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開業医の小児科独習法

はじめに〜第二章

2006.04.16. 掲載
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はじめに
第一章:小児科勉強のテキストとした図書
第二章:紹介した症例から学ぶ
    1.小児紹介患者の疾病統計
    2.紹介患者に多い病気
    3.紹介患者に多い病気のグループ
    4.紹介患者の病気のいろいろ


はじめに

私は医師になって11年目に、内科、循環器科、消化器科を標榜して開業しました。大学で心臓外科を専攻し、川崎病院で消化器外科を、名取病院では内科と放射線科を勉強したので、この3標榜科については診療に自信がありました。しかし、内科診療所では、小児科を標榜していなくても、小児の患者を診療しなければならない場合があります。

また、内科系医師は日曜休日診療所、土曜夜間診療所、夜間深夜診療所などの当番に出務しなければなりません。自分の診療所であれば、小児科は自信がないと言って診療を断ることもできますが、救急診療所に来られるのはこどもが大半なのに、小児科医ではないからこどもの診療はできないなどと言っても通りません。内科医には、小児科の診療能力も求められているのです。

私も、小児科の学生実習は受けましたが、これなどほとんど役に立ちません。ただ、入局した外科が、心臓外科と小児外科の分野で、日本のパイオニアとなったところだったことと、当時の心臓外科の手術の半数近くが、先天性心疾患だったことから、小児の患者によく接してはきました。そこでは泥縄式に、必要に応じて小児科の勉強をしましたが、系統だった小児科としての勉強ではありません。

32年間の開業医生活の中で、私にとって開業して最も良かったと思うのは、親や祖父母に連れられて医院に来ていたこどもが青年となり、結婚して親となり、そのこどもが親や祖父母に連れられて医院に来るというケースを何組も経験したことと、一人のこどもが幼児、学童、学生と成長していく過程を、継続して見せてもらえたことでした。これは、小児科を標榜するしないに関わらず、内科開業医だけが経験できる恩恵でしょう。

小児科をマスターするために、開業してから独りでいろいろ勉強し、少しづつ身につけて行きました。大学や病院の小児科で指導を受けて学んだのではなく、開業して自力で小児科を学んだ私のやり方を、診療からリタイヤしたこの機会に、まとめて置くことにしました。自分の記念のためのまとめですが、これから実地に小児科を学ぼうとしている医師にとって、何かお役に立つところがあれば嬉しく思います。

第一章:小児科勉強のテキストとした図書

独習とは言っても、大学や病院の小児科で勉強したのではないという意味であり、多くの小児科に関係する書籍と、診療をした患者さんから学びました。書籍の中で、私にとって学ぶところが多かったものを取り上げ、簡単な説明を加えます。

1.<内科医のための小児診療ノート>改定3版
  寺脇 保、尾木文之助、加地正郎、武田誉久 共著
  中外医学社 1968年刊 210頁

この本は、九州大学医学部卒業の、小児科医師2名と内科医師2名の親友同士4名が編集したものです。「内科医でも、小児の特殊性について原則的なことと特に必要な点についての知識を持っていれば、大過なくすませられるのではないか」という趣旨のもとで、内科と共通する点はすべて省略し、内科医が小児を診療するときに盲点になりやすい事柄に主眼を置いて書かれていました。

この書は実際的で、いろいろ役に立ちましたが、中でも、成人量に対する小児の薬用量の換算式(Von Harnach の換算式)は最も有用で、開業当初から、より使いやすいように簡略化して、野村医院方式として使ってきました。

     小児の薬用量(Von Harnach の換算式)
 年齢   1歳   3歳   7.5歳    12歳   成人 
 薬用量   1/4   1/3   1/2   2/3   1 


小児の薬用量(野村医院方式)
 年齢    1歳    3歳    6歳    12歳   成人 
 薬用量    1/4    1/3    1/2    2/3    1 
      3     4     6     8    12 
 体重    10kg    15kg    20kg    30kg    50kg 


寺脇氏は当時鹿児島大医学部小児科教授、尾木氏は小児科開業医、加地氏は「かぜ」博士で有名ですが、当時九大講師で現久留米医大名誉教授、武田氏は病院内科勤務医師でした。この書籍が良い著作であった理由が分かった気がします。

2.<小児における問診のコツから診断まで>
  大国真彦
   南山堂 1970年刊 200頁

この著書から、1)こどもは大人と違って、初診からいくつもの検査をすることが困難であり、2)こどもの病気は経過が早いので、検査結果をゆっくり待っておれず、3)こどもの大部分の病気は、問診と診察で大体の診断ができるという3つの大事なことを学びました。私は医師になったころから、診療の場での問診や理学所見の重要性をいつも思ってきましたので、著者の診療に対する考えに共鳴しました。

大国氏は高校と大学で同期の大国英和先生の兄上であり、日大小児科教授で、小児心臓病の第一人者でした。日大板橋病院院長をされた後、平成12年に、長年の夢であった手間と時間を充分にかけた医療を実現する目的で、小児科・内科を開業されました。

3.<四季よりみた日常小児疾患診療のすべて>
  篠塚輝治、中沢 進、巷野悟郎、村田文也、嶋田和正 編集
   金原出版 1971年刊 484頁

この著書は、春夏秋冬の各季節に起こりやすい病気と、季節に関係しない病気というように、季節という観点から小児の病気をグループ分けをして、それを484ページに及ぶ大部で詳細に書かれていました。今でこそ、季節病や気象病という分類もポピュラーになりましたが、30年以上も前にこの書を手にした時は、非常に新鮮に感じました。そして、実地に役に立つのなら、教科書的なアカデミック方法だけではなく、いろいろな見方や方法を積極的に取り入れていくことの大切さを学びました。

今ふり返ってみると、夏の病気が冬にも流行するようになったり、逆に、秋から冬に流行る下痢症が夏に流行したり、こどもの季節病も32年間でかなり変わってきたと思います。

4.<小児皮膚疾患100例>
  肥田野信
   日本医事新報社 1973刊 102頁

このカラーアトラスは、日常みられるありふれた小児の皮膚疾患を重点的にとりあげていて、写真も美しく、実地臨床に役に立ちました。しかし、実際の臨床の場では、同じ疾患であっても、ひとりひとり皮膚病変の様相が異なることが多く、1枚の写真では代表できないことも痛感しました。

5.<学校における心臓検診と管理指導> 1-05-01
  大国真彦、北田実男 共著
   中外医学社 1974年刊 295頁

開業した73年に学校保健法施行規則が改正され、学校心臓検診を行うことが義務づけられました。義務づけられたとはいうものの、心臓検診のやりかたについては何の規定もなかったのです。心臓外科医だった私は、交野市学童の、心臓検診システム構築に対する助言と、心臓検診問診表の作成を依頼され、いろいろ文献を調べて作りました。交野市では、学校の心臓検診は74年4月から始まりましたが、その直後にこの著書が出版され、もう半年早く出版されていたら、苦労しなくて済んだのにと思ったことを覚えています。私の作った心臓検診問診表は、この著書と違うところが少なく、以後修正することなく使われてきました。

大国真彦氏については、2.<小児における問診のコツから診断まで>で紹介しました。北田実男氏は阪大医学部の1年先輩で、大阪府立成人病センター循環器検診第三科部長でした。

6.<学校における腎臓検診と管理指導 附 糖尿病検診>
  村上勝美、北川照男 共著
   中外医学社 1976年刊 294頁

心臓検診に続いて、腎臓検診も学校検診を行なうことが義務づけられ、その参考書として活用しました。

7.<日常小児診療図譜>
  巷野悟郎著
   医学図書出版 1977年刊 56頁

これは著者が、日常診療の折々に、普通に遭遇する症状を写真で集め、まず目で理解できるように作られた書物です。写真としては4.<小児皮膚疾患100例>のような美しいものではありませんが、B5版56ページの中に254枚の写真が収められています。もっとも、そのジャンルは小児科全般に亘り、内科医が応急的に診療する小児科の範囲を超えていて、私の臨床で役立った写真は半分くらいでした。

私は何ごとにつけ、実用的であることに価値を置いてきました。そこで、この「日常小児診療図譜」「小児皮膚疾患100例」のように、実地臨床に役立つことを目的とした図譜という発想に共鳴しました。しかし、この図譜でも、それぞれの疾患や症状に対して1枚の写真を当てることの限界を知りました。

そこで、来院された患者さんの病気や症状を写真撮影して自分で図譜を作ろうと考え、ポラロイドカメラを購入しました。ポラロイドにしたのは、撮影して10数秒後に写真を見せて、許可を求めることができるからです。1977年春から撮影をはじめ、数年で800枚くらいになりました。これについては、後で改めてまとめておくつもりです。

巷野悟郎氏は、3.<四季よりみた日常小児疾患診療のすべて>を分担執筆された方で、本書執筆当時は、東京都立駒込病院副院長をされていました。その後、東京都立府中病院院長、東京家政大学・聖徳大学教授を歴任され、NHKラジオで10余年にわたり育児相談を担当された方です。

8.<小児科診療二頁の秘訣>
  村上勝美、加藤英夫 編集
   金原出版 1978年刊 261頁

この著書はページめくると、左と右の2ページに、一つの病気について、その診療の要点と秘訣を簡潔にまとめてあり、理解しやすく、活用しやすいものでした。

9.<今日の小児治療指針>
  加藤英夫 /浦田久
   医学書院 1970年刊 548頁

開業する前から、医学書院刊の「今日の治療指針1971年刊」を購入し、内科、循環器科、消化器科の開業医に必要な最新情報を主にこれから得ていました。開業をしてからは「今日の小児治療指針」も併せて購入し、小児科の最新情報をこれから得るようにしてきました。第5版までは書籍で、それ以降は、あとで述べる「今日の診療 CD−ROM」で継続して使っています。

10.<小児のプライマリ・ケア>
  塙 嘉之編著
    大日本製薬株式会社 1982年刊 190頁

1978年に、WHOがプライマリ・ヘルス・ケアに関する国際会議を開いたころから、プライマリ・ケアの必要性が唱えられるようになりました。プライマリケアは特に小児科に必要なものであり、この書物は分担執筆ですが、図表を多く使って分かりやすく、開業内科医に必要な小児科の知識を、系統的にまとめるのに役立ちました。このような優れた医学書が、製薬会社の自家出版であって非売品であるのを惜しみます。

11.<今日の診療 CD−ROM>

1991年11月に、医学書院から「今日の診療 CD−ROM」が発売され、それ以後毎年更新があり、現在の第15版(2005年版)まで継続して購入し、診療に利用してきました。この1枚のCD−ROMに、1)今日の治療指針 本年度版、2)今日の治療指針 前年度版、3)今日の診断指針 最新版、4)今日の整形外科治療指針 最新版、5)今日の小児治療指針 最新版、6)今日の救急治療指針 最新版、7)臨床検査データブック 最新版、8)治療薬マニュアル 本年度版という医学書院発刊の8冊の医学書籍が収納されています。

このように「今日の小児治療指針」<今日の診療 CD−ROM>に含まれているので、書籍としての購入は1991年以降は行なっていません。

12.<こどもは未来である>
  小林 登
   メディサイエンス 1979年3月15日

これは、日本アップジョン社という製薬会社が毎月発行している「スコープ」という雑誌に連載された、育児学的なエッセイをまとめた書籍です。雑誌連載中によく読んでいて、単行本で出版されるとすぐ購入しました。この本は小児の病気について書かれたものではなく、ヒューマン・バイオロジー(人間生物学)の立場から、乳児期の母子関係を考察した優れたエッセイ集です。この書から、今まで知らなかった多くのことを学びました。

東大小児科教授という肩書きからは想像できない、やさしい文章が魅力的でした。その上、毎回挿入されるこどもが書いた絵が素敵で、「ミロ」の絵に似ていると感じることがよくありました。


第二章:紹介した症例から学ぶ

私は診療標榜科目に小児科を掲げていません。1歳以下の小児の診療は、小児科専門ではないので、診療に自信が持てないと言ってお断りしてきました。無医村のようなところでは、そのようなわけにはいかないのは承知していますが、周辺にいくつか小児科専門医がいる地域では許されると思っています。

小児科の対象となる年齢は、出生直後から15歳まで(中学校卒業まで)とされているようですが、最近では高校卒業までに拡大している大学や大病院もあるようなので、私も18歳までとしました。そういうわけで、今回の私の小児科独習法では、乳幼児を除き1歳から18歳までを対象年齢としました。

紹介患者数は診療全体の1%に満たないのですが、患者さんを紹介することによって学ぶことは、自院で診療して学ぶことと同じくらい多くありました。紹介するための勉強、紹介した後の小児科専門医の教示や自己学習、このいずれもが日常の診療に役立ちました。それは症例に応じた、どろなわ的な、必要に迫られた勉強がほとんどでしたが、案外、これは実戦的で効率の良い学習方法だったと、今思い返しています。診療だけでなく、私はなにごとにも" learning by doing "で対処してきたように思います。

開院20周年を記念して「野村医院二十年史」を93年秋に出版し、その中で紹介患者の疾病統計を掲載しましたが、小児科の年齢に絞った検討はしていません。そこで、今回は、小児科年齢の紹介患者の疾病を、前回の全紹介患者の疾病と比較することで、小児科年齢の疾病の特徴を検討してみました。期間は、前回と同じ1975年月1月から93年8月までとしました。病名は紹介先病院から返事をいただいたものを主に、回答の得られなかったものは当院の診断を代用しました。

小児紹介患者の件数は383で全体の21.6%、疾患の種類は166で全体の27.7%でした。小児紹介患者の疾病を、精神神経、脳外科、一般外科、整形外科、皮膚科、循環器、血液、腎尿路、呼吸器、消化器、内分泌代謝、感染症、耳鼻科、眼科、産婦人科、その他の16グループに分けて検討しました。ここで「%の%」というのは、小児紹介患者の各疾病の割合(%)を全紹介患者の各疾病の割合(%)で割った値の割合(%)で、200%以上は、小児の疾病の頻度が高くて2倍以上であることを示し、50%以下の場合は、小児の疾病の頻度が低くて2分の1以下であることを示しています。


1.小児紹介患者の疾病統計

1a.精神神経疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 癲癇 16 4.2% 20 1.1% 371% 頭痛 5 1.3% 11 0.6% 211% 熱性痙攣 5 1.3% 5 0.3% 464% 顔面神経麻痺 3 0.8% 11 0.6% 126% 筋収縮性頭痛 2 0.5% 11 0.6% 84% 失神発作 2 0.5% 7 0.4% 132% 心身症 2 0.5% 6 0.3% 155% 片頭痛 2 0.5% 6 0.3% 155% 三叉神経痛 2 0.5% 3 0.2% 309% 心因性反応 2 0.5% 3 0.2% 309% 夜尿症 2 0.5% 2 0.1% 464% 眩暈(内耳性) 1 0.3% 2 0.1% 232% 神経症 1 0.3% 9 0.5% 52% 慢性頭痛 1 0.3% 7 0.4% 66% 脳波正常 1 0.3% 3 0.2% 155% 癲癇の疑い 1 0.3% 2 0.1% 232% 眼瞼下垂 1 0.3% 1 0.1% 464% 起立性調節障害 1 0.3% 1 0.1% 464% 強迫神経症 1 0.3% 1 0.1% 464% 四肢麻痺 1 0.3% 1 0.1% 464% 症候性頭痛 1 0.3% 1 0.1% 464% 心因性頭痛 1 0.3% 1 0.1% 464% 心因性腹痛 1 0.3% 1 0.1% 464% 神経学的正常 1 0.3% 1 0.1% 464% 登校拒否 1 0.3% 1 0.1% 464% 微細脳損傷 1 0.3% 1 0.1% 464% 腹部癲癇 1 0.3% 1 0.1% 464% 夜驚症 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 60 15.7% (296) 16.7% 94% 1b.脳外科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 頭部外傷 3 0.8% 5 0.3% 278% 脳腫瘍 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 4 1.0% (21) 1.2% 88% 2a.一般外科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 急性虫垂炎 61 15.9% 92 5.2% 307% 急性虫垂炎の疑い 4 1.0% 5 0.3% 371% アテローム 2 0.5% 6 0.3% 155% フレグモーネ 2 0.5% 5 0.3% 185% 腸重積 2 0.5% 3 0.2% 309% イレウスの疑い 2 0.5% 2 0.1% 464% 鼠径ヘルニア 2 0.5% 2 0.1% 464% 乳房異常 2 0.5% 2 0.1% 464% イレウス 1 0.3% 9 0.5% 52% 急性腹症 1 0.3% 5 0.3% 93% 女性乳房 1 0.3% 3 0.2% 155% 汎発性腹膜炎 1 0.3% 3 0.2% 155% 急性リンパ節炎 1 0.3% 2 0.1% 232% 肛門周囲膿瘍 1 0.3% 2 0.1% 232% カルブンケル 1 0.3% 1 0.1% 464% 顎下部腫瘤 1 0.3% 1 0.1% 464% 臍炎 1 0.3% 1 0.1% 464% 頚部リンパ節炎 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 87 22.7% (231) 13.0% 175% 2b.整形外科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 前腕骨折 2 0.5% 2 0.1% 464% 前腕若木骨折 2 0.5% 2 0.1% 464% 腰痛症 1 0.3% 11 0.6% 42% 鎖骨骨折 1 0.3% 2 0.1% 232% 棘突起過敏症 1 0.3% 2 0.1% 232% 骨肥厚 1 0.3% 1 0.1% 464% 成長痛 1 0.3% 1 0.1% 464% 大腿筋肉ヘルニア 1 0.3% 1 0.1% 464% 単純性股関節炎 1 0.3% 1 0.1% 464% 拇指屈曲 1 0.3% 1 0.1% 464% 下腿挫創 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 13 3.4% (80) 4.5% 75% 3.皮膚科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 中毒疹 2 0.5% 3 0.2% 309% 薬物アレルギー 1 0.3% 6 0.3% 77% 不明疹 1 0.3% 3 0.2% 155% Sutton母斑 1 0.3% 2 0.1% 232% 光線過敏症 1 0.3% 2 0.1% 232% nevus cell nevus 1 0.3% 1 0.1% 464% 急性蕁麻疹 1 0.3% 1 0.1% 464% 尋常性疣贅 1 0.3% 1 0.1% 464% 線状苔癬 1 0.3% 1 0.1% 464% 単純性血管腫 1 0.3% 1 0.1% 464% 伝染性膿痂疹 1 0.3% 1 0.1% 464% 蕁麻疹 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 13 3.4% (58) 3.3% 104% 4a.循環器疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 心室中隔欠損症 3 0.8% 3 0.2% 464% 複雑心奇型 2 0.5% 2 0.1% 464% 高血圧症 1 0.3% 21 1.2% 22% 心房中隔欠損症 1 0.3% 4 0.2% 116% 機能性雑音 1 0.3% 1 0.1% 464% 大動脈縮窄症 1 0.3% 1 0.1% 464% 動脈管開存症 1 0.3% 1 0.1% 464% 僧帽弁閉鎖不全症 1 0.3% 1 0.1% 464% PDA+AS 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 12 3.1% (116) 6.5% 48% 4b.血液疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 白血病 4 1.0% 5 0.3% 371% 貧血 2 0.5% 11 0.6% 84% 血小板減少性紫斑病 2 0.5% 3 0.2% 309% ITP 2 0.5% 2 0.1% 464% 顆粒球減少症 1 0.3% 3 0.2% 155% 血管性紫斑病 1 0.3% 1 0.1% 464% 鉄欠乏生貧血 1 0.3% 1 0.1% 464% 紫斑病 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 14 3.7% (31) 1.7% 209% 4c.腎尿路疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 急性腎炎 12 3.1% 12 0.7% 464% 慢性腎炎 2 0.5% 5 0.3% 185% 出血性膀胱炎 2 0.5% 3 0.2% 309% IgA腎症 2 0.5% 2 0.1% 464% 急性腎炎の疑い 2 0.5% 2 0.1% 464% 停留睾丸 2 0.5% 2 0.1% 464% 血尿 1 0.3% 15 0.8% 31% ネフロ―ゼ症候群 1 0.3% 6 0.3% 77% 尿路感染症 1 0.3% 6 0.3% 77% 副睾丸炎 1 0.3% 6 0.3% 77% 前立腺炎 1 0.3% 5 0.3% 93% 膀胱炎 1 0.3% 2 0.1% 232% 膀胱結石 1 0.3% 2 0.1% 232% 血色素尿 1 0.3% 1 0.1% 464% 睾丸腫張 1 0.3% 1 0.1% 464% 膀胱尿管逆流症 1 0.3% 1 0.1% 464% 急性膀胱炎 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 33 8.6% (134) 7.0% 117% 5.呼吸器疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 肺炎 47 12.3% 145 8.2% 150% 気管支喘息 3 0.8% 4 0.2% 348% 喘息重積状態 2 0.5% 4 0.2% 232% 肺結核 1 0.3% 30 1.7% 15% 喘息性気管支炎 1 0.3% 7 0.4% 66% 間質性肺炎 1 0.3% 3 0.2% 155% 気管支肺炎 1 0.3% 3 0.2% 155% 急性気管支炎 1 0.3% 3 0.2% 155% 急性上気道炎 1 0.3% 1 0.1% 464% 急性扁桃炎 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 59 15.4% (281) 15.8% 97% 6.消化器疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 急性胃腸炎 5 1.3% 7 0.4% 331% 急性肝炎 3 0.8% 16 0.9% 87% 十二指腸潰瘍 2 0.5% 11 0.6% 84% 腹痛 2 0.5% 5 0.3% 185% 脱水症 2 0.5% 2 0.1% 464% 慢性肝炎 1 0.3% 26 1.5% 18% 急性膵炎 1 0.3% 3 0.2% 155% 肝機能障害 1 0.3% 2 0.1% 232% 便秘症 1 0.3% 2 0.1% 232% 胃下垂 1 0.3% 1 0.1% 464% 急性胃炎 1 0.3% 1 0.1% 464% 先天性胆道閉塞症 1 0.3% 1 0.1% 464% 腸間膜リンパ節症 1 0.3% 1 0.1% 464% 糞便貯留 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 23 6.0% (321) 18.1% 33% 7.内分泌代謝疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 甲状腺機能亢進症 5 1.3% 11 0.6% 211% 甲状腺腫 1 0.3% 5 0.3% 93% 若年性糖尿病 1 0.3% 1 0.1% 464% 成長遅延 1 0.3% 1 0.1% 464% クッシング症候群の疑い 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 9 2.3% (50) 2.8% 83% 8.感染症 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 無菌性髄膜炎 6 1.6% 6 0.3% 464% 髄膜炎の疑い 6 1.6% 6 0.3% 464% 感染性胃腸炎 6 1.6% 7 0.4% 397% 不明熱 4 1.0% 13 0.7% 143% 百日咳 3 0.8% 3 0.2% 464% 麻疹 2 0.5% 2 0.1% 464% EBビールス感染症 2 0.5% 2 0.1% 464% サルモネラ菌性腸炎 1 0.3% 1 0.1% 464% ビールス感染 1 0.3% 1 0.1% 464% 夏かぜ 1 0.3% 1 0.1% 464% 出血性水痘 1 0.3% 1 0.1% 464% 溶連菌感染症 1 0.3% 1 0.1% 464% 腸炎 ショック 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 35 9.1% (41) 2.3% 396% 9a.耳鼻科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 口唇粘液嚢腫 2 0.5% 2 0.1% 464% 扁桃肥大 1 0.3% 7 0.4% 66% 耳下腺炎 1 0.3% 2 0.1% 232% 異物誤嚥 1 0.3% 1 0.1% 464% 急性副鼻腔炎 1 0.3% 1 0.1% 464% 顎下腺腫張 1 0.3% 1 0.1% 464% 急性化膿性耳下腺炎 1 0.3% 1 0.1% 464% 聴力障害 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 9 2.3% (36) 2.0% 116% 9b.眼科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 水痘性結膜炎 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 1 0.3% (9) 0.5% 52% 9c.産婦人科疾患 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 卵巣嚢腫 3 0.8% 4 0.2% 348% 卵巣癌 1 0.3% 1 0.1% 464% 下腹部腫瘤 1 0.3% 2 0.1% 232% 外陰部裂傷 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 6 1.6% (30) 1.7% 93% 9d.その他 -------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- アセトン血性嘔吐症 2 0.5% 2 0.1% 464% 機嫌不良 1 0.3% 1 0.1% 464% 自家中毒 1 0.3% 1 0.1% 464% -------------------------------------------------------------------- 小計 4 1.0% (15) 0.8% 124%

上記の疾病統計を分析して得られた結論を、紹介患者に多い病気、紹介患者に多い病気のグループ、紹介患者の病気のいろいろ、に分けて書いていきます。


2.紹介患者に多い病気

全体と比べて小児が多い疾患を以下の表にまとめました。件数が5件以上で、全体と比べて1.5倍(150%)以上の疾病は、癲癇、頭痛、熱性痙攣、急性虫垂炎、急性腎炎、急性胃腸炎、肺炎、甲状腺機能亢進症、無菌性髄膜炎、髄膜炎の疑い、感染性胃腸炎の11疾病でした。急性虫垂炎は15.9%で第1位、次が肺炎の12.3%、この2つで28.2%約3割を占めています。それに対して、全紹介患者では、第1が肺炎で8.2%、次が急性虫垂炎の5.2%で、この2つを合わせて13.4%しかなく、小児の半分以下の割合でした。

急性虫垂炎の症例数は、実際はこれよりもかなり多いのです。というのは、問診と腹部の触診によって、この病気の疑いがあれば、血液検査やエコー検査をせず、紹介状も書かず、診察をしなかったことにして、外科を受診してもらう場合が多かったからです。急性虫垂炎は外科の病気であり、保存的に治療する場合でも、本来それは外科で受けるべきだと思っています。しかし、最近は大病院の場合、紹介状がなければ、初診料に4〜5千円の自費負担が必要になるので、大病院を希望される時は紹介状を書いて来ました。

-------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 癲癇 16 4.2% 20 1.1% 371% 頭痛 5 1.3% 11 0.6% 211% 熱性痙攣 5 1.3% 5 0.3% 464% 急性虫垂炎 61 15.9% 92 5.2% 307% 急性腎炎 12 3.1% 12 0.7% 464% 肺炎 47 12.3% 145 8.2% 150% 急性胃腸炎 5 1.3% 7 0.4% 331% 甲状腺機能亢進症 5 1.3% 11 0.6% 211% 無菌性髄膜炎 6 1.6% 6 0.3% 464% 髄膜炎の疑い 6 1.6% 6 0.3% 464% 感染性胃腸炎 6 1.6% 7 0.4% 397% --------------------------------------------------------------------

3.紹介患者に多い病気のグループ

小児紹介患者に多い病気のグループを調べて見ると、下表のように、感染症が圧倒的に多く、次いで血液疾患でした。これは、小児の生体防御機能が未熟で、感染を経験していく過程で、防御機能が成熟していくのであり、感染症が多いのは当然でしょう。また、小児がんの中で一番多い白血病と、いろいろなタイプの紫斑病が多いため、血液疾患グループが多くなっています。一方、小児紹介患者に少ない病気のグループは、消化器疾患が全紹介患者の約3分の1、循環器疾患が約2分の1でした。これらはいずれも成人の病気と言えるでしょう。

-------------------------------------------------------------------- 小児 全体 %の% 件数 % 件数 % % -------------------------------------------------------------------- 感染症 35 9.1% (41) 2.3% 396% 血液疾患 14 3.7% (31) 1.7% 209% 消化器疾患 23 6.0% (321) 18.1% 33% 循環器疾患 12 3.1% (116) 6.5% 48% --------------------------------------------------------------------

4.紹介患者の病気のいろいろ

小児紹介患者の中で頻度の高かった病気を中心に、私の印象に残る18疾病の特徴などをまとめました。

1)異型麻疹
異型麻疹は開業当初に診断がつかず困惑した病気です。そのころの紹介状の管理は充分にできていなかったので、今回の「小児紹介患者の疾病統計」には入っていません。開業して2ヶ月を過ぎた93年10月末に、5歳の男児が、テキストや図譜に載っていない発疹(不明疹)と原因の分からない発熱(不明熱)で来院され、困惑して近くの大学病院の小児科に紹介し、入院させて頂きました。そして、それが異型麻疹だと分かったのです。

この病気は、KL法による麻疹の不活性ワクチンの接種を受けたこどもが麻疹にかかると、普通の麻疹と違う発疹が現れ、高熱が続く、かなり重症の病気でした。その時から翌年にかけて、同じ症状のこどもがたくさん来られましたが、麻疹ワクチンが現在のタイプに代わってからは見られなくなりました。

この時は開業したばかりで、テキストにも載っていない病気に遭遇して、困惑しました。開業して最初に紹介した患者がこの病気だったので、強く印象に残っています。私は医学的に恥ずかしくないように丁寧に紹介状を書き、血液検査データや胸部X線写真も添付しました。そうしたら、受持ち医が紹介した私のことをいろいろ尋ねたり感心していたと、紹介したこどもの母親から聞かされました。

この患者の紹介で、きちんとした紹介をすれば、1)自分とまったく関係のない病院であっても、それに応えてくれること、2)専門医から難しい病気について教えてもらえること、3)その専門医でも直ぐには分からない難しい病気があることなどを学びました。そして、それからは紹介を積極的に行ない、いろいろ多くを学びました。それにしても、運命は残酷です。そのこどもは青年になって単車事故で亡くなりました。

2)顔面神経麻痺
末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)は、小児でもかなりありました。耳の前の部分を冷やすと起こりやすいのは大人と同じです。ある女子高生は寒い朝、通学のため山手の家から私鉄の駅まで自転車で降りると、何度も右の顔面神経麻痺になって来院されました。耳あてを着けて顔を寒さから守るように指導してから、起こらなくなったのを覚えています。

この病気は、発症直後に大量のステロイドを投与し、急速に減量して、1ヶ月くらい維持療法を続けることで、小児だけでなく診療した成人も全て治癒しました。しかし、20年くらい前から、専門医に紹介して治療を委ねるようにしてきました。それは、専門医が近くにいる環境では、一般医が治療に関わる病気ではないと思ったからです。

3)三叉神経痛
小児には非常に珍しいとされている三叉神経痛も意外とあるもので、全紹介患者3名中2名が11歳と8歳の男児

でした。いずれも三叉神経第1枝の三叉神経痛で、テグレトール(カルバマゼピン)が唯一有効でした。

4)脳腫瘍
「登校拒否をして家で寝てばかりいる」との家族の訴えのある12歳の男子中学生を、きっと心身症だろうと考えて精神科へ紹介したら、CT検査で脳腫瘍と分かり驚きました。この患者は、手術、放射線療法などを受けた後、亡くなられました。

もう一人は「小児紹介患者の疾病統計」には含まれていませんが、2歳くらいの男児です。ある時、斜視になっているのに気づき、母親に話したところ、眼科で診てもらって心配ないと言われたとのことでそのままにしました。1〜2ヶ月過ぎたた頃、母親の診察に付き添ってきたその子の歩き方がおかしいので、脳腫瘍の疑いがあるから専門医を受診するよう勧めると、九州出身なので九大病院で診てもらうと言って紹介を求めず帰られました。1年ほど経ってから、やはり脳腫瘍で、放射線治療を受けたが亡くなったと母親から聞かされました。

最初の症例では、登校拒否症を疑ったが脳腫瘍でした。後の症例は、急に斜視になった段階で脳腫瘍を疑って専門医受診を強く勧めるべきだったのを、眼科医の診断に遠慮して、歩行障害という駄目押しが出てきてから、専門医受診を勧めてしまいました。いずれもほろ苦い経験です。

5)癲癇
癲癇の紹介患者数は16名あり、多いようにみえますが、これは抗痙攣薬の服用量の調節などのために、同じ患者を複数回紹介しているので、延べ人数が多くなっているからで、実際は5名です。5名でも多いのですが、その当時、義兄が星ヶ丘厚生年金病院の神経科部長だったので紹介しやすかったことと、意識消失発作があれば、念のため脳波検査を受けるように勧める方針だったことが影響していると思います。実際、その内の3名は疑い通りの癲癇でした。これらの患者は本人や家族の希望にしたがい投薬は当院で行なってきました。

6)急性虫垂炎
急性虫垂炎は、小児紹介患者の中で一番多い病気であり、61名ありましたが、先に書いたような紹介状なしの紹介を含めると、もっと増えると思います。比率でみても小児紹介患者の16%を占め、第2位の肺炎の12%を大きく引き離しています。自分の頭の中では肺炎の方が多いと思っていましたが、それは肺炎の方が当院で検査や治療をして時間がかかっているのに対して、急性虫垂炎の場合、ほとんど直ぐに外科医に治療を委ねようとするから、印象が少ないのではないかと思います。

元外科医としての経験では、小児と老人の急性虫垂炎は、症状が軽いため手遅れとなり、腹膜炎を起してから発見されることが多かったので、保存的治療が可能と思える場合でも、速やかに外科医へ紹介して来ました。

成人を含めた全紹介患者の中で、一番紹介の多いのは肺炎で、次が急性虫垂炎ですが、小児では逆転し、小児の急性虫垂炎の紹介患者数は比率で大人の3倍あります。これは、小児の場合は細菌感染に対する防御機能が未熟であるためかも分かりません。

不思議に思うのは、私が医師となった頃にあれほど多かった急性虫垂炎が、開業してからはどんどん減ってきていることです。治療する前の発症の段階で減少してきていることについては、抗菌薬の進歩では説明がつかず、栄養状態が良くなり、生体本来の防御機能が向上してきたからではないかと思っています。

7)先天性心疾患
私が元心臓外科医だったので、開業当初は先天性心疾患をかなり診断し、循環器病センターなどへ紹介してきました。しかし、開業して8年目の81年頃から、出産の段階で発見されるようになり、学校の検診で初めて発見されるのはまれになってしまいました。「小児紹介患者の疾病統計」では、ASD、VSD、PDA、PDA+AS、大動脈縮窄症など10例ありますが、いずれも75年から81年までで、それ以後は小児の先天性心疾患の紹介は1例もありません。こちらは、急性虫垂炎と違って、生後早期のチェック体制が整ってきたためだと思います。

8)白血病
小児がんの3分の1を占めると言われる白血病は「小児紹介患者の疾病統計」でも4例あり、3歳が3名、14歳が1名でした。14歳の男子中学生を阪大小児科に紹介しましたが、化学療法で治癒し、19年経った昨年まで時折来院されていました。19年前に白血病が治癒したのを知った時には、医学の進歩をつくづく感じました。

9)紫斑病
血小板減少性紫斑病は治療が難しいので全て紹介し、「小児紹介患者の疾病統計」では4例ありました。血小板に異常のない紫斑病もよく見られましたが、こちらは早期からステロイドを投与して漸減するようにしてきたせいか、腎症を併発した症例を経験していません。ただし、この病気にステロイドを使うことに慎重な小児科医師もいるようです。結果論になりますが、腎症を発症してからステロイドを使うのを知って、最初に使っておればステロイドの量も少なくて済み、発症も防げたのではないかと思った症例を経験しています。

10)急性腎炎
急性腎炎は延べ12名を紹介しましたが、その内の3名は経過観察のため2回紹介したもので、実質9名でした。溶連菌感染症の合併症としては、リウマチ熱は経験なく、急性腎炎が20年間で9例で、それが遷延化したり重症化した症例を知りません。9名の内の数名には親兄弟に腎炎の既往があり、腎炎の発症には体質が遺伝するのではないかとの印象を受けました。

11)肺炎
小児紹介患者の中で、急性虫垂炎に次いで多いのが肺炎で、全体の12.3%を占めています。肺炎は全年齢の紹介患者では8.2%であり、小児は全年齢層と比べて1.5倍になります。肺炎は開業して2年後の75年から急速に増え、ペニシリンやセフエム系の薬で効かず、たくさんの患者さんを紹介し、その多くが非定型肺炎(原発性異型肺炎)であることを学びました。

非定型肺炎の病原体の多くがマイコプラズマであること、ペニシリンやセフエム系の薬が効かず、テトラサイクリン系やマクロライド系が効くことを知りました。これらの抗菌薬を使うと劇的に効果があり、熱は下がり、咳は減ります。この2種類の抗菌剤の中で、テトラサイクリンの方が切れ味は良いのですが、乳歯に色素沈着を来たすことがあるので、小児にはマクロライド系を使ってきました。

75年から急激に肺炎が増えたことについて、一番大きな影響を与えたのが、古くから使われてきた抗菌薬クロマイ(クロロマイセチン)の使用禁止ではないかと思っています。クロマイは一般名をクロラムフェニコールと言い、50年に三共から発売され、以来75年に厚生省の通達で使用規制されるまで、最も広く使われてきた抗菌薬でした。クロマイは抗菌力が強く、広い範囲の細菌感染に有効で、マイコプラズマやクラミジヤなどの感染にも有効でしたが、非常にまれに再生不良性貧血という致命的な病気をもたらすことがあり、使用が規制されたのです。

小児の紹介肺炎患者数をグラフ(図1)で表すと、76年、79、80年に大きなピークがあります。76年にはモントリオールで、80年にはモスクワでオリンピックが開催されました。なぜか夏のオリンピック開催の年に流行するので、マイコプラズマ肺炎をオリンピック肺炎と呼ぶこともありました。それは、マイコプラズマに自然感染して、3〜4年で免疫が低下した頃に再感染するためではないかと思います。しかし、84年のロサンゼルスオリンピックの頃からは、あまりオリンピックと関係なく、散発的に流行するようになってきています。

図1 小児の紹介肺炎患者数

マイコプラズマ肺炎の患者を多く経験しているうちに、この病気は問診と理学所見で見当がつく場合が多くあり、その確認のために胸部X線撮影をすることも少なからずありました。その特徴は、高熱と激しい咳ですが、その割には重症感が少なく、かぜをこじらせたような印象を受けることです。特に「他の医師で治療をしてもらってきたけれど、熱も咳も一向に良くならない」と言う訴えがあれば、その多くはこの病気でした。当時はこの病気のことが余り知られておらず、ペニシリン系やセフエム系の抗菌薬を使うのが一般的だったからでしょう。家族内感染も多く見られるので、最近同じ症状の家族がいたことを聞き出したら、それもこの病気を示唆する有力な情報でした。

また、この病気に適した抗菌剤で治療すれば、簡単に治癒することが分かってからは、肺炎=紹介というこれまでのパターンを変えて行き、家族が希望されるのでなければ、紹介をせず当院で治療をすることにしました。この病気とか溶連菌感染症などは、その当時(今から30年前)は余り知られていなくて、家庭医学の書物に載っていない病気でした。そこで、77年5月から、「医学豆知識」というパンフレットを作って、患者さんにお渡しして、病気の説明に活用しました。この「異型肺炎」のプリントは77年5月30日に作った記録が残っています。

この病気に一度罹ると、二度罹ることが少ないのは抗体が残っているためですが、1歳3歳5歳と3回罹患した女児がいて、いずれも同じ病院へ紹介しました。今回、息子に医院を引継ぐに当り、X線フィルムを整理していてその写真を見つけ、彼女の母親に差し上げました。しばらくして、彼女から「自分は結婚して内科勤務医として働いています。25年も前のX線写真を大切に保管していただいた上、わざわざ実家までご持参いただいたそうで感謝の気持で一杯です」との手紙が届きました。この場合、病原体の分離までは行なっていなかったと思うので、3回がすべてマイコプラズマによるものとは言えないのですが、私の頭の中では、そのような記憶になっています。

オウム病クラミジアによる異型肺炎を経験したこともあります。なぜオウム病と考えたかと言えば、飼っていたインコが病気で死んだころから、家族の何名かに咳や発熱などが現れたことを聞き出したからです。この症例は紹介をせず、テトラサイクリン、次いでマクラロイドの投薬で治癒しました。

私は開業当初から病院用の小型自動現像機を購入し、胸部X線撮影装置に自動露出計を組み込んでいました。当時、そこまでの医療機器を備える開業医は少なかったはずです。そのため、簡単な操作で、その頃の水準としては良い写真が撮れました。だから、X線撮影することも、紹介状に写真を添付することにも、まったく抵抗がなく、いろいろな面でプラスに働きました。

12)急性肝炎
急性肝炎は3例経験しましたが、その内の2例はA型肝炎で、7歳と8歳の男児でした。いずれも症状からは重症感が少ないのに、検査をしてみるとトランスアミラーゼの値が異常に高いのに驚いて紹介したのを覚えています。心配をして紹介したのに、いずれも経過は良好でした。その後、成人で多数のA型肝炎を経験してからは、トランスアミラーゼ値の異常高値は臨床症状にそれほど影響しないことを知りました。

もう1例は16歳の男子高校生で、ラグビーの練習中下肢を負傷し、血液の付いたチームメートの手ぬぐいで傷を圧迫してB型肝炎に感染したのですが、HBs抗体のできるまで10年近くかかりました。この症例から、このような感染経路もあることを学びました。

13)髄膜炎
発熱、嘔吐、頭痛があれば、髄膜炎を疑い、必ず項部硬直とKernig徴候を調べ、どちらかの所見があれば、即刻病院へ紹介してきました。それは、細菌性髄膜炎の場合、治療開始が速ければ速いほど予後が良いとされているからです。小児紹介患者では、髄膜炎を疑って紹介した12名のうち6名が髄膜炎で、いずれも無菌性でした。また、同じ期間の全紹介患者の中で、髄膜炎の疑いで紹介したのはすべて小児でした。

この髄膜炎の内の3名は、いずれも「手足口病」から発症したもので、91年7月8日に4歳男児、9歳女児、同じ月の25日に8歳男児というように、7月中に3例も経験しました。この年流行したのは、コクサッキーウイルスではなく、エンテロウイルスによる手足口病でした。それまで経験してきた手足口病は軽症で、特に注意する必要はないと思ってきました。しかし、これを経験してからは、エンテロウイルスによる手足口病では髄膜炎を引き起こす心配があることを家族に伝えています。紹介した髄膜炎の患者はすべて治癒しましたが、97年に大阪市立総合医療センターで、エンテロウイルスによる手足口病からの髄膜炎で3名が死亡したとの報告があり、この髄膜炎が軽症であるとは限らないことを知りました。

発熱、嘔吐、頭痛の症状があって、項部硬直やKernig徴候を調べる際に、その手技を家族に実際に説明して教え、診察した際に所見がなかった場合でも、家庭に戻ってから調べるように指導してきました。

14)手足口病
「咽頭結膜熱」もそうですが、この「手足口病」も、手と足と口に発疹が出る病気というように、主症状を並べただけの病名です。この病気は殿部にも発疹が出やすいので、私は「手足口尻病」だとよく説明します。これは、コクサッキーウイルス16型やエンテロウイルス71型が起こす夏かぜの一種です。

口の中に小さな潰瘍が多くでき、手のひらや足の裏、殿部にも細長い水疱ができます。水痘と違って、水疱の皮は厚くて簡単に破れることはなく、全身や有髪部位に出現することもありません。これらの特徴から診断は容易で、普通は発熱もなく軽症です。しかし、エンテロウイルスによる手足口病の場合、髄膜炎を起すことがあるのは、先に述べた通りです。

15)麻疹
麻疹は俗にはしかと呼ばれます。50年代は麻疹による死亡が年間数千人ありました。私の妹も47年に8歳で麻疹に罹り、3日後に死亡しました。私が開業した70年代には、その数は数百人に減っていましたが、これは66年から麻疹ワクチンの接種が始まったことも大きく関係しています。このワクチンはKL法という不活化ワクチンと生ワクチンを併用するやり方でしたが、これによる異型麻疹の発生が問題となったため、69年から生ワクチン単独接種となり、78年から定期接種に組み込まれました。これによって、麻疹の発生は激減し、死亡者数も年間20名前後まで激減しています。そうは言っても、麻疹が、こどもの普通に罹る病気の中で、今でも一番重篤な病気であることに変わりはありません。

開業した当初に不明熱、不明疹の病気に困惑して、大学病院へ紹介したら、それが異型麻疹であったことは先に書きました。KL法が中止となり、生ワク単独になってからも、ワクチン接種後に高熱の出るケースが多く、あまりの高熱に救急車で運ばれることも珍しくなかったほどです。しかし、最近は生ワクチンが改良され、高熱の出る副反応も激減して、使いやすい予防接種になっています。

本年(06年)4月からは、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を1歳〜2歳までに1回、5歳〜7歳までにもう1回の合計2回接種することに変更されました。これで米国と同じ接種回数となり、麻疹や風疹の発生が減って、麻疹風疹輸出国の汚名を返上できることが期待されています。それと同時に、麻疹や風疹という病気を診たことがない医師も増えることでしょう。

この病気は、最初に高熱、激しい咳、Koplik斑があり、それに続いて顔面とくに頬部から発疹が出て、全身に広がり、発疹は融合して行くのが特徴です。息子が麻疹に罹った時、見舞いに来てくれた祖父母が息子を見て、「あそこにいる子、どこの子?」と尋ねたくらい顔つきが変わっていたのを思い出します。

16)百日咳
最初に百日咳を経験したのは77年7月で、3歳の男児でした。78年には1歳の女児、79年には3歳の男児を紹介しました。「小児紹介疾病統計」では以上3名ですが、それ以外にも小児科を標榜していない当院に、かなり多くの百日咳の患者さんが来られました。特徴のある「コン、コン、コン、ヒュー」の咳と、腫れぼったい顔で診断はしやすく、血液検査で白血球数15,000以上、リンパ球70%以上、CRP陰性、の診断基準でほぼ確定していました。

薬はマクロライド系を使うことになっていて、診断、治療も難しくはないのですが、治療効果の出るのがかなり遅く、顔を真っ赤にして激しく咳き込む子どもを見ると、本当に可哀そうでした。その咳が完全に治まるのは、治療を開始して2〜3ヶ月は続くので、100日咳とはよく言ったものだと思ったことを覚えています。

この特徴ある咳を、診察中カセットテープに録音をして、患者さんの説明に使っていましたが、ある時に間違って消去してしまい残っていません。残念です。また、咳をしている特徴的な顔をポラロイド写真に撮らせてもらいましたが、それは今も残っています。次の機会に「疾病図譜」としてまとめる際に、この写真も入れるつもりです。

この百日咳では、予防接種の威力をまざまざと思い知らされました。と言うのは、三種混合ワクチン(三混、DPT)に含まれている百日咳ワクチンにより、脳症などの重大な副作用で死亡する者が出たので、75年から百日咳ワクチンを含む予防接種が中止となり、百日咳ワクチンを除いた二種混合ワクチン(二混、DT)に変更されました。

そうすると、百日咳の患者がどんどん増えて、それまでの数10倍となり、この病気で死亡する患者も2〜30名になりました。二混に変えたことにより百日咳に罹患して死亡するこどもの方が、三混の副作用によって死亡するこどもよりもはるかに多くなったのです。そこで、81年から改良された百日咳ワクチンを含む三混が再開され、百日咳は激減しました。当院でも百日咳の診療を行なったのは77年から80年に集中しています。

17)EBウイルス感染症
咽頭痛を伴った発熱というのは、小児の病気で一番ポピュラーな症状ですが、これに加えて、頚部のリンパ節が多数、大きく腫れているので、血液検査をしてみると異型リンパ球が見られました。それまで異型リンパ球の増えている検査データを経験したことがなかったので、重篤な病気かもしれないと思って紹介したら、伝染性単核症で、それほど心配する病気ではないことが分かりました。これが実際にEBウイルス感染症を診た最初でした。

この経験から、頚部リンパ節の触診が大切なこと、リンパ節腫大があれば血液検査で白血球の分類を見る必要があることを学びました。そして、1)3歳までに90%以上がこのEBウイルスの初感染を受けるが、そのほとんどが症状の出ない不顕性感染に終わること、2)学童期を過ぎてからの初感染では、伝染性単核症を発症しやすくなること、3)このウイルスは健康な人の咽頭からも10〜20%の頻度で検出されること、4)EBウイルス感染症にアンピシリンを使用すると非常に薬疹が出やすいので、この病気が疑われた場合にはアンピシリンを使ってはいけいないことなどを医学書で学びました。

EBウイルスはほとんどの人が幼児期までに感染し、健康な人の口の中に常在するウイルスであるのにも関わらず、よく知らなかったことが強く印象に残っています。

18)卵巣腫瘍
成人女性は下腹部の異常を感じたら、最初から婦人科を受診するのが普通でしょう。しかし、高校生までは内科開業医を受診することも多く、卵巣腫瘍の患者4名を紹介しました。その内の3名は卵巣嚢腫で、11歳、16歳、18歳で、すべて摘出術を受けました。もう一人の17歳の女子高生は卵巣癌で根治術を受けましたが、その後結婚し、こどもの母親としてときどき来院されています。もうすっかりお母さんが板につき、当時のことを思うと感慨を覚えます。いずれも触診で下腹部に腫瘤を触れ、卵巣腫瘍の疑いで紹介したのでした。


<2006.4.16.>

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