「tokyo missindustry」(菊地玄摩(きくち・はるま)監督)は、確かな表現力で日本の現在を刻み付けている。ここから、新しい映像が生み出されていくという予感がする。
「キオクノマバタキ」(田村愛監督)には、まぎれもなく魅力的な個性が息づいている。アニメのたゆたうような少し怖いような秀抜な世界に引き込まれる。
「短編ドカンノンストップ☆ファイブパッチ」(田中見和監督)は、少女マンガのセンスをショートムービーに持ち込んだ感じ。波はあるが才能を感じる。「米〈シャリシャリ〉」(柏尾和直監督)は、まさに鬼才というインパクトがある。イマジネーションの広がりが非凡で、それを表現する力量を備えている。
「CINEMAN vol.1&vol.2」(小川陽監督)は、軽めのCGギャグ。「その角をひとまがり」(松永芳郎監督)は、愛くるしい女性の表情を生かした気持ちの良い作品。「高崎観光ビデオ」(村上賢司監督)は、安心させておいて、いきなり危ない世界に連れていってしまう。その手際が鮮やか。「僕らのスーパーマン」(比木暁監督)は、今の希薄な空気をとらえている。
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「La Vis」(Didier Flamand監督、18分)。ジャン・レノ主演。どこの国の言葉でもない創造した言語で話している。創作言語の巧さについては理解できないが、どこにもない国を描こうとしていることは分かる。しかしながら、意図したものかどうか、そのセンスがどこか古風に感じられる。
「Trait d'Union」(Bruno Carcia監督、12分42秒)。心臓発作で倒れた父親に、青年が自分の心臓をプレゼントしようと自殺する。私自身、リアリティーを感じない。逆ならあり得ると思う。しかし、父親を救うために自殺して自分の心臓を提供しようとする息子がいるとは思えない。私の想像力不足か。
「Le Puits」(Jerome Boulbes監督、8分21秒)。クレルモンフェラン短編映画祭で最優秀アニメーション賞受賞作品。きつねのような動物が、大きな気泡につかまり井戸を上に登っていく。北欧風のタッチだが、質感がとても良い。
「Compromise」(Sebastien Sort監督、15分)。「妥協」というタイトルの映画を撮ろうと監督が、製作者や脚本家たちとの間に立って悩むストーリー。この題材も古風。しかし、モニカ・ベルッチが出ていて、得した気分になる。
「Hommage a Alfred Lepetit」(Jean Rousselot監督、8分40秒)。ベルリン映画祭短編部門金熊賞受賞作品。アルフレッド・ルプティという映画製作の裏方さんを表彰しようというフランスらしい視点の作品。有名な俳優や監督が参加していて、面白い。
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「THE BIG HOUSE」(Rachel Ward監督、オーストラリア)は、「カリブの熱い夜」出演女優レイチェル・ウォード監督作品。刑務所内での男たちの愛憎を描いた濃厚で骨太な作品。「Boobie Girl」(Brooke Keesling監督、アメリカ)は、大きな胸に憧れる少女をテーマにした、手作り感あふれるアニメ。インパクトはないが、微笑ましくて、ほっとする。
「The Last Question」(Franco Corrado監督、イタリア)は、「踊れトスカーナ!」のアレッサンドロ・アベール出演作品。非凡な能力を持った小説家と殺人者とのやりとり。しかし、設定に無理がある。「synchro」(Kristen Nutile監督、アメリカ)は、シンクロナイズド・スイミングの男性選手のドキュメンタリー。「ウオーターボーイズ」を見ている私たちにとっては、とても自然な姿に写る。
「Three Minutes of Torture」(Chris Morris監督、イギリス)は、拷問される娘の悲鳴を無理矢理聞かされる両親を描いた痛々しい作品。悲痛な思いが伝わってくる。後味の悪さ抜群。「The table is set」(Kenya Marquez監督、メキシコ)は、盗んだ豚に、食べる前に愛情が芽生えてしまった男の話。皮肉たっぷりなつくりに、にやりとしてしまう。エンドクレジットまで、豚に徹した遊びが生きている。
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「A Soccer Story」(Paulo Machline監督、ブラジル)。少年時代のストリートサッカーを懐かしむ老人。その頃の仲間には伝説の男ペレがいた。前半のためがやや長過ぎるものの、しみじみとした懐かしさが醸し出されている。「Verrouillage Central」(Genevieve Mersch監督、ルクセンブルグ)
彼氏のいないキャッシーの誕生日。ひがみながら、ふとしたことでカメが恋人に変身する。次々とカメを恋人に変えていくキャッシー。シュールな展開に続く、オチもセンスが良かった。
「Tsipa &Volf」(Daniel Gamburg監督、アメリカ)。年老いたユダヤ人移住者が思い出を語る。人間の記憶について、考えさせられる。「Glee」(Josselin Mahot監督、アメリカ)は、心地よい笑いを運ぶ。こちらの気持ちもバラ色に。「Passionless Moments」(ジェーン・カンピオンJane Campion監督、オーストラリア)を見て、カンピオン監督の初心を思い出した。そうなのだ。奇妙な思いつき、ちょっとした感情、すぐに忘れてしまう思いを丹念に拾い集めることから、監督はスタートした
のだった。
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「The Invention of Childhood」(Liliana Sulzbach監督、ブラジル) は、世界の子供達の置かれている環境と、大きな格差についてのドキュメンタリー。ただ、問題提起にとどまり、ラストの主張が弱い。「Cookies for Harry 」(Nicholas Peterson監督、アメリカ)は、5分間のブラックなコメディ。少し苦いが甘さもあるクッキーの味。
「Chicken」(Barry Dignam監督、アイルランド)。少年たちのちょっとした冒険を切り取ったもの。「Tall girl」(Amalia Zarranz監督、アメリカ)は、バスケットボールに打ち込む長身の女の子の恋をテーマにした。後半の展開は、いかにもありきたり。スポーツショートのセレクトは、点が甘いように思う。
「To Have and To Hold」(John Hardwick監督、イギリス)は、交通事故に遇った夫婦のシリアスきわまりないドラマ。冷えた視線が魅力。女優の演技が眼を見張るほど素晴らしい。手首をねじ切った時の音が忘れられない。「DOS MAS」(Elias Leon-Siminiani監督、スペイン)。夫の弟とのアバンチュール(死語?)から、ニューヨークの自由と孤独をめぐる考察へ。NYのようにつかみどころがない。
「PEEL」(ジェーン・カンピオン監督、オーストラリア)は、ドライブ中の小さな喧嘩。なんとも言えない齟齬感を描いた作品だ。
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「Bat City」(Bob Deaver監督、アメリカ)は、孤独なコウモリの物語。CGは標準的。バイオリンの美しい音色に聞き惚れているうちに終わってしまった。「the well」(Bayram Fazli監督、イラン)。井戸をほっている家族。乾き切った夢想が生々しい。
「GAVETTA」(Craig Bell監督、イタリア)は、戦争の中で生き抜く孤児をとらえた感動作なのかもしれないが、セットがわざとらしく、情緒に流れているのが気になる。「Jigsaw Venus」(Dean Kapsalis監督、アメリカ)は、怪作。ボッテチェルリの「ビーナスの誕生」のジクソーパズルを、とてもうまくつかったラブ・コメディ。女優の演技と重さに圧倒される。
「The Heisenberg Principle」(Christopher Jones監督、オーストラリア)も、不条理なドラマ。もう少しタメがほしい。「Schneider's 2nd Stage」(Phil Stoole監督、イギリス)は、16分ながら、サイコものとしては最高の出来。ケネス・ブラナーの演技も見事。映像の無気味さは、とても美しい。
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「Family Christmas」(Aruna Villiers/Fabienne Berthaud監督、フランス)は、無気味な作品だ。「ハリー、見知らぬ友人」のマチルド・セニエ出演作。「…のような出会いについて#1」(Yoshihiro Noda監督、日本)は、男女の運命的な出会いから、ラストのオチまで、自然に流れている。「Passengers」(Francine Zuckerman監督、カナダ) は、葬儀の日に回想する父の思い出。テーマは分かるのだが。
「There is no remedy」(Lorenza Manrique監督、メキシコ) は、単純なようで、いろいろと考えさせられる。「The Good Things」(Seth Wiley監督、アメリカ)は、「スタンド・バイ・ミー」のウィル・ウィートン主演作品。人生に迷う青年を描いているが、それほど鋭いとは思わない。
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「Judge Is God」(James Allen監督、アメリカ)は、判事の悲劇を扱いながら、皮肉なラストが効いている。「A Little Pet Story」(Gina Kamentsky監督、アメリカ)は、話すことを拒否した鳥と、座ることを拒否した犬をテーマにした小品。
「Lighthouse Keeper」(Kim Jun ki監督、韓国)は、情感溢れる韓国アニメーション。「Love Thy Brother」(Ralph Macchio監督、アメリカ)は、「ベストキッド」主演のラルフ・マッチオ監督作品。兄弟喧嘩と泥棒をからめたコメディー。「Grief」(Hadar Friedlich監督、イスラエル) は、一人息子を自殺で失った父の悲嘆の物語。タクシー運転手であることが、こんなに素敵なラストシーンのためだったとは。
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「The Flasher from Grindelwald」(Martin Guggisberg監督、スイス)は、コートの前をはだけて露出するという例の行為を扱った作品。下品だが、テンポが良いので不快ではない。本当の犯人が分かるラストは面白かった。「Remote Control」(Ivan Zikovic監督、クロアチア)は、1992 年のクロアチア戦争を舞台にしたサッカーもの。
「Silent Beats」(Jon M.Chu監督、アメリカ)は、偏見差別の問題をタップダンスに乗せて描くユニークな作品。なかなか緊迫。「Straight to One」(Ethan Hawke監督、アメリカ)は、イーサン・ホーク監督作品。愛していながら互いの距離感がつかめない新婚カップルを的確に描いている。
「Trip to Venice」(Christina Hadjicharalambous監督、ギリシャ/チェコ共和国) は、イタリアのべニスを目指す夫婦の珍道中。「Excercise Delta One」(Nigel Hendrickson監督、アメリカ)は、CGアニメの女性キャラクターを批判したCGアニメ。主張はもっとも。「tHE tOWeR oF BaBBLe」(Jeff Wadlow、アメリカ)は、同じセリフでも、全く違うドラマになることを示した佳作。言葉が何であるかを教えてくれる。
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ショート・ショート・フィルム フェスティバル2002札幌の前夜祭が、9日にEDiTで行われた。多彩な短編作品への期待を胸に、多くの人たちが参加、映画祭の成功を願った。
映画祭全体の説明の後、最も短い1分間の作品「There is no remedy」(メキシコ)を上映。フライになった魚を生き返らせようと水槽に入れる少女のたどたどしい呪文が印象的。映像も美しい。各プログラムからのセレクト作品の最初は「Glee」(アメリカ)。花束をプレゼントされた女性の舞い上がる思いを映像化したミュージカル仕立て。オチに爆笑した。「19 Peel Street」(カナダ)は、CGを使ったアニメなのだが、不思議な雰囲気をたたえていて忘れがたい。「80 Degrees East of Birdland」(ノルウェー)は、渋い設定も心あたたまるジャズバンドもの。「Lighthouse Keeper」(韓国)も、しみじみとした感動に包まれるCDGアニメーション。ハートウォームな作品でまとめたようだ。
前夜祭では、札幌独自企画の特別プログラムの説明に特に力を入れていた。「札幌インディーズショート」「まるバ会館スペシャル」「札幌スペシャルセレクション」「コリアン・ミュージッククリップ」「ワンドットゼロセレクション」「フレンチ・ショート・ショート」「コリアン・ショート・ショート」の7つ。朝か夜の1回だけの企画。
ラストは、アワード受賞の「Offside」(アメリカ)。今年にふさわしいサッカーがテーマ。第1次世界大戦での実話をもとにした作品で、切れの良い鮮やかな表現力は、何度見ても感動的だ。
★札幌・スペシャルセレクションの紹介(音声) ★フレンチ・ショート・ショートの紹介(音声)
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