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脳優勢度調査と脳科学


2008.06.18. 掲載
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メールマガジンで、ハーマン脳優勢度調査(Herrmann Brain Dominance Instrument)というものを知り、私と妻で試してみると、面白い結果が出た。私は右の大脳新皮質(D)が一番優勢で、右の大脳辺縁系(C)もそれに近いが、左の大脳新皮質(A)は劣る。妻は正反対で、左の大脳新皮質(A)と左の大脳辺縁系(B)が優勢で、右の大脳辺縁系(C)が一番劣勢だった。違うところの多い夫婦だが、このように表示されるとそれはそれで愉快になる。


私の脳優勢度調査(簡易版)


妻の脳優勢度調査(簡易版)

この調査は企業の個人や組織の思考様式を定量化し、個人の能力開発や組織の創造性開発を支援する目的で、アメリカGE社のハーマン氏によって開発された。

私は質的なものや、定量化しにくいものもできるだけ定量的に表すように心がけてきた。また、自分は右脳優位なのではないかと常々思ってきた。その右脳左脳判定法だが、いろいろあるにはあるが、そのほとんどが遊びのようで信頼性に欠けている。このハーマン脳優勢度調査で、はじめてその結果に納得した。

この調査は、スペリーの右脳・左脳モデルという脳科学の学説とマクリーンの三位一体型脳モデルを組み合わせて、人間の脳を、左の大脳新皮質(A)、左の大脳辺縁系(B)、右の大脳辺縁系(C)、右の大脳新皮質(D)の4つに分ける仮説で、これを全脳モデルと呼んでいる。

<A象限>左側の大脳新皮質 <D象限>右側の大脳新皮質
問題解決者 理念先行型
数学的 総合的
技術的 想像力豊か
分析的 全体的
論理的 芸術的
   
<B象限>左側の大脳辺縁系 <C象限>右側の大脳辺縁系
計画者 話好き
感情抑制できる 音楽好き
保守的 精神的
組織的 感情的
管理的 対人的


●ハーマン脳優勢度調査の理論に対する疑問
左脳右脳については、大脳皮質の左右半球での働きの違いは知っていたが、マクリーンの三位一体型脳モデルについては、ここで始めて知った。大脳辺縁系にも左右の違いがあるとして、ハーマン脳優勢度調査は全脳モデルなるものを作っているが、それは正しいのだろうかという疑問がすぐに浮かんだ。

私は脳について興味があり、古いところでは1978年刊の角田忠信著「日本人の脳」、1982年刊の久保田競著「手と脳」から、最近の池谷裕二氏、茂木健一郎氏の著書まで14冊を持っている。これらを調べたり、Web検索をしてみたが、大脳辺縁系に左右の違いを書いたものは見つけられなかった。

旭屋本店で最新の脳に関する書籍を2冊購入、アマゾンでマクリーンの三位一体型脳モデルの原著「三つの脳の進化」と、ルドゥーの「エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学」を購入して調べてみたが、やはり大脳辺縁系の左右の違いが書かれた個所を見つけることができなかった。

こうなると、左脳右脳について、このハーマン脳優勢度調査の全脳モデルにも疑問が出てくるのは当然だろう。

左脳は言語脳とも言われ、論理的、理性、部分的、直列処理をつかさどる。物事に対して、現実的、論理的、事実的、分析的(本来の要素に細分化)に考える。一方、右脳は、イメージ脳とも言われ、直観的、感性、全体的、並列処理をつかさどる。物事や人について直感的に考え、現実的よりも理想や想像などを交え、感覚的に捉えるというのだが、どこまで正しいのか?

大脳辺縁系と同じように、手持ちの書籍、Web検索を行なったところ、「理論的なものは左脳の役割が大きく、感覚的なものは右脳の役割が大きい」程度までしか分かっていないということを知った。

スペリーが二つの脳半球はそれぞれ独立した意識を持っていることを実証した事実を歪曲したり、拡大解釈して世間に広がり、日本では通俗的な右脳・左脳論ブームが生まれている。このブームに乗って、専門家でないものが書いたいい加減な内容の本が多く見られ、研究に基づかない「ありそうな話」をTVで話している「えせ脳学者」がいることを悲しみ、心を傷めている専門家がいる。さらには、脳開発という名目で金儲けにまで利用されているようだ。

結論として、左右の大脳新皮質のはたらきには、一般に言われているような傾向はあるとしても、それほど確定的ではないというのが、現在の脳科学の教えるところのようだ。大脳辺縁系については、マクリーンの著書を含めて、調べた範囲ではそのような知見を発見できなかった。だから、これはハーマンが考え出しただけのもので、脳科学の成果とは関係ないと思われる。


●ハーマン脳優勢度調査に対する私の評価
ハーマン脳優勢度調査の理論について疑問を書いたが、それは脳科学の正しい援用でないことに対してで、これを人間の思考と行動のパターン分類とするなら、非常に興味深く、単純明快で、有用であると思う。GEやIBMなどの大企業が採用したのも、この使い方次第で大きな成果が得られるからだろう。パーソナリティーの分類としても、クレッチマーやユングなどの分類よりもはるかに実用的実践的で優れていると思う。

●ハーマン脳優勢度調査に対する感謝
このハーマン脳優勢度調査を知り、そこから脳科学の現状について少し理解ができた。その中でも学生のころから関心があったフロイトの無意識の解明に脳科学が少しだけ踏み込み始めていることを知ったのが嬉しい。

●私が試した脳優勢度調査のサイト
私が試した脳優勢度調査のサイトは、Wisdom 〜ビジネスに役立つ「次の一手」をあなたに「利き脳」をチェック!〜ハーマンモデル新シリーズ (6月16日)である。

ただし、Wisdomメンバーズ登録(無料)をしなければ、本文を読むことはできない。


<2008.6.18.>

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