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勤務マニュアル

2004.04.25. 掲載
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目次
 1.野村医院勤務マニュアル改訂第8版の紹介
 2.野村医院勤務マニュアルの目次
 3.勤務マニュアル作成法の変遷
 4.マニュアルの意義
 5.マニュアルと私
 6.マニュアルの限界と対策
 7.まとめ


1.野村医院勤務マニュアル改訂第8版の紹介


今から21年前、開業10年目にあたる83年から、「野村医院勤務マニュアル」を作り、以来新規採用の職員の教育に使って来ました。今回、その改訂第8版を作成しましたので、簡単にご紹介しておきます。

野村医院勤務マニュアルの第1版は、1983年3月1日に作りました。開業10年目に入った記念に作ったというよりは、新しく雇用した事務員に、勤務内容を把握してもらうためでした。それまでの新人教育は、妻が行ってきましたが、その頃、義母が大腸癌で入院し、手術を受けたため、妻が手をとって教育することはできなくなりました。

そこで、勤務マニュアルを作り、これに従って、一通りの勤務内容を把握してもらい、勤務の途中で分からないことがあれば、これを参照してもらうようにしたのです。今、手許に残っているマニュアルの初版は、B5版の手書き原稿43枚を複写して綴じたもので、手にしてみるといかにも見苦しい代物です。

1991年11月11日の改定第5版から、パソコンでワープロを使って印刷するようになり、格段に見栄えが良くなっただけでなく、原稿をデジタルデータとして持つため、それ以降の改訂版の制作が、飛躍的に容易になり、第6版、第7版まで作って参りました。

マニュアルは、新しく事務職員を採用する度に、現状に即応した改訂版を作り、それに従って、妻が新人教育を行ってきたのですが、1997年5月26日の改訂第7版が最後になりました。それは、このすぐ後に3名を新しく採用したので、補足説明を付けるだけで、間に合ったからです。

今月、5年ぶりに新人を採用することになったので、改訂第8版を作ることにしました。レセコンの機種が昨年から変わったこと、健康保険の診療報酬の請求の仕方が、この5年間で目まぐるしく変わったことから、今回の改訂では大幅な変更を余儀なくされました。

今回の改訂第8版から、サイズを大きくしてB5版をA4版に変更しました。ページ数は86で、04年4月16日に制作を終えました。このマニュアルは、医院勤務の基本からはじまり、雑務で終わる10項目で構成されています。なお、「医院勤務の基本」は、 職員に求めてきたこと−医院勤務の基本−として、既にこのサイトに掲載しています。また、「医院勤務者のことばづかい」は、近く掲載する予定です。それ以外の項目については、目次で概略をお知らせ致します。


2.野村医院勤務マニュアルの目次

  I.  医院勤務の基本
  II. 医院勤務者のことばづかい
  III.受付業務
  IV. カルテを分かりやすくする工夫
  V.  投薬
  VI. レセコン使用法
  VII.会計業務
  VII.各種検査
  IX. 予防接種
  X.  雑務

              目  次
  I.  医院勤務の基本
       1.患者さんの身になる−−−−−−−−−−−−1
       2.正確に−−−−−−−−−−−−−−−−−−1
       3.臨機応変に、要領良く−−−−−−−−−−−2
       4.患者さんの秘密を守る−−−−−−−−−−−2
       5.医療従事者間の協調−−−−−−−−−−−−2

  II. 医院勤務者のことばづかい
       1.はじめに−−−−−−−−−−−−−−−−−3
       2.敬語−−−−−−−−−−−−−−−−−−−3
       3.正確に−−−−−−−−−−−−−−−−−−8
       4.言葉に微笑みを−−−−−−−−−−−−−−8
       5.笑顔を作ろう−−−−−−−−−−−−−−−8
       6.返事は顔を見て−−−−−−−−−−−−−−8
       7.言葉を出し惜しまない−−−−−−−−−−−8
       8.説明は具体的に−−−−−−−−−−−−−−9
       9.分かりやすい言葉で−−−−−−−−−−−−9
      10.おわりに−−−−−−−−−−−−−−−−−9

  III.受付業務
    A.基本的なこと−−−−−−−−−−−−−−−−−10
       1.窓口は当院の顔−−−−−−−−−−−−−10
       2.適材適所の作業分担−−−−−−−−−−−10
       3.気配り−−−−−−−−−−−−−−−−−10
       4.保険証−−−−−−−−−−−−−−−−−10
       5.電話−−−−−−−−−−−−−−−−−−10
       6.優先順位−−−−−−−−−−−−−−−−10
    B.点検済みカルテの収納−−−−−−−−−−−−−11
    C.最初の応対−−−−−−−−−−−−−−−−−−11
       1.新患、旧患の確認−−−−−−−−−−−−11
       2.予約−−−−−−−−−−−−−−−−−−11
    D.新患への応対−−−−−−−−−−−−−−−−−11
       1.番号札を渡す−−−−−−−−−−−−−−11
       2.申込用紙に記入−−−−−−−−−−−−−11
       3.患者ID番号の決定−−−−−−−−−−−12
       4.保険証、等を預かる−−−−−−−−−−−13
       5.カルテ台帳カードに記入−−−−−−−−−13
       6.カルテ台帳カードの収納−−−−−−−−−14
       7.診察券の作成−−−−−−−−−−−−−−14
       8.カルテの作成−−−−−−−−−−−−−−15
       9.新患名簿に申込用紙を収納−−−−−−−−24
    E.旧患への応対−−−−−−−−−−−−−−−−−24
       1.診察券を受け取る−−−−−−−−−−−−24
       2.保管場所からカルテを取り出す−−−−−−25
       3.カルテの作り替え−−−−−−−−−−−−27
       4.仮カルテ番号をつける−−−−−−−−−−28
       5.診察券の作成−−−−−−−−−−−−−−28
       6.投薬のみの場合の問診−−−−−−−−−−28
       7.番号札を渡す−−−−−−−−−−−−−−30
    F.保険証、医療証、診察券の取扱い−−−−−−−−30
       1.保険証(被保険者証、組合員証)−−−−−30
       2.医療証、受給者証−−−−−−−−−−−−30
       3.診察券−−−−−−−−−−−−−−−−−31
    G.受付と診察机の間のカルテ転送−−−−−−−−−31
    H.受付机に座る者の仕事−−−−−−−−−−−−−31

  IV. カルテを分かりやすくする工夫
    A.カルテ表紙上部の略号−−−−−−−−−−−−−32
    B.診療内容の略号−−−−−−−−−−−−−−−−32
    C.病名略号−−−−−−−−−−−−−−−−−−−38
    D.診察机上のカルテの分類−−−−−−−−−−−−39

  V.  投薬
       1.薬剤グループのシンボル・カラー−−−−−40
       2.薬の略名−−−−−−−−−−−−−−−−40
       3.薬剤保管場所−−−−−−−−−−−−−−40
       4.薬を間違えないための注意−−−−−−−−41
       5.薬袋−−−−−−−−−−−−−−−−−−42
       6.薬の説明−−−−−−−−−−−−−−−−43
       7.自動分包機使用上の注意−−−−−−−−−44

  VI. レセコン使用法
    A.レセコン使用の要点−−−−−−−−−−−−−−45
       1.入力時に必ず画面を見る−−−−−−−−−45
       2.テン・キー操作になれる−−−−−−−−−45
       3.患者番号の正確な入力が最も重要−−−−−45
       4.レセコン入力後サインをする−−−−−−−45
       5.優先順位を考える−−−−−−−−−−−−45
       6.数値入力のまとめ−−−−−−−−−−−−45
       7.年月日の入力−−−−−−−−−−−−−−45
       8.上書きモード−−−−−−−−−−−−−−45
    B.レセコン入力装置−−−−−−−−−−−−−−−46
       1.TP(タッチパネル)−−−−−−−−−−47
       2.テンキー周辺キー−−−−−−−−−−−−47
       3.ファンクション・キー−−−−−−−−−−49
    C.患者登録−−−−−−−−−−−−−−−−−−−49
       1.患者番号入力−−−−−−−−−−−−−−50
       2.フリガナ−−−−−−−−−−−−−−−−50
       3.生年月日−−−−−−−−−−−−−−−−52
       4.性別−−−−−−−−−−−−−−−−−−52
       5.保険者番号−−−−−−−−−−−−−−−52
       6.記号・番号−−−−−−−−−−−−−−−52
       7.本人家族−−−−−−−−−−−−−−−−53
       8.継続−−−−−−−−−−−−−−−−−−53
       9.外来−−−−−−−−−−−−−−−−−−53
      10.負担者番号−−−−−−−−−−−−−−−53
      11.優待コード−−−−−−−−−−−−−−−53
      12.負担区分−−−−−−−−−−−−−−−−53
      13.窓口負担 外来−−−−−−−−−−−−−53
      14.カルテNo−−−−−−−−−−−−−−−54
      15.地域コード−−−−−−−−−−−−−−−54
      16.終了−−−−−−−−−−−−−−−−−−54
      17.修正−−−−−−−−−−−−−−−−−−54
      18.取消−−−−−−−−−−−−−−−−−−54
      19.保険の変更−−−−−−−−−−−−−−−54
      20.特殊な方法−−−−−−−−−−−−−−−55
    D.外来会計−−−−−−−−−−−−−−−−−−−55
       1.診療内容の入力−−−−−−−−−−−−−55
       2.窓口計算終了後の訂正−−−−−−−−−−61
       3.指定月日の診療データの検索−−−−−−−65
       4.指定月の全診療データの検索−−−−−−−65
       5.当月診療の有無−−−−−−−−−−−−−66
       6.外来会計窓口日付の変更−−−−−−−−−66
       7.外来会計を中断する方法−−−−−−−−−66
    E.病名登録−−−−−−−−−−−−−−−−−−−66
       1.病名登録画面−−−−−−−−−−−−−−66
       2.病名の入力−−−−−−−−−−−−−−−67
       3.ワープロ病名−−−−−−−−−−−−−−67
       4.開始日の入力−−−−−−−−−−−−−−67
       5.主病名の設定−−−−−−−−−−−−−−67
       6.転帰の入力−−−−−−−−−−−−−−−68
       7.削除の方法−−−−−−−−−−−−−−−68
       8.開始日の変更−−−−−−−−−−−−−−69
       9.終了−−−−−−−−−−−−−−−−−−69
    F.患者同時処理−−−−−−−−−−−−−−−−−69
    G.入力優先順位−−−−−−−−−−−−−−−−−69
    H.サインのしかた(まとめ)−−−−−−−−−−−69
       1.患者頭書き入力−−−−−−−−−−−−−69
       2.病名の入力−−−−−−−−−−−−−−−70
       3.診療内容の入力−−−−−−−−−−−−−71
    I.入力用カルテの置き場所−−−−−−−−−−−−71
       1.机上CRTの横−−−−−−−−−−−−−71
       2.左足元のケース−−−−−−−−−−−−−71
       3.右足元のケース−−−−−−−−−−−−−71
       4.レジスターの下−−−−−−−−−−−−−71
    J.患者検索−−−−−−−−−−−−−−−−−−−71
    H.病名略号−−−−−−−−−−−−−−−−−−−71
  
  VII.会計業務
    A.レジスターの使い方−−−−−−−−−−−−−−72
       1.キーの説明−−−−−−−−−−−−−−−72
       2.操作法−−−−−−−−−−−−−−−−−72
       3.レジスターに収めて置く金額と種類−−−−73
    B.自費台帳、未収金台帳の記入−−−−−−−−−−74
       1.自費台帳−−−−−−−−−−−−−−−−74
       2.未収金台帳−−−−−−−−−−−−−−−75

  VII.各種検査
    A.X線検査−−−−−−−−−−−−−−−−−−−76
       1.自現の始動−−−−−−−−−−−−−−−76
       2.自現の終了−−−−−−−−−−−−−−−76
       3.X線撮影の介助−−−−−−−−−−−−−76
       4.現像(暗室内作業)−−−−−−−−−−−77
       5.異常事態発生時の対応−−−−−−−−−−78
       6.撮影済みフィルムの管理−−−−−−−−−78
    B.そのほかの検査−−−−−−−−−−−−−−−−79
       1.身長体重測定−−−−−−−−−−−−−−79
       2.視力色神検査−−−−−−−−−−−−−−79
       3.聴力検査−−−−−−−−−−−−−−−−79
       4.尿検査(クリニテック50)−−−−−−−79
       5.心電図検査−−−−−−−−−−−−−−−80
       6.胃X線検査(胃透視)−−−−−−−−−−81
       7.血糖、コレステロール            
         トリグリを含む検査−−−−−−−−−−−81
       8.エコー、ホルター、負荷心電図−−−−−−81
         眼底カメラ、肺機能検査−−−−−−−−−81
       9.その他の検査−−−−−−−−−−−−−−81
      10.自宅で採取する検体の容器−−−−−−−−81
    C.検診−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−82
       1.市民検診−−−−−−−−−−−−−−−−82
       2.人間ドック的検診−−−−−−−−−−−−82
    D.予約検査の書き込み−−−−−−−−−−−−−−83
    E.検査結果の判明時期−−−−−−−−−−−−−−83
       1.当院での検査−−−−−−−−−−−−−−83
       2.検査センター依頼分−−−−−−−−−−−83

  IX. 予防接種
       1.当院で行う予防接種の予約−−−−−−−−83
       2.当院で行う予防接種の対象−−−−−−−−83
       3.当院で行う予防接種の間隔−−−−−−−−84

  X.  雑務
    A.早出の仕事−−−−−−−−−−−−−−−−−−84
    B.勤務終了時の仕事−−−−−−−−−−−−−−−84
       1.患者数と診察患者数の記入−−−−−−−−84
       2.レジスターの電源OFF−−−−−−−−−85
       3.医療機器電源OFF−−−−−−−−−−−85
    C.診療関係備品の点検補充−−−−−−−−−−−−85
    D.分担責任者を決めている項目−−−−−−−−−−85
       1.薬品の点検補充−−−−−−−−−−−−−85
       2.カルテの保管−−−−−−−−−−−−−−85
       3.X線フィルムの保管−−−−−−−−−−−85
       4.オートクレーブの整備−−−−−−−−−−85

   あとがき−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−86

3.勤務マニュアル作成法の変遷


私は来年4月より現役を引退し、息子に野村医院の診療を引き継ぐことにしています。そこで、このマニュアル作成は本来の新人教育用のほかに、自分の30年間の開業生活のまとめの一つにしようと考えました。私が作る野村医院勤務マニュアルの最終版ができたところで、現存する旧のマニュアルを取り出して比べてみると、そのまま技術革新の変遷を見る思いがします。

            制作の履歴
1983年 3月 1日 第1版初版 B5版 43頁 手書き原版からコピー(現存)
1984年 7月 1日 改訂第2版 B5版 61頁 手書き原版からコピー(現存)
1984年12月 1日 改訂第3版 B5版 75頁 手書き原版からコピー(現存)
1984年12月 1日 改訂第4版 B5版 ??頁 手書き原版からコピー
1991年11月11日 改訂第5版 B5版 87頁 ワープロ原版からコピー(現存)
1995年12月17日 改訂第6版 B5版 94頁 ワープロ原版からコピー(現存)
1997年 5月26日 改訂第7版 B5版 94頁 ワープロ原版からコピー(現存)

初版から第4版までは、B4用紙に鉛筆で手書きをし、それをコピー機で複写して、ホッチギスで綴じる方法で作りました。鉛筆書きでも、コピー機を通すと見た目が良くなります。コピー機は、開業当初から持っていて、これはその活用例の一つです。第2版から、丈夫な紙で表紙をつけるようになりました。

第5版から、パソコンのワープロで原版を作るようになりました。パソコンを使い出して既に6年が過ぎていましたが、アウトラインフォントを使えるワープロソフトはなく、「一太郎」で印刷しました。だから、フォントは24×24の固定ドットフォントで、大きな文字はその倍角(全角文字の縦または横2倍)、4倍角(縦2倍角×横2倍角)に引き伸ばした拡大文字であり、サイズも12ポイント、24ポイントに固定されていて、美しい文字ではありません。自家製本の方法は、ホッチギスで綴じた背の部分を製本テープで隠すことにしたため、見栄えがよくなりました。

第6版からは「Word Perfect」というDOSマシーンでは唯一アウトラインフォントの使えるワープロソフトを使うようになり、文字は飛躍的に美しくなり、サイズも自由に設定できるようになりました。

そして、今回の第8版はWindowsマシーンで多種類のアウトラインフォントが使えるようになり、用紙をこれまでのB5版からA4版に変更しました。また、製本の方法も、ホッチギスで綴じるのを止め、コクヨの糊付け製本機(パーソナル製本機)を使うことで、より簡単に、より美しく製本ができるようになりました。

このように、マニュアル制作の履歴を振返ってみると、技術の進歩の跡がそれぞれに残されていて、面白いものです。


4.マニュアルの意義


職員教育用に、このような詳しいマニュアルを作っている医療機関は少ないでしょう。よくやるなあと呆れられたり、労多くして効少なしとけなされたり、医療はマニュアル通りには行かないと。批判されるかもしれません。そういう欠点も少しはあるかもしれませんが、それを大幅に上回るメリットがあることを、21年間の経験から申上げることができます。

1.医院勤務について私自身の理解が深まる
医院勤務のためのマニュアルを書くには、書く本人が医院勤務についてよく理解していなければなりません。例えば、レセコンなどの使い方や操作法も、自分で、そのステップを実際に試してみて、誰もが簡単で間違いの起こし難いやり方を選ぶ作業を重ねる間に理解も進みます。そして、書くことにより、見落としていたことや誤りが見つかり、新たな目標や方法を思いつくこともあります。だから、マニュアルを書くことは、まず自分のためであるのです。

2.思考の節約になる
私は頭が単純なせいか、複雑なことを自分の頭で理解できるように単純化して理解しようとする、習性があります。そして、そのために苦労することや、それに時間をとられることを厭いません。それは、その成果を次から同じような問題の解決に利用できるからです。次からは楽になるように、しんどい目をする、転んでもただでは起きない、というのが私の生き方の一つの特徴です。

マニュアル化できることを記録せずにいると、しばらく時間が過ぎて、同じ問題に対処する時に、私のような貧弱な記憶力では、また、最初からやり直さなければならない場合が多々あります。そのために頭を使い、時間を使うことに対して、私は非常に吝嗇で、まったく無駄なことをしていると、腹立たしく思ってしまいます。そこで、マニュアル化することによって、思考を節約し、無駄な時間を減らす効果を求めているのです。

3.ルーティーン化している業務を、間違いなく行うのに役立つ
医院の業務には、ルーティーン化しているものがかなりあります。それには、マニュアル通りに、誰もが同じやり方で対処するのが間違いが少なく、効率が良いので、患者の不満を少なくし、無益な待ち時間を減らせます。

4.新しく採用した職員の教育用テキスト
これまで新規に職員を採用する度に、その時点での最新情報に書き換えた野村医院勤務マニュアル改訂版を作ってきました。これをテキストにしながら、妻が実際に業務内容を新人に教えます。実地に手をとって教えてもらいながら覚えるのが一番身に付く方法ですが、多くのことを一度に覚えてもすぐに忘れてしまうものです。

それを家に帰って復習する、あるいは、翌日教えてもらう箇所を予習しておくのにこのテキストは有用です。新人の間は業務を早くマスターしようという熱意が高く、テキストを一番よく読んでくれるようです。

教える側としても、テキストに従って教育していくので、どれだけのことを教えたかが分かり、教え損なうことが少なくて便利です。

5.職員の誰もが同じレベルの知識と技能を身につけることに役立つ
現在の職員は、誰もがこの野村医院勤務マニュアルで、新人教育を受けてきました。採用後の諸々の変更には、口頭または文書で対応の仕方を知らせてあります。だから、新人用の野村医院勤務マニュアルの内容は、職員が熟知していることばかりです。

当院では、職員は誰もが、同じように、全ての医院業務を行うことができることを方針にしてきました。だから、誰もがレセコンを操作できるし、尿検査も、レジも使えます。手の空いている者が、必要な業務を行うわけです。その点で、このマニュアルには、職員の行う全ての業務が、実際に即して書いてあるので、知識と技能を同じ水準に保つ効果があります。

6.記憶の不確かな業務を再確認するのに役立つ
日常の診療で稀にしか遭遇しないケースの場合、対処法を忘れていたり、不確かで自信がないことも起こり得ます。そういう時に、このマニュアルを辞書的に使って活用しているようです。

7.自分が作ったものを、使ってもらいたいという欲求が満たされる
私は何かを作ることが好きです。その作品を使ってもらうのも、どちらかと言えば好きです。また、教えてもらうのは嫌いですが、教えるのは好きな方です。マニュアルを作ることで、そのような欲求も満たされる効果があります。


5.マニュアルと私


マニュアルは昔からよく作ってきました。3年ばかり前に、大学にいた頃、一緒に働いた看護師が来院された時に、私が作った「レスピレータの使用法」を今も使っていると聞かされ、驚いたことがあります。それを書いたのは70年ころのことで、今から30年以上も前の話です。彼女はその時も今も、大学病院の婦長をしています。彼女自身がこのマニュアルを、今でも参考にしているということでしょうが、いささか嬉しく思いました。

そのマニュアルを書庫から探し出してみると、タイトルは「圧規制型レスピレーター 使い方の実際 −特にバードマーク8、マーク7型 及びベネットR−2型について−」で、B4版74ページ、手書き原稿のデュプロ印刷です。面白いことに、これにも「勤務マニュアル」と同じような形式で、目次をつけています。昔からすることがまったく変わっていないのに苦笑するばかりです。下手な手書きの模式図が26も付いていました。このように、好きなことなら、苦労を厭わずやるというところも、今と変わっていません。

 圧規制型レスピレーター 使い方の実際 
 −特にバードマーク8、マーク7型 及びベネットR−2型について−

   目 次
  I. はじめに
  II.バード型レスピレーター
    1.外観 2.使用手順 3.分解と消毒
    4.組立 5.内部構造と機能 6.サーキット
  III.ベネット型レスピレーター
    1.外観 2.使用手順 3.分解と消毒
    4.組立 5.内部構造と機能
  IV.レスピレーターの適応
  V. 使用上の原則
  VI.生体に対する影響と合併症
  VII.中止の時期
  VII.参考文献とその概説

6.マニュアルの限界と対策

1.適切でないマニュアル
マニュアルというものは、業務を実行するのに必要な最低限の知識や技能の習得に役立つ内容が、分かり易く書かれていなければなりません。適切でないマニュアルは、マニュアルの体裁をしていてもマニュアルの機能をを果たさない有害無益な代物となります。

適切なマニュアルであるためには、マニュアルを作る人が、業務をよく理解している上に、それを分かり易く表現できなければなりません。また、問題があれば、再検討して、現状に即するように改訂する努力も必要となります。

2.マニュアルの手順の目的が理解できていない
マニュアルに書かれた手順ばかりを遵守して、その手順の目的が理解できていなかったり、その手順のもとになる理屈が分かっていなければ、応用動作ができず、業務に支障をきたすことがあります。できるだけ、手順の目的や理屈を理解してもらうようにこころがけています。

3.ことばで言い表せないことはマニュアルには書けない
医院の業務には、ことばで言い表せない微妙な部分が多くあります。しかし、ことばで表現できないものはマニュアルには書くことはできません。この微妙な部分を理解して身に付けるには、医院業務の基本的なことがらを把握するほか、他の人をよく観察し、そこから良い点悪い点を学ぶなども有効だと思います。

野村医院勤務マニュアルには、初版から「 医院勤務の基本」「医院勤務者のことばづかい」を載せてきました。これは手順ではなく、したがって厳密にはマニュアルではありません。それでも、マニュアルの根本にある医院業務の目標を身に付けてもらうために掲げて来たのでした。

4.マニュアルは必要条件であるが充分条件ではない
マニュアルは、業務に必要な最低限の知識や技能が書かれているものだという認識が必要です。必要条件ではあるが充分条件ではないことを心得ていなければなりません。一旦マニュアルの手順を身につけたら、あとはマニュアルを離れ、自由にマニュアルに書けない部分を体得し、業務に従事することが肝要です。マニュアルは新しく学ぶ時期に重要ですが、そのあとは、忘れてしまった手順を確かめる場合の辞書代わりの存在で良いと思っています。


7.まとめ

「野村医院勤務マニュアル」の改訂第8版を作成したので、その紹介をするつもりだったのですが、「マニュアル」というものに対する私見を述べるところへ話は進んでしまいました。マスコミなどが「マニュアル人間」を侮蔑的に述べるのが流行のようです。しかし、それは「マニュアル」というものを表面的、観念的にとらえて、その本来のあるべき使い方、功罪、限界などを無視した乱暴な議論だと思います。

「心に生きることば」で、自分の生き方の総まとめをしたと思っていましたが、この「マニュアル作り」を含めて、まだまだ抜けているところがありそうです。いつか、この追補版を出したいものだと思っています。


<2004.4.25.>

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