage(ディープ・ストローキング・マッサージ)を推奨している。これは指先をそろえて皮膚の上から筋肉を、往復して強く圧迫するマッサージである。
Daviesは、誰でもできるトリガーポイントの探し方・治し方 の中で、長年マッサージをしてきた経験から、手を使ってマッサージ行うと手を傷めやすいので、マッサージ・ツールを使うことを勧め、その一つとして図57のセラケインを紹介している。
セラケインをAmazonで購入したが、大きく曲がったアームによって、手が届かない肩・腰・背中の望む場所を選べるので、トリガーポイントの発見が容易であった。また、てこの原理で押すため、大きな力が要らず、虚血圧迫(指圧)やディープ・ストローキング・マッサージに使って重宝した。1ヶ月ばかり使って、肩こり・首の痛み・背部痛などが軽くなったので、現在はたまにしか使っていない。
●温湿布とサポーター
60歳代に2回、左右の肩の肩関節周囲炎を患い、最初はサポーターを半年近くつけて治り、2回目は温湿布をこれも半年ばかり使って治まった経験がある。
今回もそれを思い出して試みたが、効果はほとんどなかった。痛みの範囲が図49、図50のように広く、痛みをもたらす病態が違うため、期待した効果がなかったのだろう。
●消炎鎮痛剤(NSAIDs)
痛みに対して消炎鎮痛剤(NSAIDs)を服用するのは、最も多く行われている保存療法であるが、私は耐えられないほどの激痛でなければ、服用する気持ちにならない。ここ40年ばかりの間で消炎鎮痛剤を使ったのは数えるほどもないと思う。
薬で痛みを押さえることで、痛みの悪循環を断つ効果があることは分かっている。また、胃腸は頑強にできていて、胃腸障害を起こすこともないはずだ。しかし、薬を飲むのは好みでない。
●トリガーポイント注射
私も開業医であった頃、トリガーポイントの知識はなかったが、圧痛点に局所麻酔薬と水溶性ステロイドを混ぜて注射し、著効を得た経験を多く持っている。肩関節周囲炎、腰痛症などがその大部分だった。
TravellとSimonsは The Trigger Point Manual の中で、トリガーポイントを直接処置する治療法として、Trigger Point Injection(トリガーポイント注射)を推奨しているが、これは自分自身に対して実行することはできない。だから、この治療法も採らなかった。
1.昨年末の総括で、老化は確実に進行していると書いたが、それは間違いではなく、白内障手術を受け、続けて、この頚椎症性神経根症という老化現象に起因する病気を患い、さらには、両耳に補聴器を装着するようになった。
2.この病気を患ったことから、知らなかったことを多く学ぶことができた。その中でもトリガーポイントと関連痛に関する知見は面白かった。私は医師になったころから「痛み」に興味があり、内臓疾患と関連痛の関係や東洋医学の経穴(ツボ)の文献によく目を通していたことを思い出した。
3.私が好きなケネディ大統領の長年の苦痛を救った主治医が、このトリガーポイントを見つけ、それを学問的にまとめ、臨床治療に生かしてきた人であることを知り、感動を覚える。
4.この病気に自分ならどう対応するかをまとめたが、実際に続けたのは、神経根を傷めることをしないことのほかは、圧迫とマッサージくらいである。面倒なので続かなかったが、椎間孔を広げるストレッチは面白かった。
5.今回のまとめ作業は非常に楽しいものだった。ものを作る、構築する、メカニズムを調べることは、今も変わらず一番したいことである。
6.これをまとめ始めたころは、苦痛がひどく、精神的にも落ち込んでいたが、いつの間にか痛みも軽くなり、これまでの自分に戻ってきている。
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